満月の夜
いよいよ満月の晩
いよいよ今夜、満月の下で王より王位がテレーザに引き継がれる。
打ち合わせ通り、葵と尊、駆は再び城の地下に潜入し、第一王女、フィオナ・クリスティーネを連れ出す。
ダイナ夫妻も「こっそりと」城に入り、密かにテレーザたちを護衛し不測の事態に備えてくれる。
国王は、エリアルド王妃と第三王女、ユリアナ・マーガレット、ジャン・ルドルフ王子の潜伏先に、書状を送り、今夜の儀式に参加するように伝えた。
母たちとは別行動をとっている、第二王女、カタリナ・オルセウスにも王自ら書状をしたためた。
「まあ来るかどうかはわからないけどね」
とテレーザが言う。
「私に王位が引く継がれるなんて、お母様からしたら絶対に認められない事態だから」
と顔を曇らせる。
「でも、本当の展開を知れば、お母様も喜ぶわよ」
と葵。
その後の事とは、
王家の魂を姉、フィオナ・クリスティーネ王女に譲り渡す。
そうすればすべて元通り。
テレーザはいつものテレーザに戻ることが出来る。
母は少しくらい感謝してくれるだろうか、
淡い期待を胸に抱くテレーザ。
王妃である母は、「王家の魂」は第一王女、フィオナ・クリスティーネとテレーザの2人しか持っていない、そのことを知っているはずだ。
それをいつも不満だと国王に漏らしていたのだそうだ。
「何故テレーザに」
と。
明るい表情になったテレーザがまた少し顔を曇らせた。
母たちに、この計画を事前に打ち明けることはできない。
どれだけの罵声を浴びせられることやら。
口に出さなかったにしろ、母の不満は心が感じる。
第三王女の姉、ユリアナ・マーガレットとしても、不服しかないことだろう。
そして、弟は。
ジャン・ルドルフも母と同調してしまうのだろうか。
段々とうなだれていくテレーザ、
それを見ていた葵。
「パパとママもこっちに来る準備万端だって」
と明るく言う。
「いつ連絡とったの?」
とテレーザ。
「チョビだよ」
と尊が言う。
「チョビレーダー」
と駆。
今ここに居るチョビにはごく限られた範囲ではあるが、遠く離れた場所の様子を探ることが出来る。
チョビの前世、ユニコのガイナにもあった能力だそうだ。
チョビが言うには、荷物を抱えた瑛子と孝太郎の姿が見えたというのだ。
「じゃ、俺たちはそろそろ地下に潜る」
と尊。
その言葉に続くように、駆と葵も立ち上がり、テレーザの部屋を出て行った。
「道はわかってる。私に任せて」
と葵が言いながら廊下を進んでいった。
「今宵も、姫のお衣装を選ばせていだだけること、この上なく光栄でございます」
とテレーザの前でひざまずきながら侍女が言う。
「反体制側」にいるバレルが差し向けた侍女のリーダー、カロリナだ。
葵たちと入れ替わるように部屋に入って来た侍女たち。
まずはテレーザの前で一礼をしながら、今夜テレーザの身支度を整えるべく動き回る。
カロリナは衣装室で何やら物色中、他の侍女たちは風呂の準備を始めた。
「またお風呂」
とテレーザ。
「今宵は神聖な場に向かわれるのです。身を清めてお支度を」
と侍女の一人が言う。
「マルグリッタにお願いするから」
とテレーザ。
その視線はマルグリッタを探す。
「今日はここにはおりません」
と侍女が言う。
そう、マルグリッタの姿が見えない。
「どうしたんだろう」
と思わず声に出すテレーザ。
「それば存じません」
と侍女は冷静に言う。
仕方なく、マルグリッタではない侍女に世話をされながら風呂に入るテレーザ。
なんとも落ち着かない。
身体を洗い、髪を洗い、
そのすべてを侍女がやる。
増々落ち着かない。
こんなこと、自分で出来るのに。
湯から上がり、侍女により身体を拭かれ、全身にボディローションを塗られる。
指先にクリームをつけ爪をオイルでコーティングする。
数人がかりで髪を乾かしながら、結い上げていく。
そこに、ドレスを抱えた侍女のリーダー、カロリナが入って来た。
「今夜はこちらでどうでしょう」
とドレスを掲げながら言うカロリナ。
「なんで、これを選んだの?」
とテレーザがカロリナに聞いた。
「あの、それは」
とカロリナが口ごもる。
「今夜の王女に一番お似合いかと思いましたので」
と小さな声で言うカロリナ。
「責めてるわけじゃないのよ。センスのいい選択だわ」
とテレーザが言う。
「ありがたきお言葉で」
とカロリナ。
カロリナが選んだドレス、それは母、エリアルド王妃がテレーザの婚儀が決まった際、
ホイ王子の元への輿入れの支度の一つとしてあつらえたものだ。
今まで一度も袖を通したことがない。
多くの取材陣の前で、このドレスを披露していた王妃。
その顔は幸せそうで、そして誇らしげだった。
あの時の母は、
「嫁ぐ娘のために細心の心配りをする母」
そのものだった。
本心なのか、表向きだけだったのかは、今となってはもうわからない。
その時のテレーザは母の心を察する気持ちなど持ち合わせてはいなかった。
形式だけの微笑み、母としての喜びに浸ることに酔っている、
そんなことを知りたくなかったのかもしれない。
薄い紫の落ち着いたドレス。
決して派手ではないテレーザの顔を最大限に引き立てるようなデザインだ。
もちろん、最高級の生地で作られている。
「少しは、私の事を思っていてくれたのかしら。」
とテレーザ。
「さあ、こちらへ」
とカロリナと侍女たちがそのドレスをテレーザに着せた。
その頃、ベルデの森で、
テレーザの側にはいなかったマルグリッタの姿があった。
「ここどこよ」
とマルグリッタ。
「城の裏にこんなに広大な森があるなんて」
とあたりを見渡し言うマルグリッタ。
「ここで待っていればいいのよね?」
と足元の小さな動物に言う。
マルグリッタが声をかけた小さな動物、そこにはチョビの姿があったのだ。
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