準備完了
いよいよ出発
「それにしても、よく似合ってるわね」
と葵を見たフィオナが言った。
レイアの手により、見事にその身を整えた葵。
何処から見ても、美の国王宮に仕える侍女だ。
葵が着ているのは、美の国王宮の王族に仕える侍女の正装だ。
特別な式典や儀式の時のみ着用を許される由緒正しき装束なのだ。
「あなたのお顔立ちだと、この衣裳はどうかしら、と思ったのだけれど」
とフィオナは葵を眺めながら言う。
「この髪型のせいかしら」
と葵。
レイアは葵の髪をきれいにまとめてくれた。
葵はあまり髪が長くはない。
普通の侍女たちのように、一つにまとめるにはまったく長さが足りなかった。
「これを」
とフィオナが葵の髪に、何かを付けた。
櫛かなにかが差し込まれたように感じた葵が鏡でみると、金の髪留めが輝いていた。
「素敵な髪飾り」
鏡を見ながら葵が言う。
「王女の侍女の証の髪留めよ」
とフィオナ。
これを付けていれば怪しまれることなく、侍女として扱われるのだそうだ。
「さあ、男子も準備完了よ」
とそこにレイアの声がした。
背後には、尊と駆。
葵と同じように、ここ美の国王宮の侍従の姿をしている。
こちらも、すこしばかりいかつく見える正装だ。
「これなら堂々と儀式に参加出来るわね」
と尊たちに言うレイア。
そう言うレイアも葵と同様に、正式な式典のときに着用される制服を着ている。
ベテランの侍女らしく、その姿には威厳が満ちていた。
「求婚者が殺到しそうね」
と尊たちを見たフィオナが笑う。
「私の侍女も虜にしているでしょう?」
とフィオナ。
その視線は駆に向いていた。
「いや、そんな」
と駆。
さすがに動揺した様子で答えた。
「ルナのことよね?」
と葵と尊はひそひそと話をしていた。
フィオナ・クリスティーナ王女に仕える侍女、ルナ・ルイーズ。
自分たちに友好的で何かと協力してくれる頼もしい存在だ。
彼女の駆に対する淡い恋心を葵も尊も十分に察していた。
「色男め」
と葵。
葵と尊から、冷やかされてバツが悪そうな駆。
そんな彼に、
「まあ、お若いのですもの、恋は必要だわ。でもわたしの侍女に誠意のないことはなさらないでね」
とフィオナが言う。
そう言えば、葵にも同じことを言われた。
そんなに信用ないのか、俺は。
と、駆は思う。
「わたしの侍女」
そう言い切ったフィオナ・クリスティーナ王女。
ついこの前は、「あれ」と呼んていたのに。
「あなた方から教えられたわ」
葵たちに言い訳をするかのように言うフィオナ。
その顔はどこか優しく穏やかだ。
顔をを見合わせ思わず笑う葵たち。
その様子を見守るフィオナ、いつのまにかその背後にはレイアが控えていた。
フィオナ・クリスティーネ王女、その後ろにレイアと葵、そして尊と駆が従う。
一瞬の沈黙の後、
「さあ、そろそろ参りましょうか」
とフィオナ・クリスティーネ王女が葵たちを見ながら静かに言った。
クリスタルパレス、上層階、テレーザ王女の部屋。
「そろそろね」
とテレーザが言う。
満月が夜空の上空に現れたのを感じたのだ。
控えていた侍女たちが一斉にテレーザの側に来た。
そして、侍女たちのリーダー、カロリナが一歩前に出て言う、
「テレーザ王女、参りましょう」
と。
そしてそう言いながら、王女のガウンを羽織らせるカロリナ。
その時、テレーザの耳元で、
「わたくしどもが従わせていただいて、本当によろしいのでしょうか」
と小さな声で言うカロリナ。
カロリナは自分たちがテレーザ王女の正式な侍女ではないことは十分に承知している。
このような重要な儀式には、昔から仕えている侍女が傍にいる方がどれほど良いだろうか。
「美の国王女の侍女として振舞え」
とだけ命じられてここにいるカロリナたち。
しかし、テレーザと接するうちにいつのまにやら、テレーザの心中を察するようになっていた。
「かまわないわ」
と静かに言うテレーザ。
表情を曇らせることもない。
そんなテレーザを見て、カロリナは増々、王女の胸の内を思った。
顔には出さないが、内心、どれほど心細い思いをしているのだろか、と。
「精一杯、お供させていただきます」
とカロリナ。
すっかりテレーザの健気な姿に胸を打たれ、こう言うのがやっとだった。
そんなカロリナの心情知る由もないテレーザ。
「これでやっと、ケリがつかられる」
とポツリとこぼした。
思わずテレーザの顔を見つめるカロリナ、
そこには、何かをたくらむかのようにほくそ笑む、テレーザ王女の姿があった。
応援していただけるとうれしいです。




