テレーザの「これから」
テレーザはどうなる?
「テレーザを医者に診せた方がいい」
と孝太郎が瑛子に言った。
先日、元門下生のノジマに言われて、孝太郎も考えたようだ。
テレーザが正規の旅行者ではないことは家族には話していない。
子供達がどこかで余計なおしゃべりをして、変な噂になっても困る。
魔法使いであることもだ。
「医者にですか?」
と瑛子。
「そうだ、ノジマの病院で診てもらえるそうだ。放置は良くないだろう」
と孝太郎が言う。
その言葉に黙り込む瑛子。
病院で診察を受ければ、テレーザの正体が発覚するだろう。
そうすれば、もうこの家に留まることはできない。
あの子は、美の国の王女だ。
しかし、いまだに記憶が戻らないテレーザをこのままにもできない。
記憶の混濁は長引くと身体に影響を及ぼすと聞いている。
「明日、パートは何時までだ。その後にでもノジマの病院に行くように」
と孝太郎。
仕方ない、孝太郎には話してみるか。
瑛子は決心したように孝太郎に話しかけた。
「あの、あの子。テレーザをなんだけど、美の国の王女じゃないかしら」
と。
一瞬驚いた表情の孝太郎、そしてすぐに
「王女だって?確かにあの子は良家の娘だろう。だが王女だなんて、しかも美の国の。
確かに美の国にはテレーザという王女がいるようだが、あの子は美の国の出ではないだろう、あの容姿だ」
と瑛子の意見に反論した。
「でも、これを見て」
と瑛子がタブレットの画像を見せる。
先日の「姫君格付けランキング」の時のものだ。
シンプルなドレス姿のテレーザ。
歩き方や何気ないしぐさを見ると、家にいるテレーザとどこか似ているような気もしないではない。
二人で画面をのぞき込む、瑛子と孝太郎。
その時、画面に映るテレーザ王女の首元に小さなホクロがあるのが見えた。
「あの子にもあるわ」
と瑛子。
「それじゃあ、テレーザは」
と孝太郎。
「なんてことだ、うちに王女がいるというのか。記憶がない、もぐりの旅行者として」
と孝太郎が言う。
「もぐり、ですって?」
瑛子が驚い手言い返した。
うっかり口を滑らせた孝太郎、
「ああ、職場で調べた。あの子は旅行者名簿には載っていない。正式に認められた旅行者ではないんだ」
と瑛子に真実を告げる。
「調べたの?職権乱用よ。
もしもあの子が王女だったとしたら、なんで旅行者なんかやっているのよ。
美の国のテレーザ王女は体調不良で無期限の療養中なんでしょう?
それがこんな僻地にいるなんて。訳があるのよ、私たちはあの子を守ってやらなくては」
興奮したように瑛子が言うと、
「いや、テレーザには早急にここから出て行ってもらう。巻き込まれるのはごめんだ」
と孝太郎が言い放つ。
「追い出したらあの子はどうなるの?」
「政府が保護するさ。そして美の国に戻すだろう。これで円満解決だ」
この会話の後、深くため息をつく瑛子。
戻す?美の国に?ですって?
この人は何を考えているのだろう。
国に帰ったりしたら、この子がどうなるか、なんて微塵も思ってはいないのだ。
この子は国から逃れてここにいるんだ。
「どちらにせよ、明日、病院に連れて行け。ノジマの話だと記憶を戻す薬もあるようだ。
あの子の記憶を戻して話を聞こう、それから最善だと思う選択をすればいい」
と孝太郎。
「ねえ、テレーザを追い出すの?」
と葵。
見ると孝太郎と瑛子が話していた台所に、葵と尊と駆が揃っていた。
夕食後、それぞれ自分の部屋に籠っている時間帯だ。
それなのに、二人の話声を聞きつけ部屋から出て来たというわけだ。
「追い出すって、うそだろう」
と駆。
「旅行者にそんなことしていいのかよ」
と駆は喧嘩腰だ。
「だから、もぐりなんだって」
と葵
「テレーザがどこの誰でもいいじゃない、もぐりだって旅行者なんでしょ?
だったらここに居させたあげようよ、せめてテレーザが自力で暮らせるまで」
と葵が孝太郎に懇願する。
「もしもテレーザが王女だったとしても美の国はなんの声明もだしていないんだろ?テレーザが旅行者やってるとかの。じゃあここに居ることに問題ないはずだ」
と駆。
3人の子供たちから責められる形となった孝太郎、この状況はまずい、分が悪い。
なんとかあの娘を追い出すことに同意させねば。
「でも、王女ならしかるべき政府の専門部署が保護するべきだろう。へたをすると外交問題になりかねない。そうなったらおまえたち、責任をとれるのか?我々だけでなく、親戚一同とばっちりを受けるんだぞ」
と孝太郎が子供たちに言う。
「誰が何と言おうと、明日、テレーザは病院で診察を受ける。そして記憶を戻す。わかったか」
そう言い放つと孝太郎は自分の部屋に戻り、荒々しくドアを閉めてしまった。
機嫌が悪い時、いつもこうだ。
「ねえ、ママ。テレーザは?」
と葵が不安げに言う。
「あいつはどこへも行かせない」
と駆。
「テレーザを追い出すなら、俺も出て行く」
と駆。
「マジ?」
その言葉に葵がすかさず反応した。
「まあ、お父さんも分かってくれるわよ。でもお医者様には診てもらった方がいいわ。
テレーザの身体が心配だし。
もしも、それであの子を追い出すというなら、みんなで一緒に行きましょう」
と瑛子。
孝太郎を除いた家族4人が団結をした瞬間だった。
その頃、道場の片隅の小さな部屋で眠るテレーザは夢の中にいた。
まただ。
腕をつかまれて走っている。
その先には、だれ?きれいな女性が3人。
そしてふと振り返ると、光の矢がどこかに飛んでいくのが見えた。
そこで、飛び起きるテレーザ。
光の矢、あれはなんだったのだろう。
わからない、しかし胸の鼓動が激しく、そしてとてつもなく切なく、悲しく、悔しい気持ちになっていた。
あの矢を見ただけで。
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