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王宮に仕える者たち

侍女として採用されるのは名誉な事、のようです

ファンタジーワールド(この素晴らし世界)の国々、上位5大王国そしてそのすぐ後に続く国々、

そのほとんどが王国だ。


美の国、ももちろん国王、ジャン・グレゴリーの治める代々続く、王国だ。

その王宮、ディアロポス宮殿、ここはまるで大きな一つの都市のようだ。


国の中枢であり王が執務を執り行う、メインパレスを中心にいくつもの城が軒を連ね、

そこに美の国の政治を司る、内政府、や護衛のための国王直属の軍隊、そして公共機関、

美の国のすべてが集結している。


その王宮の一番奥にあるのが、王とその家族、そして親族たちの居城、

クリスタルパレスだ。


そんなディアロポス宮殿には大勢の人々が出入りをしている。

政府で働く役人たち、軍人、商人、これらの者たちはディアロポス近郊の城下町に居を構え、

そこから通勤している者が多い。


城下町、クラウディアータには多くの貴族も暮らしている。

街並みは洗練され、館は豪華絢爛、美の国の栄華を象徴しているかのようだ。


そして、王宮には王や王族に仕える侍従や侍女たちも多くいる。

そのほとんどは、王宮内に住み込みで働く者たちで、身分も出身地も様々だ。

美の国以外の国から来ている者も多い。


「ええっと、王宮の採用部はどこでしょうか」

ディアロポス宮殿、一番外側の門番にそんなことを聞く少女がいた。


「私、王女様の侍女として採用していただき、ただいま故郷より参上いたしました、えっと、採用番号は2002です」

と少女は続ける。


この時期は王宮職員の新規採用の季節だ。

毎日のように、新人が王宮にやってきていた。


「ああ、君。じゃあ、この先をまっすぐに言って、クリスタルパレスの門番に同じことを言って」

そう言われた少女。

指さされたクリスタルパレスは、今いるディアロポス宮殿の一番外側の門からはるか彼方に小さく見えていた。


「わかりました」

少女はそう言いながら、荷物を背負いさらに王宮の奥へと進んでいった。


歩きながら、その先に遠くに見えているクリスタルパレス。

あそこまで歩くのか。


「ふう」

と少女は思わずため息をついた。


「でもね、私ががんばらないと」

と一人つぶやきまた歩き出す少女。


少女は辺境の小さな国からやったきた。

すでに王制は崩壊し、汚職にまみれる政府がその国の中枢を牛耳っている。

そんな国の片隅で育った少女。

ほんの記念のつもりで応募した美の国、王女の侍女募集で奇跡の採用。

村を出るときには、村人全員が見送ってくれた。


父と母はなけなしの貯蓄をはたき、身支度を整えてくれた。

新しい服と新しい靴、そして日用品。

それらをカバンに詰めて今、彼女は懸命に歩いていた。


どれくらい歩いたのだろう、やっとクリスタルパレスの外壁、最初の門にだどりついた。

目前に迫ったクリスタルパレスは大きく荘厳で、少女を圧倒していた。

少女は門番に先ほどと同じことを言う。

門番はすぐに、城内電話でどこかに連絡を取ってくれた。


すぐに城内専用の小さな馬車がやって来た。

「まあ、あなた、待っていたのよ。迷子になったのかと心配していたわ」

とふくよかな女性がそう言いながら降りて来た。


「さ、乗って。もう採用式典が始まる時間だから急ぎましょう」

そう言いながら少女を馬車に乗せた。


「私は侍女頭のマリアよ、よろしくね」

その女性が言う。


「私、エマといいます。今回王女様の侍女として採用されて」

エマと名乗った少女がそう言い終わらない間に、大急ぎで走っていた馬車が急に止まった。


「さ、降りて」

とマリア。


宮殿に続く外廊下を早足で歩くマリアの後を懸命に追うエマ、

ふと見ると、中庭に一人の少女がポツンとたたずんでいるのが見えた。


「あの子から、感じる」

と心で思うエマ。

しかし、マリアからはぐれないのに精一杯でそのまま通り過ぎた。


クリスタルパレス、宮殿内、大広間のような格式高く重厚な部屋に連れていかれたエマ。

そこには既に大勢の人たちがいた。


同年代と思われる少女たちや、少し年下の少年、そして品の良い婦人たち。

女性が多いが、紳士風の男性の姿もあった。


しばらくすると、室内が静まり返り、にわかに緊張した空気が流れた。

扉があき、誰かが入って来た。


後ろからでは前の人たちに阻まれてよく見えない。

背伸びをしてようやく、

王妃と王女たちが前に並んでいるのが見えた。


「すてき」

とエマ。

前方に並ぶその姿はまるで絵画の様だ、輝いていてただただ美しい。


それから、王妃と王女は後ろに下がり、代わって人々の前に進み出た侍従からここに集まっている新規採用の者たちの配属先が告げられた。


小さな男の子たちは皆、ジャン・ルドルフ王子の「話し相手」だ。

そして同年代の少女たちは自分の名が呼ばれると歓声を上げていた。


「やった、私、フィオナ・クリスティーネ様にお仕えできるわ」


「私はカタリナ様よ、嬉しいわ」

そんな声が飛び交う。


エマの名は、まだ呼ばれない。

その時、エマがふと窓の外を見ると、先ほど通ってきた外廊下に面する中庭が見えた。

さっきの少女がまだそこにいた。

感性を研ぎ澄ませ、その少女に向けるエマ。


「ねえ、あなたはここで朽ち果てるには惜しいわ。さあ、奥に潜むその美しさをここに」

その少女は、枯れはてようとしている、植木の花に向かってそう言っていた。

もちろん、声が聞こえてきたわけではないが、エマには心を読み取る能力があった。


「やはり、あの子には癒しと回復と導きの力がある」

とエマが思った。

と同時に、枯れて今にも朽ち果てようとしていたその花々が息を吹き返すかのように

天を向き、太陽に向けてその花びらを広げていた。


それを驚きの表情でみているエマ、

すると、侍女らしい女性がその少女の元に駆け付けた。

荒っぽく手を引かれ、その場から連れ出される少女。


「テレーザ姫様、こんなところで何をなさっておいでですか。もう内定式典が始まっております。お母上の姉姫様たちも既におそろいですよ」

侍女はそう言いながらその少女、王女テレーザを連れて走り出していた。


「お姫様?、なんだ」

とエマ。


すると

「では、採用番号、2002、エマ、お前は第4王女テレーザ姫の侍女として仕えることを命ずる。

姫と王に忠誠を誓い、命に代えてもその責務をまっとうするように」

と侍従の声が聞こえた。


「あの子、テレーザ様の侍女だって」


「わあ、可哀そうに。せっかく王女様の侍女に採用されたっていうのに」


「テレーザ王女付きなんて、あの子、はずれの採用なのね」


周囲からそんな声が聞こえた。

しかし、エマはその時テレーザの持つ秘めたる力のことに既に気付いていた。


「テレーザ王女、心からお仕えいたします」

嬉しさで顔を紅潮させながらエマはそう思った。

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