「美の国 王宮」地下5階
地下5階にあったものは?
魔鳥たちに誘導されてやってきたところに、小さな扉があった。
壁とほぼ一体化しており、よく目を凝らさないとそれが扉だとは気づかない。
しかも、かなり小さい。
小さな正方形だ。
これでは身をかがめてもやっと人がひとり通り抜けられるかどうかだ。
扉と中の様子を慎重に伺う尊。
しかし、かなり厚いこの扉、その扉の奥がどうなっているのか、全く察することが出来ない。
「気配はするんだが」
とチョビ。
鼻をぴくぴくさせてはいるが、確信は持てないようだ。
「あてにならない鼻だねえ」
と駆がからかうように言う。
しかし、チョビの周りにまとわりついている、魔鳥たちは明らかにここが他所とは違う、
そう訴えている。
「ここに、いるのね」
と葵が小鳥に話しかける。
その黒い小さな魔鳥たちは、葵の肩にとまると唄うようにさえずった。
小鳥の歌声が、薄暗い廊下にこだまする。
すると、扉の奥から物音がした。
小さな、重厚な扉がそっと開かれた。
錆びついた音が、湿っぽくほこりの舞う廊下に響き渡る。
「さあ、どうぞ」
と扉の奥にいた人物が言う。
扉の奥は明るい光が差し、その顔は光の反射で葵たちからは見ることが出来な。
言われるがまま、扉と抜ける葵たちとチョビ。
体格の良い駆は身をかがめやっとの思いで通り抜けた。
扉をくぐるとそこは、
輝くばかりの優美な内装が施された、豪華絢爛な部屋が現れた。
シャンデリアはまばゆいばかりの光を放ち、家具や調度品を照らしている。
まるでクリステルパレスの上層階そのままだ。
「よく来てくださいましたね」
と迎え入れてくれた人影が言った。
この光り輝く灯りにようやく目が慣れてきた葵たちが、その人物をそっと眺めた。
このお方は。
葵にとって、「世界で一番豪華なドレス」、それはテレーザ王女の衣裳部屋で見たものだった。
それが、今目の前に立っているこのお方は、それよりもはるかに豪華なドレスに身を包み、
静かに立っていた。
ドレスだけではない、凛とした姿勢、これ以上はないほど整った顔立ち、そして優雅な笑顔、どれをとっても全く非の打ちどころのない完璧な美しさだ。
「あなたが」
と葵が言いかけたが、口をつぐんでしまう。
あまりの美しさに、口を開くことさえためらわれる。
「わたくしは、フィオナ・クリスティーネ。美の国、第一王女です」
とその女性は言った。
この方が、テレーザの姉、美の国の次期女王
噂には聞いていただ、これほどの美しさだとは思っていなかった。
葵だけでなく、尊も駆も圧倒されて言葉が出ない。
「テレーザが戻ったのですね」
とフィオナ・クリスティーネ王女が言う。
その声はまるで、鈴を鳴らすように美しく響いた。
「そうなんです。貴女をさがすようにとテレーザ、じゃないテレーザ王女にたくされまして」
と葵が答えるが、その声はすっかり上ずっている。
「まあ、そんなに緊張しないで」
笑顔で言うフィオナ・クリスティーネ王女、そして3人に居間のソファをすすめた。
クリステルパレス、地下5階。
その一角にこんな部屋があるのだ、と驚きを隠せない葵たち。
あの小さな扉から中に入ると、そこは豪華な部屋になっていた。
玄関ホールを抜けると居間があり、そしてその両脇にも小部屋があるようだ。
「ここは、王女の部屋だ」
と葵は思った。
クリステルパレスのテレーザの部屋もこんな感じだ。
葵にとって、今まで見たことのある一番豪華な部屋、それはテレーザ王女の部屋だった。
今、この部屋を見るまでは。
フィオナのドレスを見た時と同じように、この部屋もテレーザ王女の部屋よりもはるかに豪華だ。
まるで、宝石箱の中にでもいるのではないだろうか、そう思いながら見つめていた。
居間のソファに座る葵たち、そして正面にはフィオナ・クリスティーネ王女がいる。
尊も駆も、その姿を直視できずにいるようだ。
「あなた方はテレーザが潜伏していた先の国のお方、よね?」
とフィオナが言う。
思わず顔を見合わせて葵たち。
「倭の国から来た」
と伝えていいものか。
「かなり辺境のお国かしら、そのお顔立ち。でも言いたくなければそれでもいいのよ。
わたくしはテレーザが何処に行っていたのか、そんなことに興味はありませんから」
とフィオナ。
再び、顔を見合わせる3人。
このフィオナ・クリスティーネ王女はテレーザとはどうも違う。
そう直感したのだ。
「わたくしを見つけてくれてありがとう。あの侍女が伝えてくれたのね。よかったわ、あれが役立たずじゃなくて」
とフィオナが言う。
「あれって」
とその言葉を聞いた葵がつぶやいた。
あれ、そう侍女ルナ・ルイーズのことだ。
フィオナ・クリスティーネ王女にとって、ルナは名前もしらない侍女、ただの「あれ」なのだ。
「フィオナ・クリスティーネ王女、おことばですが、王女からのお手紙を届けてくれたのは、
ルナ・ルイーズという名の、フィオナ様付きの侍女です。
ルナが決死の覚悟で、テレーザの部屋に手紙を届けてくれなければ、フィオナ様の居所もわからないままでした。あの侍女にも名前があるんです、あれなんて言わないであげてください」
と葵が思わず言った
そして、すぐに
「しまった」
と顔を伏せる葵。
「とんでもない事を言ってしまった」
葵は猛烈に、つい言ってしまったことを後悔した。
目の前にいるのは、5大王国、美の国の第一王女、フィオナ・クリスティーネ。
自分が、意見など出来るはずのない人物だ。
フィオナ・クリスティーネの瞳が、しっかりと葵を見つめている。
葵はその視線を感じ、この世の終わりとばかりに深くうなだれていた。
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