「美の国」王家という家族
王の家族たちも集結
「ねえ、ユリアナお姉さま、なんで父上と母上はけんかをしているの?」
そう聞くのはジャン・ルドルフ王子。
険悪な空気を察してルドルフをつれて、別室へと避難したユリアナ・マーガレット王女に、
怪訝そうに言う。
「ぼく、城に戻れば家族みんなが揃うって思ってたのに。
テレーザ姉さまはやっぱりいないし、カタリナお姉さまも何処にいるの?」
とルドルフ。
「家族?」
思わず聞き返すユリアナ。
「そう、父上と母上、それから四人のお姉さまたち」
とルドルフは即答する。
それを聞いたユリアナは、どう返して良いかわからない。
家族って、家族ってなんだろう。
カタリナ・オルセウス、美の国の第三王女として誕生し、次期女王フィオナ・クリスティーネ王女の「両腕」として育てられた。
いつも
「次期君主のお力になりなさい。お姉さまをお支えするのが貴女の宿命です」
と言われ続けた自分のこれまでの人生。
ユリアナという名ではなく、次期王の両腕、それが呼び名だった。
特に、王妃である母からは厳しくそのことを教え込まれた。
自分よりも、お姉さまを優先せよと。
「あなたの事は二の次でよいのです。お姉さまが何をなさりたいか、それを素早く察することが貴女に課せられた使命です」
いつのまにやら、この言葉が頭の中を支配していった。
「テレーザも家族?」
とふと言葉に出すユリアナ。
ユリアナが何とか「自分」を保っていられたのはテレーザの存在があったからだ。
いてもいなくてもどうでもいい第四王女、「ついでの姫君」
「あの子よりもマシ」
その思いがユリアナの唯一の慰めだったのだ。
「え?」
とルドルフが小さく言った。
不思議そうにユリアナの顔を見る。
ユリアナはテレーザをあからさまに疎んじるようなことはしていない。
厳しい事を言うのはいつも、母と第二王女、カタリナ・オルセウスだった。
しかしテレーザが虐げられればそれだけ、自分の立場が安泰になる、そう感じていた。
だから、テレーザがどれほど酷い仕打ちを受けていても、横で見ているだけだった。
こっそりねぎらったり、救いの手を差し伸べることはしたことがない。
この唯一の弟ルドルフとテレーザの扱いの差、これは自分とは比べられないほどあからさまだった。
いつも、自分より「格下」として扱われてきた姉のテレーザを、この小さな王子はどう思っていたのだろうか。
「みんなは何故気付かないのかな?」
とルドルフが言う。
「テレーザお姉さまの心の中には、すごい力があるんだよ。でもそれはね、みんなをとても幸せにする力なんだ」
と続ける。
「ぼくはね、テレーザお姉さまがぼくのお姉さまで本当に良かったと思うんだ。父上と母上それにお姉さまたち。皆がそろって家族なんでしょう?早く元通りになるといいな」
テレーザの心の力。
ユリアナもうすうすと気づいてはいた。でも認めたくはなかった。
あの、テレーザが自分の及びもしないほどの能力を持っているなど、許せなかったのだ。
「そうね」
とそれだけを言うのがやっとなユリアナ。
王と王妃そして姉弟、その存在を「家族」などと思ったこともないユリアナ。
もちろん、「家族」という小さな組織は知っているし理解もしている。
王家に仕えるたくさんの人々には、家族がいて家庭がある。
侍女が自分の夫や娘の話をしているのを聞いたこともある。
お父様、お母様、お姉さま、と呼んではいるが庶民たちがそう呼ぶ相称とは別物だ、そう思っていた。
「でもお姉さまたちは、もう少ししたら嫁いでしまわれるんでしょう?そうしたら新しく家族を作って、
もうぼくと家族ではなくなるの?」
とルドルフが言う。
何の騒動もなければ、今頃テレーザはホイ王子の元に嫁いでいる。
もう、この王家の一員ではない。
それが、このルドルフにとっては、家族ではなくなる、そう思えている。
これも自分とは異なる感覚だった。
「それは違うわ。家族が増えるだけよ。私たちが嫁げばその夫はあなたのお義兄さまになるんですもの」
とユリアナ。
「家族」という言葉をすこし気恥ずかしい気持ちで発するユリアナ。
「そっか、おにいさま、か。楽しみだな」
とルドルフは何処までも純粋な瞳で言う。
「あなたがいつか、妃をめとれば私たちのいもうと、になるのよ」
とユリアナが言う。
まだ、かなり先だとは思うが、いつかはこの小さな王子も婚儀の日を迎えるのだろう。
「妃かあ、ぼくのお妃はねフィオナお姉さまのように美しくて、カタリナお姉さまのように強くて、ユリアナ姉さまみたいに優しくて、テレーザお姉さまみたいに心がきれいな人がいい」
とルドルフ。
「そんな良いとこ取りのお妃、見つかるかしらね」
と笑うユリアナ。
ルドルフの妃、自分の意識で決めることなど出来ないだろう。
テレーザと同様、外交の手段としてどこかの姫君を迎える、そんな未来が見えていたがユリアナは黙っていた。
「さあ、そろそろ戻りましょう。お父様たちの夫婦げんかももう終わっていると思うから」
と声をかけるユリアナ。
「ふうふげんか?」
とルドルフが聞く。
「そうよ、喧嘩するほど仲が良いってことよ」
ユリアナ。
そうは言ったものの、父の母が仲が良いなどと思ったことは一度もない。
「そうなんだね、母上もそう言っているよ、それにいつも父上を愛してる、って言うんだよ」
とルドルフが言う。
嘘ではなさそうだ。
ユリアナたちの知らない母の素顔をこの小さな王子は垣間見ているのだろうか。
その時、母も王妃として何か大切の物を心の奥底にしまい込んでいるのではないか、
そう感じたユリアナ。
「さあ、行きましょう。きっともうすぐ家族が揃うから」
その言葉に笑顔を向けるルドルフ。
その笑顔が、ユリアナにはとてつもなく輝いて見えた。
応援していただけるとうれしいです。




