「美の国 王宮」城内探索開始
王宮の地下へ
「じゃ、俺たちも」
と尊と駆が同時に言った。
姉である第一王女、フィオナ・クリスティーネを探しに行くと言うテレーザ。
もちろん、葵たちみんなも同行するつもりだ。
「あまり時間がないから、急ぎましょう」
とテレーザ。
部屋を出て、廊下を進む。
床も壁も天井も、装飾品は何処までも華麗だが、ひんやりとしてどこか冷たい感じがする。
「探すってテレーザ、めぼしは付いているの?」
と葵が聞く。
フィオナ・クリスティーネ王女を探す、そう言うもののこの広大な城内。
むやみに探して労力を使うだけだ。
「地下5階あたりかしらね」
とテレーザが言う。
葵は頭のなかで、城の見取り図を思い描く。
この城は、地下7階まであるということになっている。
その真相は誰もしらないのだが。
地下3階までは、侍女たちも出入りができるがそれより下の階となると、
立ち入りを禁止されているのだ。
テレーザの誘導で、廊下の隅から隠し通路に入ろうとした、
その時。
「テレーザ王女ではありませんか」
と声がした。
そこには、テレーザを倭の国間で迎えに来た、王宮従者のバレルがいた。
同じく王宮側と思われる数人の男たちが一緒だ。
「どこへおいでで?」
とバレルが言う。
この後、「譲渡の儀」がある今この時間は、部屋で支度をしていているはずだ。
「あの」
と口ごもるテレーザ。
「王女のお付きの皆さままでご一緒に」
とバレル。
葵たちの事は、倭の国、ロベル・リゾートでのクルーズ船で見ている。
ただの王女の「お付き」などではないことくらい、バレルにはお見通しのはずだ。
「さあ、お部屋にお戻りください。厳粛な儀式、御身をお清めいただき正装を」
とバレル。
そこで、バレルはパンパンとふたつ手を叩いた。
するとすぐに、数人の侍女が現れた。
あの「テレーザ王女の侍女」たちだ。
「さあ、きみたち、王女のお支度をお願いするよ」
とバレルが侍女たちに言う。
その言葉を聞くや否や、侍女たちがテレーザを取り囲む。
「さあ、王女様、まいりましょう」
そう言いながらテレーザを、もと来た廊下へと連れてゆく。
物腰は柔らかいが、有無を言わさぬ圧があった。
「では、頼みましたよ」
とバレルがテレーザを伴い遠ざかる侍女たちに言う。
そしてその場で呆然としている葵たちに、
「あなた方も、儀式に列席されるがいい。まあ、身支度だけは整えるのをお忘れなく」
とバレルはそう言い残すと、一緒にいた男たちと共に去って行った。
その場に取り残された葵、尊、駆。
バレルとしては、倭の国から来ているこの若者たちにこれ以上の深入りはせず、出来ればそのまま帰国してほしい。
そうしてくればことは丸く収まるのだから。
とでも思っているのだろう。
「お前たちには関係がないから、さっさと帰れ、そんな感じね」
と葵。
バレルの表情から察せられるのは、それ以外に考えられない。
「まあ、なんとも顔に出る奴だな」
と尊。
「はいそうですか、って帰ってやるわけないじゃん」
と駆も言う。
「じゃあ、私たちでそのフィオナ・クリスティーネ王女を探しましょう」
と葵。
「まあ、そうなるわな」
と尊も駆も頷いた。
「じゃあ、もう一人、いや一匹。チョビ、そこにいるんでしょ?出て来なさいよ」
と壁際に向かって声をかける葵。
すると薄暗い、廊下の隅からとぼとぼと歩いてくる小さな影が見えて来た。
だんだんと姿がはっきりとしてくる。
「なんだ、おまえ、そこにいたのか」
と尊が声をかけた。
「さっきから、ずっと様子を伺っていたわよね?」
と葵。
「じゃあ、お前も来るんだな。頼むぜ、お前、城の事はよく知ってるんだろ?」
と駆。
「まあ、我は昔、ガイナと呼ばれていた頃は随分とこの城を探検したものだ。お散歩というやつだな、まかせてくれ隅々までよく知っているさ」
とチョビが言う。
「あまり時間がないわ。
フィオナ・クリスティーネ王女のところまで、急ぎましょう」
と葵が言うと、チョビがついてこい、とでも言うように廊下を進み始めた。
「さ、ここだ、ここだ」
とチョビが急に立ち止まった。
隠し通路を抜けて、だいぶ進んだところだ。
ここは宮殿の表とは違い、なんの飾りもない石壁がむき出しのただの通路だ。
人が通ることはほぼないのだろう。
床の隅には誇りが溜まり、壁際や天井の片隅に蜘蛛の巣がある。
それらを慎重に避けながら、チョビの後を追う葵たち。
「わ、なによここ、陰気臭いところね」
と葵。
「姉ちゃん、よそ見してるとほら」
と駆に言われた葵、何かを踏んだようだ。
「まじ、いやだ。なにこれ」
と小さな悲鳴を上げる葵。
葵の靴の下で、ネズミの死骸がペタンコになっていた。
「はやく、王女のところに行こうよ、ここいやだ」
と葵。
チョビは立ち止まったまま、下を見ている。
床の先に何かくぼみがあるようだ。
3人がようやくチョビに追いつき、そのくぼみを覗き込みと、
下から、何やら風が吹いてくるのが分かった。
そこは窪みなどではない、ぽっかりと空いた穴だ。
「この空洞、どれだけ深いんだろうか?」
と尊が言う。
床の真ん中に突如現れた、空洞。
柵もなにもない。
まるで落とし穴だ。
この薄暗い廊下で、うっかりすると転落する。
「さ、手をつないで」
とチョビが言う。
そして、そのチョビは、葵の足元でぴょんぴょんと小さく飛び跳ねた。
「なによ、抱っこしろって」
と葵。
片手にチョビ、もう片方の手で駆の手を握る葵。
その駆のもう一方の手を尊がにぎる、少々怪訝な顔をしてはいたが。
「みんな繋がってるよね」
とチョビ。
頷く3人をみると、チョビはその穴の中に身を大きく乗り出した。
その勢いで、葵たちもそのまま穴の中へと落ちて行った。
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