「美の国 王宮」支度は着々と
父との再会は目前
テレーザ王女の部屋、その衣装室。
「譲渡の儀」のためのドレス。
これを選んだのは、リーダーらしきあの侍女だ。
「テレーザ王女のお召し物を選ばせていただき光栄でございます」
とその侍女が頭をさげる。
すべてをマルグリッタに任せたいところだが、ここは彼女を立てておいたほうがいい。
そんな駆け引きはテレーザにも出来るようになっていた。
「お願いするわ。あなた、お名前は?」
とテレーザが言う。
「わたくし、カロリナと申します」
とその侍女が言った。
その声は少し震えている。
カロリナがテレーザ王女の衣装室から選んだのは、クリーム色の絹のドレス。
それに合わせて首元には華美にならない程度のネックレス、そして耳元にはお揃いの宝石が使われたイヤリングを。
そして結い上げた髪には、花飾りを用意した。
花飾りはテレーザの希望だった。
「ティアラじゃなくてよろしいのですか?」
とカロリナが聞いたが、テレーザはこれでいいと言い張ったのだ。
テレーザの持つティアラ。
用途に応じていくつかあるが、それらはすべて「美の国王女」としての立場を現すものだ。
今夜の譲渡の儀、自分は美の国王女として正式に認められているのだろうか。
それすら疑問だ、だから花飾りが無難だろう。
鏡のまえのテレーザ王女。
その姿は優雅で美しい、カロリナもマルグリッタも目を見張った。
「美の国の王女らしからぬテレーザ王女」
だと聞かされていたからだ。
「ありがとう、カロリナ。仕上げはマルグリッタにお願いするわ。
あなたは儀式の準備をお願い」
とテレーザが言う。
カロリナは自分が選んだ衣装に身を包んだテレーザ王女に満足したのか、
マルグリッタに後を託して、衣装室を出て行った。
「さあ、テレーザ王女、これでよろしいかと」
と鏡の前に立つテレーザに言う侍女、その側にはマルグリッタがいる。
譲渡の儀が始まる時間が迫っている。
葵たちが戻ってくる気配はまだ感じられない。
「王女?」
とマルグリッタが声をかけるが、テレーザはどこか上の空だ。
「何かご心配でも?」
とマルグリッタが小声で聞いた。
「そんな風に見える?」
とテレーザが逆にマルグリッタに聞いたが、
「顔に書いてるレベルですよ」
と言われてしまう。
「さあ、仕上げを」
とマルグリッタに言われて、鏡台の前に座るテレーザ。
椅子に座った姿を、マルグリッタが細部まで確認する。
儀式はほぼ着席で行われる。
その際に、この衣裳が、テレーザがどう見えるか、それを細かくチェックしているのだ。
「こう言う時は常にティアラをお付けになるのかと思っておりました」
ふとマルグリッタが言う。
「そういうわけでもないのよ」
とテレーザ。
王家のしきたりをマルグリッタは詳しくない。
やはり、王国出身ではないからだろうか。
倭の国の出身だというマルグリッタ。
葵たちとも仲良くなれそうだ、そうテレーザは思っていた。
「お支度はいかがでしょうか」
と衣裳部屋の外から声がした。
他の侍女たちが、テレーザを待ち構えているようだ。
「さあ、行きましょう」
とテレーザが立ち上がり、マルグリッタを従えて衣装室を出た。
「まあ、なんて美しいのでしょう」
と侍女たちがざわめいた。
ここにいるのは、テレーザが誰一人として顔もしらない侍女ばかりだ。
マルグリッタの話だと、みな彩の国から来ているらしい。
彩の国にいたのなら、自分の評判は知ってるだろう。
「美の国の第四王女、ついでの王女」だ。
そんな侍女たちが、うっとりするような視線を自分に向けている
侍女たちの感嘆の声を、すこしばかりくすぐったい思いで聞いているテレーザ。
どうも気恥ずかしい。
「カロリナの選んだこのドレスのおかげよ」
とテレーザが言う。
カロリナはと言うと、満足げにテレーザを見つめながら、思いがけず「褒めて」もらうことになり恐縮した様子だ。
「もったいないお言葉を」
とカロリナ。
そして表情を改めると、
「さあ、そろそろお出ましを。威厳の間の準備が整ったとのことです」
とカロリナが改まって言った。
「間に合わなかったか」
とテレーザが心で言う。
「仕方ないか」
と。
「では、参りましょう」
とテレーザ。
部屋を出て、廊下を進み「威厳の間」へと向かう。
そこで、父である国王に会えるはずだ。
テレーザは父に会える、それがとても嬉しく思っている、そのことに安堵していた。
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