満月の照らす場所
テレーザとの思い出
ベルデの森にある神殿。
ここは今までも、何度も儀式に使われてきた神聖な場所だ。
ロウソクの灯りがほのかに輝いている。
ベルデの森の中、木を伐り払い造られているその空間は、周囲をうっそうとした木々に囲まれてポツンと取り残されている小島のように見える。
まずはここに現国王、ジャン・グレゴリーと第四王女、テレーザそして彩の国のホイ王子が現れる予定だ。
すでに城の自分の部屋を出て、ベルデの森へと向かっているテレーザ。
国王の到着も迫っている。
神殿の中央に、バレルが一人立っていた。
あの、ついでの王女を君主にしてやるのだ、感謝くらいしてもらいたいものだ。
バレルは内心そんなことを考えている。
美の国の王位継承者から「王家の魂」を盗み出せる。
そう持ち掛けられた。
彩の国の魔法使い、マルクから。
「時期女王が、王位を継げないとなれば残るは国外追放されている第四王女だけが継承者だ。
あの姫は我が王子と婚約している。
第四王女に王位を継承させて、ホイと結婚すれば我が彩の国の王子が美の国の王となる。
国を我がものにしてみないか?」
とマルクは言い寄って来た。
「うまく乗せられたものだ」
とバレルはつぶやいた。
王族の従者になりたかった。
自分自身は、美の国の国境の付近の小さな村の出だ。
地位も財産もない、貧困層に生まれた。
このまま過ごしていても、貧しい農夫にしかなれない。
この村で一生を終わらせるなら、一度でいいから王宮に行ってみたい。
そんな夢を持ち、「美の国、王宮、従者募集」に応募した。
採用試験に合格したときは、天にも昇る気持ちだった。
村を上げてその合格を祝ってくれた。
村人全員に見送られて、クリステルパレスへと向かった。
足取りは軽く、夢と希望にあふれていた。
しかし、王宮で配属されたのは王家とは何の関係もない「食物貯蔵庫担当」だった。
王宮で消費される食糧の在庫を管理する仕事だ。
毎日、パンの数を数え、備蓄しているバターやジャムを点検し、食糧倉庫を何度も見回った。
それが日々の仕事。
王族に会う機会もなく、薄暗い倉庫の中で同じことの繰り返しの日々が過ぎていった。
毎年採用される侍女や従者たちが、配属の儀で歓喜の声を上げているのを遠目で見ながら、
自分は黙々と日々の仕事をこなすだけだった。
「おれ、フィオナ・クリスティーネ王女の馬車係だ」
「私、王妃様付の侍女ですって」
聞こえてくる声は皆王族の元で仕えることが決まった、そんなものばかり。
自分のような、「雑用」に回れれる者もごくたまにはいたようだが、大抵は辞退していなくなっていた。
そんなバレルも一度だけ、王族と鉢合わせしたことがある。
いつものように、貯蔵庫にパンを搬入していた時、
「いつも私たちのお食事を守ってくださってありがとう」
背後からそんな声が聞こえた。
透き通るようなきれいなかわいらしい声だった。
あわてて振り返るとそこにはまだ幼い第四王女、テレーザが立っているではないか。
ただ一人で、侍女も付けず。
この第四王女は、王と王妃からは疎んじられ姉たちとは比べ物にならない地味な容姿、華やかさのかけらもない「ついでの王女」であることはバレルの耳にも届いていた。
が、目の前にるのは、どんなふうに言われていようが「本物の王族」だ。
その姿を見ただけで、威圧感を覚えるバレル。
バレルは驚き慌てて周囲を見回す。
「こんなところに王女が一人でいるだなんて。万一、自分と一緒に話なんてしているところを見つかったら処罰されるのこっちだ」
驚きと、腹立たしい思いでテレーザを見つめた。
「私はね、よく一人で探検するのよ。
心配しないで、私といたからってあなたが罰せられることはないから」
とまるで心の声が聞こえたかのようにテレーザが言った。
「恐れ多い事でございます、姫君。こんなところにお一人でいらしてはなりません。
どうかすぐにお戻りを」
とバレル。
「そうね、すぐ帰るわ。でもどうしてもお礼が言いたかったの。
いつもありがとう、って」
とテレーザが言う
その言葉に心が洗われるように感じたバレル。
王女のひたむきな瞳は強く輝いており何処までも美しい。
これが、「ついでの王女」と呼ばれている姫君なのか。
バレルの目にはテレーザが気高く、気品にあふれた美しい王女に映っていたのだ。
テレーザの前で慌ててひざまづくバレル。
その姿を見て、少しほほ笑むとテレーザは身をひるがえし去って行った。
走り去るテレーザの後姿を見ながら、どこか気持ちが安らいだバレル。
心にかかっていた霧が晴れたかのようにすっきりとすがすがしい。
この出来事の後、バレルは王宮内業務異動試験に合格し役人たちを支える従者として配属された。
王族の元で仕えることは叶わなかったが、王国の中枢部で仕事をするまでに上り詰めたのだ。
そんな遠い記憶を蘇られている間に、遠くに人影を見つけた。
テレーザだ。
美の国、第四王女、テレーザがこちらに向かって歩いてくる。
その瞳は、あの頃のままひたむきで強い輝きを放っていた。
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