「美の国 王宮」計画を始めよう
王位はどうなる?
「あなた、ホイの従者のケインよね」
とテレーザが言う。
その頭を下げながら頷くケイン。
「あなたもホイの元に戻った方がいいわ」
とテレーザ。
「今日の午後、譲渡の儀ってのがあるわ。
ホイと打ち合わせ、必要でしょ?」
と続けるテレーザ。
テレーザが言うには、ホイは自分で部屋に戻っているという。
「ホイ王子のお部屋ってどこよ?」
と葵。
「王子は、この上の階の客室をお使いです」
とケインが言う。
「この上の階はね、諸外国からのお客様たちが来た時に使う部屋があるのよ」
とテレーザ。
「お客様、ですか」
とケインが言う。
そう言えば、ここ美の国へやってきた時、迎えてくれたのはバレルたち美の国王宮の従者だった。
そのバレルが、
「こちらのお部屋をお使いください」
と申し出たのだ。
「最初から、客扱いってわけだね」
とケインが言う。
「そうね、あの従者たちは美の国の役人側の人たちよ。
だから、まあ国王側とは対立する立場ってことよね」
とテレーザはダイナ夫妻の隠れ家で知ったことを語った。
「では、王子の元に戻ります。テレーザ王女、従者諸君たち、また後ほど」
そういうとケインはテレーザのことをしっかりと見つめた。
「それにしても王女、そのお姿」
とケインが言う。
その時のテレーザは、コットンのシャツに短パンというまるで王女らしからぬ格好をしていたのだ。
「散策に出発されるときは、マントを羽織られていたので気付きませんでしたが、
まるで遠い国の若い「女の子」の好まれるお姿だ。よくお似合いになります」
とほほ笑みながら言うケイン。
そして、部屋を出てホイの元へと戻って行った。
ケインがいなくなると、葵たちはテレーザ王女の居間に集まった。
これからの事を話さなければ、と意気込む面々。
「さあ、いよいよね。テレーザ、あんたがちゃんと言わないとね」
と葵が言う。
「そうだね、正直な気持ちを」
と尊。
「わかってるわよ。私は自分の意思を貫く。もう昔のテレーザじゃないから」
とテレーザが言い切る。
「お、頼もしいな。まあ、お前の要望がすんなりと通るとは思えないけどな」
と尊。
「だよな、ひと悶着はあるだろな。オヤジたちの出番もあるだろうし。
五大王国での大事件だぞ」
と駆も言う。
「まあ、まだ水面下だけれどね。これが公になったらそれこそ国家の存続の危機だし」
とテレーザ。
「お父様に会えるのね」
と葵が話を変える。
「そうね」
そう言うテレーザは少し寂しそうだ。
「会いたくないの?」
とテレーザの表情をみた葵が聞いた。
「王位を奪われようとしている国王なんでしょ。そんなのお父様じゃないよ」
とテレーザが言う。
「ほかのご家族も同席なのかしら」
と葵。
「先生たちが言うには、お母様もお姉さまたちも、気配がしないんだって。
あ、弟もね」
とテレーザが言った。
「お母様と弟はどこかに避難しているかも。でもお姉さまたちはお父様と一緒にいるはずなのに。
どうしたんだろう。」
と続けるテレーザ。
ダイナ夫妻の話によると、ほんの数日前までは王一家はいつも通りの生活をしていた。
それが、急にその気配に尋常ではないノイズが入ったのだという。
「それ、クルーズ船にあいつらが来た時とかぶるんだよね」
と葵。
「なんか、行き当たりばったり。こんな大それたことをやってるのにね」
とテレーザが言った。
「美の国の民族性なのか?」
と駆が言うと、
「そんなことないわよ、私は計画的だもの」
とテレーザ。
「まあ、王位の譲渡は満月の日、それもスーパームーンの日にしかできないから、それで急いだって言う感じなのかな」
とテレーザが続けた。
「スーパームーンの日なんて滅多にないじゃない。そう言うわけか」
と尊。
その特別な満月、スーパームーンの日はもう目前だ。
その日でないと、国王の王位を誰かが引き継ぐことはできない。
美の国始まって以来のしきたりだ。
「その、スーパームーンの日に、王位をお父様からホイと私じゃなくて、フィオナお姉さまに受け継いでもらう。それならばなんとか上手くいきそうなんだけどね」
とテレーザ。
それがダイナ夫妻と一緒に立てた計画なのだ。
「でも、問題があって、先生たちが、お姉さまたちの気配がないって。
王位を受け継ぐには、その場にいてくれないと。
お姉さまたちの所在を突き止めるのが先決かもね」
とテレーザが言った。
「じゃあ、この後の譲渡の儀ってのにはお出ましにならないってことか」
と尊。
「そう。その可能性が高いの。まあ、王位を譲り受けることが出来るお姉さまがいたら困るんだろうけどね。」
「でも、ケインさんはフィオナ王女には王家の魂がないって」
と葵が言った。
「ないんじゃなく、奪われたのよ。
あのマルクが一枚かんでるって。」
そういうテレーザに、
「有能すぎる魔法使いって言われてるんだろう。
それくらい、何でもなく出来るんだ」
「恐ろしい力だよな」
「悪い人には見えなかったんだけどね」
と尊たちの言い分を聞いた葵。
「まあ、どちらにしても国王に自分の意思をちゃんと告げることだ。
そうすれば、王だってお前に王位を譲るわけにはいなかない、そう思うだろう」
と尊。
「譲渡の儀」
それは現在の国王が、王位を譲る相手を指名し、次期君主として認める。
そういう儀式だ。
それが済めば、スーパームーンの日の夜、正式に王位が引き継がれるのだ。
あわよくば、そのスーパームーンの夜に王家の魂なんぞ、姉のフィオナ・クリスティーネに渡してしまいたい。
それがテレーザの本心だった。
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