「美の国」テレーザの願い
儀式が迫る
「願い?テレーザの?」
と瑛子が聞き返した。
するとアルとレイが静かに語った。
「それはテレーザの意思なんですね?」
と孝太郎。
深く頷くダイナ夫妻。
「では、テレーザの意のままに。私たちは従います」
と瑛子が言った、その顔は少しだけ寂し気だ。
「それでは、あなた方の出番までしばらく休まれるがいい」
アルがそう言うと、孝太郎と瑛子を別室に案内した。
居間と同じようにソファとテーブルがある。
客間のようだ。
チョビはレイに用事を言いつけられ、ダイナ夫妻と共に居間にいる。
しばらく、がどれくらいなのは孝太郎にも瑛子にもわからない。
「いつでも出かけられるように」
と孝太郎が言い、
少しばかり気を張りながらソファで休むことにした二人。
テーブルには分厚いアルバムが置いてあった。
何気なく手に取る瑛子。
そこには幼い頃からのテレーザの写真がたくさん貼られている。
その一枚一枚にレイの手書きのメッセージが添えられていた。
「テレーザ王女、初めての外出」
「王女の歯が生えてきた」
「テレーザ王女はピンクよりも水色が好き」
「王女のお友達」
そう書かれたいた写真には、森の魔獣を抱きしめている幼いテレーザが写っていた。
「アルさんもレイさんも、テレーザの事をとても愛しているんですね」
このアルバムから、あふれんばかりのテレーザへの愛情を感じた瑛子が言う。
孝太郎と瑛子も子供たちの成長記録をアルバムにして残している。
それと変わらない愛情にあふれたこの一冊。
テレーザを愛し、守っていた人物が美の国にもいたことに安堵するとともに、
本来なら、両親がするべきことなのに、と改めてテレーザと王夫妻である両親の立場が自分たちとは大きく異なることを感じていた。
「あと少しの間ですね」
そういう瑛子に、
「そうだな、寂しいが仕方ない」
と孝太郎が答えた。
ー王宮地下5階ー
「ほら、チョビがいなくてもフリーホール、使えたわね」
と葵が言った。
テレーザの部屋のある上層階から、秘密の落とし穴を落下した葵、尊、駆。
前回はチョビがいたが、今は3人だけだ。
地下5階で落とし穴から抜けだせるか心配だったが、
何とか上手くいったようだ。
「第一王女様のお部屋はと」
と駆が先頭きって進んでいく。
かなり複雑な経路を、迷うことなく進む。
どういうわけか、道順をわかっているようだ。
「ダイナさんの力?」
と尊が言うが、
「違うわ。ダイナさん、ここまで力を飛ばすと、バレちゃって妨害されるって」
と葵。
「駆がばっちし覚えてるのよ」
「そりゃあ、姫君救出の立役者になれるとあれば、張り切るさ」
と先頭の駆が言う。
「あらま」
とあきれ顔の葵。
「ここだな」
と尊が古びた扉の前で言った。
あらかじめ決めておいたリズムで扉を叩く尊。
するとほどなく静かにその扉が開かれた。
部屋に招き入れたのは、美の国第一王女、フィオナ・クリスティーネだ。
相変わらず、一歩中に入ると外とはまるで別世界のようなきらびやかな部屋だ。
「いよいよ満月ね」
とフィオナが言う。
フィオナは既に身支度を整えており、後は外出用のマントを羽織るだけだ。
髪はきれいに結い上げられて、小さな宝石の飾りを付けている。
「誰が?」
と葵が疑問に思う。
王女のお支度は大勢の侍女が行う。
しかし、ここにそんな侍女たちの姿がないからだ。
「城内には秘密の経路がいくつでもあるのよ。だから出入りなんて自由なの」
と葵の疑問をさっしたようにフィオナが言った。
目の前にいる、フィオナ・クリスティーネ王女。
この上なく美しい。
テレーザも優雅だとは思うが、まるで異次元、絵画のような美しさだ。
この前の「普段の姿」でも圧巻の美貌だったが、今はそれを上回る。
尊と駆は声も出せないでいる。
「そんなに驚かないで。美の国の王女はみんなこんな感じよ。
テレーザが異質なだけ」
二人の様子を察したフィオナが言う。
「あの、お伺いしてもいいですか?」
とフィオナの言葉を聞いた葵が言う。
「ほかの王女様方はどこに?」
と優しく頷いてくれたフィオナに葵が言った。
第二王女と第三王女、そして王妃に王子。
みな、今夜は儀式に現れるのだろうか。
「そうね、母上とユリアナ、ルドルフは退避先から戻ってくるわ。
お父様のご命令だから。でも」
とフィオナ。
第二王女、カタリナ・オルセウス。
この王女はどうやら反体制側と共にいるという。
「あの子はね、私とテレーザが嫌いなのよ」
とフィオナ。
三人の姉たちが、テレーザを疎んじていた、それは知っている。
しかし、それでも消滅させられる寸前で、逃がしてくれたのは姉たちだ。
特に、第二王女、カタリナの力で倭の国に逃げることができた。
そう聞いていた葵たち。
フィオナの言葉は意外だ。
「フィオナ様のことも?」
と思わず口に出す葵。
将来、第一王女が女王となれば、第二、第三王女がその「両腕」として女王を支える。
これが王家のしきたりだ。
「両腕」として相応の地位も確立されている。
それなのに、第一王女が嫌い、だなんて。
「私が王位に就くのが許せないのね」
とフィオナ。
「私が王家の魂をなくしてしまったのも、彼女にはめられたからよ」
とフィオナが言った。
国王の話では「ささいな親子喧嘩」のスキを突かれた、そうだがそうし向けたのがカタリナだと言うのだ。
「だから、テレーザが私の王家の魂を譲り渡す、これを全力で妨害してくるわ。
手はず通り、抜かりなくやりましょう」
とフィオナが葵たちを見つめて言った。
今までの優雅で穏やかな口調とは打って変わって力強く、厳しい口ぶりで。
応援していただけるとうれしいです。




