「美の国 王宮」どこまでも深い
いよいよ地下に潜入
「どこまで落ちてくのー!!」
と声も絶え絶えに言う葵。
そしてつい、強くチョビの首をつかんでしまった。
「おい、苦しい、離せ、おい」
とチョビが葵の胸に抱かれながらバタバタと騒いだ。
尊と駆は、落ちていく重力に顔を引きつらせている。
「さあ、そろそろだ」
とチョビ。
みみをぴんと立て、周囲を伺う様な素振りをしている。
その次の瞬間、チョビがしっぽをブンブンと振った。
そして、またチョビがぐん、と身体に力を入れると3人が前方に押し出された。
ちょうどそこには、脇道があったのだ。
勢いよく、押し出されたために葵たちはそのまま走りながら脇道を進んだ。
しばらく進むと、そこは薄暗い広間だった。
じめっとした空気に、どことなくかび臭い匂いが充満している。
「なんか、うちの納屋みたいだね」
と駆が言う。
人がほとんど訪れないのだろう。
そう言う場所は、どこもこんな匂いがする。
と葵は思っていた。
「ここが、地下5階だよ」
とチョビが言った。
フィオナ・クリスティーネ王女がいるのでは、とテレーザが予想した地下5階。
この何処かにいるのだろうか。
「こんなところに?」
と葵。
先ほどまでいた、テレーザがたち王族の部屋があるクリステルパレス上層階とはまるで異なる。
薄暗く、空気は重く、ここに居るだけで憂鬱な気分になりそうだ。
「早くみつけないと」
と尊も言う。
「病んじゃいそうだ」
と。
「でも、どこから探せばいいのかしら。とても広いわよ、ここ」
と葵。
「こっちだ」
とチョビが小走りで歩き出しだ。
「わかるのか?」
と駆が言う。
「我は犬だぞ、ユニコでもあるけど。鼻が効くんだ」
とチョビ。
「フィオナの匂い、する?」
と葵が聞く。
「フィオナ・クリスティーネの匂いは知らないが、テレーザの気配を探している。
同じ血が流れているんだから、似ているんだよ」
とチョビが言った。
細い廊下をチョビについていく3人。
両脇に部屋などはなく、ただずっと廊下が続くだけだ。
「で、テレーザの気配がこっちなのね」
と葵。
「そうなんだけど」
とチョビ、少し不安そうだ。
「なんだよ信用していいのかよ、お前の事」
と駆が言う。
「昔はよくこのあたりに来てたんだけどな」
とチョビ。
「前世のことか。なんだっけ、ガイナ、だったかな、お前の以前の名前」
と駆に言われ、
「そうだ、ユニコのダイナ。エメライダ王妃の愛犬ユニコだ」
とチョビが言う。
「エメライダ王妃は城内を探検するのがお好きで、よく我を連れてここに忍び込んだ。
そして、隠れている夜行性の魔鳥たちをからと戯れたものだ」
と懐かしそうに言うチョビ。
「エメライダ王妃、レイさんたちが言っていた、先々代だっけ?の王様のお妃さまよね。
テレーザのひいひいおばあちゃん」
と葵。
「テレーザに似てるんだろ?ご尊顔を見たいな。肖像画とかないの?
こんな城なら代々の王と王妃のどでかい肖像画が飾ってあるだろう」
と駆が言う。
「城の大広間にあるよ。あとで見に行こう」
とチョビ。
「まだ飾られていれば、だけどね」
と続けた。
「現王のお妃さま、テレーザのママね、は昔の肖像画を飾るのを好まないって、レイが言ってた。
だから、大広間のインテリアも随分とかわったんだって」
とチョビが言う。
「まあ、全部済ませたら、帰る前にちょこっと覗いてみよう」
と尊。
それからチョビは何かを感じたのか、迷いもなく道を進んだ。
相変わらず、何の飾りもなく素材むき出しの天井、壁、そして石が並べられただけど床。
「ここ、地下よね。薄暗いけど辺りが見渡せるくらいは明るいわ。どうして?窓もないから真っ暗でもおかしくないのに」
と葵が首を傾げた。
「それはだな」
とチョビが顔を上げ天井の隅をみる。
そこには、おぼろげな光を放つ、黒い塊が。
「あいつらはだな、小さなともしび、といわれている魔鳥だ」
とチョビが言うや否や、その塊がチョビに向かってきた。
驚いて、身構える葵たち。
チョビを見ると、小さな黒い小鳥がチョビの頭に身体に、とまっている。
ふんわりと淡い光に照らされているチョビ。
小鳥一羽一羽から、ほのかな灯りが放たれているのだ。
「おい、おまえたち。久しぶりだな、元気だったか?」
とチョビ。
その言葉に応えるように小鳥たちが羽をばたつかせた
「久しぶりって、このこたちっていつから生きてるの?」
と葵。
チョビの口ぶりで、この小鳥たちがかつてエメライダ王妃がからかった魔鳥だと分かったのだ。
「まあ、1000年は越えてるかな。こいつらは長寿だから」
とチョビ。
すると、チョビにとまっていた小鳥たちが羽ばたき、廊下を進んでいった。
まるで、付いてくるように促してでもいるようだ。
ほんのりとした灯りが、この暗い廊下を動いていく。
小鳥が移動しているからだ。
しばらく行くと、通路の分岐点が出てきた。
葵が把握しているこの城の地下は、まるで迷路だ。
道を間違えれば、二度と元の場所には戻れない、そこから出ることも出来ない、
そんな袋小路がいくつもあるのだ。
「ねえ、こんなにぽんぽんと進んじゃっていいの?」
と不安になった葵が言う。
そこの言葉にチョビは答えもせず、懸命に小鳥を追う。
何度も曲がり、脇道を入り、もうどういう経路をたどったかわからない。
そして、ただの壁としか思えない廊下の途中で立ち止まった。
チョビだけでなく、小鳥たちも。
「さあ、ここだ」
とチョビが言う。
眼を凝らしてよく見ると、そこには重く頑丈そうな小さな扉があった。
「ここに、フィオナがいる」
とチョビは叫んだ。
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