「美の国 王宮」満月まで
あと少しで満月の夜
「とにかく、あとは満月の夜を待つだけ、よね」
と葵。
「そうね」
と答えるテレーザ、少し上の空だ。
葵と尊、駆の三人で、これからの事を話している。
ーどうしたら、平穏に過ごせるのか― と。
満月の夜、父である現国王より正式に王位を承継するテレーザ。
バレルたち、反体制側としてはテレーザが王座を受け継いだら、そのままホイと共に美の国の君主とする、そう目論んでいる。
一方、テレーザとホイ、そして国王はその場で第一王女、フィオナ・クリスティーネにテレーザの持つ王家の魂を引き渡し、フィオナを正式に次期女王とする。
それが目的だ。
しかし、テレーザの持つ「王家の魂」これは倭の国にいる都留田夫妻、孝太郎と瑛子の同意がなければ
どうすることも出来ない。
二人はテレーザの正式な後継人なのだから。
いずれにしても満月の夜、孝太郎と瑛子にここ美の国に来てもらう必要があるのだ。
都留田夫妻が、バレルたちではなくテレーザの希望を叶えるのは明らかだ。
妨害は心配されるが、ダイナ夫妻が防いでくれるだろう。
テレーザはなんとも落ち着かない。
一刻も早く、自分の「王家の魂」を姉に譲り渡してしまいたい。
そして、気になるのははるか美の国まで呼びつけることになる孝太郎と瑛子だ。
葵たちだけでなく、一家そろって自分のために危険な目にあわせてしまうことになる。
美の国に戻ってから、さほど時は経ってはいないが、瑛子たちと別れて随分長い時間が過ぎたように感じる。
孝太郎と瑛子、い今頃どうしているだろう。
葵たちの事をさぞかし心配していることだろう。
そして、自分の事も心配してくれているだろうか。
倭の国に行ってから、テレーザは初めて「心配」されることを知った。
今までは、美の国第四王女として、一応はその身を案じてもらっていた。
公式に城外に出るときには大勢の護衛が付き、常に厳重な警備体制が敷かれていた。
「姫君の護衛っ聞いて喜んだら、テレーザ様か。なんかがっかりだ。
でも何かあれば俺たちのせいだから、しっかりお守りするけどな。
まあ、あの第四王女に限って狙われることはないとは思うんだけどな」
警護兵のそんな会話が聞こえていた。
テレーザが万一危険な目に合えば、罰せられるのはその護衛たちだ。
国王と王妃、そして姉たちからもテレーザのその身を「心配」していると感じたことはない。
今思えばレイアは少しは自分の事を案じてくれていた。
口うるさくて嫌だったけれど。
それから、エマ。
エマはやはりテレーザにとって特別な存在でエマにとってもテレーザは特別な存在だったはずだ。
「ねえ、テレーザ聞いてるの?」
と葵に言われて我に返るテレーザ。
「そういえば、おじ様たちはどうしてるの?」
とテレーザが言う。
「俺たちもここに来た頃、一度連絡を取ったけどそれっきりだ」
と駆。
「でも、お前の王家の魂については、オルト爺たちが話しているはずだから、
ここに来る気まんまんだろうな」
と続ける駆。
「そうよ、そもそもパパとママがここに乗り込もうをしていたんだもの」
と葵。
「なんとしてもお前を取り戻すってね」
と尊が少し照れたように言う。
尊も同じ思いだったからだ。
「また、みんなでスーパーマーケットロイヤルでお買い物したいよね」
とテレーザが言う。
「母の日」に振舞ったテレーザの手料理。
そのためにみんなで買い物をした。
瑛子にはサプライズだったから、今度は瑛子も含めてみんなで買い物に行きたい。
「そんな日常に戻りたい」
とポツリと言うテレーザ。
「あのさ、あの超セレブスーパーで値札も見ずに買い物するのってぜんぜん日常じゃねえし」
と駆が言う。
「そうよ、私たちが食べたこともない食材をふつーに選んで、ほんとにお育ちの違いを思い知ったわよ」
と葵も言う。
「そんなつもりじゃ」
とテレーザ。
「スーパーマーケットロイヤルなら、俺が魔法学の第一人者として認められたら何度でも連れて行ってやるよ」
と言うのは尊だ。
「いつになることやら」
と葵が言いながら、テレーザの方を向きなおった。
「パパとママ、あんたの事をすごく心配しているわ。
でもね、あんたの父上、要は国王陛下もあなたを案じているわ」
と続ける葵。
そう言われたテレーザは、驚きの表情だ。
「さっき、直接お会いしてわかった」
と葵。
「あんたのお父様、あんたの事はちゃんと心配してるわよ」
そう言う葵に、
「そうかな。そんな風に感じたことないけど」
とテレーザが言う。
「それはね、お互いの立場がそうさせちゃったんだと思う」
と葵。
「テレーザ、あんたもあんたのご両親も姉弟も、いわゆる普通の人ではないのよ。
だから私たちより、ずっとわかりにくいけれど、少なくともお父様とお姉さんはあんたの事を案じてるわ」
葵は、直接自分の目で来た国王と姉に対してテレーザに関する気持ちを探ろうとした。
身内で、実の姉からしてもテレーザは本当に「ついでの王女」なのかと。
しかし、葵は感じることが出来た、国王にも、姉、フィオナ・クリスティーネ王女にも
心の奥底にテレーザに対する慈愛の念が潜んでいることを。
「だからねテレーザ、自信をもって。あんたは家族から愛されているんだよ」
と葵が言う。
ーなんだか耳がこそばゆいー
葵の言葉はテレーザにそう響いていた。
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