「美の国 王宮」友達から
ホイとは?
「お戻りで」
とバレルが言う。
ここはクリスタルパレス、上層階にある「威厳の間」だ。
譲渡の儀を開始する直前に、テレーザが父である国王に帰国の挨拶をしたい、
そう言いだしたのだ。
しかも、「二人きりで」と言い残し、ここ威厳の間がら姿を消した。
「気が済まれましたでしょうか」
とバレルがテレーザに言う。
少し嫌味にも聞こえる。
そこに、
「待たせたな」
と国王が一言。
その言葉を聞いたバレルを始め、その場にいた全員が一瞬にして姿勢を正し、そして首を垂れた。
王の言葉の威厳は相当なものだ。
国王が前方中央の玉座に座ると、テレーザとホイも用意された椅子に座った。
テレーザの身支度を請け負った、侍女マルグリッタの目算通り、テレーザのドレスは座っても型崩れせず、長いスカートが流れるようなドレープを描いている。
隣に座ったホイ、テレーザの姿を目を細めて見つめる。
そして、二人はお互いに顔を見合わせて静かにうなずいた。
つい先日の事。
ホイ王子とテレーザ王女、
これから共に国を治めるもの同士として、「お近づき」になるためにともに食事をし
城の周囲を散策した。
ここ、美の国で再開した二人。
ホイ王子にテレーザがかつての婚約者だった、という認識はない。
身分を隠して、旅行者になった時に、親しくなった「友だち」という認識もない。
それを察したテレーザは、本来のホイに戻すためにベルデの森のダイナ夫妻の隠れ家に
彼を連れて行ったのだ。
ホイ王子の従者や魔法使い、マルクの監視を潜り抜るのは、至難の業だが、
ベルデの森にはダイナ夫妻によりテレーザとホイのための秘密の順路が用意されていた。
ダイナ夫妻の隠れ家で、ホイは今までの自分を取り戻した。
忘れていた記憶、忘れていた思い出。
そのすべてを。
そして、それを悟られないための防御が施された。
「これ、当たり前みたいにやってくれましたけど、すごい能力ですよね」
とホイが言った。
「でしょう、私の師匠。さすがでしょう」
とどや顔で言うテレーザ。
「なんだか、頭の中の霧が晴れたようよ。
ねえ、テレーザ、こんな陰謀は早くけりを付けて、もう一度僕と」
とホイ。
その姿は、頬を赤らめて、少しばかりもじもじとしている。
「あら、私たちは外しましょうか?告白にはおじゃまよね」
とその場にいたレイがアルの腕を引っ張りながら言った。
ホイとテレーザ。
二人だけになった、ダイナ夫妻の隠れ家、その居間。
ホイはテレーザの手を取り、小さな声で
「僕は、あの絵を見たときから君に恋をしていたんだ、
だから、この件が片付いたら、僕とお付き合いしてもらえないでしょうか」
とホイが言った。
「ありがとう」
とテレーザが答える。
今までのテレーザなら「仰せのままに」としか答えなかっただろう。
でも今は、
「でも、私たち、お互いにもっと知る必要があるわ。まずは友達から」
とテレーザ。
テレーザの返事に、一瞬がっかりとした表情のホイ。
でもすぐに、納得したように、自分を納得させたように軽く頷くと、
「そうだね、そうだよね。
友達で、ぼくと友達になってくれますか?」
とホイが言った。
テレーザも笑顔でこくり、とうなずいた。
「また、なぎさ公園に行きましょうよ」
とテレーザ。
するとホイは、
「今度は二人で行こう」
と答える。
葵とテレーザとホイ。
この3人で行ったなぎさ公園。
ホイにとってもテレーザにとっても、とても楽しい一日だった。
「でもさ、あれって葵を誘ったんだよね。私はオマケで一緒に行ったんだけどな。
ホイ、葵の事好きだったんじゃないの?」
とテレーザ。
「あ、葵さんは良い方ですよ、とても。でも、でもですね、ぼくはテレーザ、君の事が」
と少々うろたえるホイ。
フィル・グレンと名乗っていた倭の国でのホイ。
倭剣術の道場で出会った葵に好意を持っていた、これは本当のところだ。
「あの時は、もうテレーザに会えることはないそう思っていたし、マルクに君の事が分からなくされてたし、だから」
とホイ。
「そうだったわね」
とテレーザが言った。
この件が済んだら、なぎさ公園でデートをする、と決めた二人。
ホイの方が幾分か熱心ではあるが。
しかし、テレーザも頬を赤らめて、ホイと二人で話をしていたようで、
しばらく中座していたダイナ夫妻が今に戻るなり、
「テレーザ?」
と驚きの声を上げたのだ。
そして、アルとレイがお互いに顔を見合わせた。
「テレーザがこんなに感情を顔に出すなんて」
こんな心の声が二人同時に響いていた。
ダイナ夫妻から、出来る限りの情報を聞き、この先あるだろう「譲渡の儀」での対策を練った。
ホイも「王位継ぐこと」に関してはテレーザと同じ考えだった。
そしてやってきた「譲渡の儀」その当日。
王の座るよ玉座に向かい合うように用意された椅子にホイとテレーザがいる。
一瞬見顔を見合わせた二人は、
「さあ、さっさと終わらせよう」
と心でつぶやいていた。
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