美の国へ 移動
いよいよ移動
「えっと、このあたりで待っていればいいのよね」
とマルグリッタ。
ここは美の国の王宮奥にあるベルデの森。
その足元には小さな犬、いやユニコがいる、チョビだ。
「おまえ、倭の国の者か?」
とチョビいきなり声をかけられたマルグリッタ。
ちょうど、満月の今夜のためテレーザの支度をするため彼女の部屋に向かっていた時だ。
倭の国、マルグリッタの故郷だ。
ここでその名を聞くことは少ない。
思わず振り返るが、そこにいたのは小さな犬。
「なんでわんちゃんが?」
とマルグリッタ。
「わんちゃん、ではない。我は」
とチョビ。
その言葉を最後まで言う前にマルグリッタはチョビを抱き上げていた。
「かわいいね、きみ」
そう言いながら。
「で、きみはなんで私が倭の国の出身っわかったのかなあ?」
と続けるその言葉、とても甘ったるい喋り方だ。
「ねえ、おしえてよ」
そういうマルグリッタに抱きしめられているチョビ。
身動きすらできない。
「おい、離せ」
そう言うのが精いっぱいのチョビ。
しばらくしてやっとマルグリッタの腕から抜け出すと、
「おまえ、ここで待っていろ。あと少ししたら倭の国から人が来る。
ここはゲートの出口だからな」
とチョビが言う。
「それで?」
とチョビの話に興味を持ったマルグリッタが言う。
「私はどうすればいいの?」
と。
「テレーザの元へ連れて行ってほしい。侍女のお前にならそれも可能だろう」
とチョビが言う。
「その人たち、王女とどんなご関係なの?」
とマルグリッタが聞くが、
「お前が知る事ではない」
とチョビは冷たく答える。
「私、すごく協力する気あるんだけど、そのためには少しくらい状況を教えてほしいなあ」
とチョビを撫でまわしながら言うマルグリッタ。
「やめろ、気やすく触るな」
とチョビが抵抗の声を上げるが、尻尾は嬉しそうに左右に揺れていた。
どうやら、信用できる人物だ。
チョビはそう判断した。
この侍女はテレーザの味方だ、チョビの直感に誤りはない。
「ならば、少しだけ。その方々はテレーザの夢を叶えられる方々だ」
とチョビ。
「そうなのね、私でも力になれるかしら」
とマルグリッタがつぶやいた。
テレーザ王女、その存在などどうでもいい「ついでの王女」と聞かされていた。
それなのに、実際のテレーザ王女は。
気高くて、誇り高くて、何よりも慈愛に満ちている。
素晴らしい王女だ。
マルグリッタはいまやテレーザをすっかり崇拝しているのだ。
「じゃあ、そのお役目、しっかり務めさせていただくわね」
とマルグリッタが張り切って行った。
「そろそろだな」
とチョビ。
ゲートの出口と言われた森の木々の合間に光が差し込み始めた。
出口が開く前兆だ。
ー倭の国、セレブ御用達専用ゲート前ー
「フィル・グレン侯爵の侍従から連絡があってね、君たちをこちらに寄こせないかと」
とカミヤマが言う。
「今更、あの子が侯爵だなんて思ってはいないけれど、侍従さんがあまりに必死だったの」
とショウコ。
「我々は何も聞かずに、侍従の言葉に従うのみだ。
それがあの若者たちの未来に繋がるのなら」
とカミヤマ。
「若者たち?」
と孝太郎が言うと、
「我々のもとに滞在した、彩の国、ホイ王子と君のところにいた美の国王女、テレーザ様だよ」
とカミヤマは穏やかな顔で言った。
「知っていたのか、テレーザの正体を」
と孝太郎が言う。
「最初はどこかの旅行者だと思っていたんだが。あの振る舞い、やはりただの娘ではないだろう」
とカミヤマ。
その後、財力を使いその素性を調べたようだ。
王族とつながりをもつ。
これは貴族制度のない倭の国では、とてつもなく強靭なコネクションだ。
「事業のために、最初はそう思っていた」
とカミヤマ。
「でも」
と口ごもる。
まだ未成年であるテレーザの素性を調べ上げ、あわよくばそれを利用しようと考えた。
それが、今となってはカミヤマにとっては汚点のように感じているからだ。
「身分を隠してここに来ているなんて、訳があるに決まっている。
だから、偶然でも知り合いになった以上、少しは力になりたい、そう思ったの」
とショウコがカミヤマをかばうように言った。
「いま、自分たちがやることは、お前たち二人を安全に確実に、そして出来るだけ早く美の国へ送り届ける事だ」
とカミヤマ。
「これを」
とショウコが一枚のカードを瑛子に手渡した。
セレブゲート使用許可証だ。
「これがあれば、もしもどこかに迷ってしまっても、再度ゲートが使用できるわ。
だから、これ、持って行って」
とショウコ。
セレブゲートの乗降フリーパス。
カミヤマ家といえども、かなりの貴重品だ。
それを託す、カミヤマ夫妻。
「ありがたくお借りする。必ずテレーザとホイ王子のところにたどり着くよ」
と孝太郎が言う。
そして、開かれたセレブゲートの入り口をくぐる孝太郎と瑛子。
静かにドアが閉まると、まぶしい光と共にゲートが一瞬にして見えなくなっていた。
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