「美の国 王宮」宮廷犬、チョビ
ケインが打ち解ける?
先ほどまでの威厳あふれる話し方とは一変し、
シッポを振りながら、葵に言うチョビ。
「ねえ、ねえ、こっちだよ」
と。
「先ほどとは、なんだか違いますね、さっきまであんなに威厳があったのに」
とケインに言われてしまうほどだ。
そんなチョビの後について行くと、来た道を戻っている。
そして、ベルデの森を出てクリスタルパレスの裏庭にたどり着いた。
「戻れってこと?」
とチョビにささやく葵。
そうだ、とチョビの目が訴えている。
クリステルパレスに入ると、チョビは葵が抱き上げた。
いくら宮廷犬のお墨付きをもらっているといっても、チョビが宮殿内を歩き回るのは、目立ちすぎる。
葵はチョビを隠すように、宮殿内のテレーザ王女の部屋へと向かった。
「ケインさんも、王女のお部屋の居間でお二人をお待ちになりませんか?」
と葵。
そう言われたケインは、そのまま葵と共に王女の部屋へとやってきた。
テレーザ王女の部屋。
居間や寝室、衣裳部屋などいくつもの部屋がある。
ケインは見たところ、まだ若い青年だ。
いくらホイ王子の従者とはいえ、王女の部屋に招き入れることは、少々軽率ではなかったのか。
葵は少しばかり後悔をしたが、
ケイン自信は、王女の部屋に入ることに、ためらいはない様子だ。
テレーザ王女の居間に葵とケインそしてチョビ。
チョビはやっと放してもらい、自由に動き回っている。
「ここでしばらくお待ちください。お茶をご用意しますので」
と葵。
そう言うと、備え付けの小さなキッチンへと向かう葵。
葵の方が、このケインと二人きりという状況に少々動揺しているようだ。
しばらくして、お茶と茶菓子を持ち居間に戻る葵。
ケインは黙ってソファに座っていた。
「ほかの侍女のみなさんは?」
とケインが聞いた。
そうだ、あの侍女と名乗った人たち。
何処にいったのだろう。
マルグリッタを始めとした、数人の侍女。
その姿がこの部屋の中にはないようだ。
ケインからしてみれば、王女たるもの大勢の侍女が付いているはず。
部屋にはそんな侍女たちが待ち構えていると思っていたのだ。
「ベルデの森から遠ざけましたね」
とケイン。
他の侍女がいない、それを確認するとケインは踏み込んだ話を始めた。
「わたしがベルデの森に行くのはあなた方にとっては不都合のようですね。
わたしも、さっきまでのどうしても殿下を止めないと、という気持ちが少し薄れています。
これは何かの影響ですかねえ」
と自分にかかっている「力」に変化が起きていることを伝える。
「本当に、都合が良いですよね。魔法の世界は」
とケインが言う。
「心を操ることはご法度だが、心に力を加えることは認められている。
紙一重だと思うのですが」
「じゃあ、心を開放する、心を目覚めさせる、というのも紙一重かしら」
と葵。
テレーザの持つ力、テレーザが自分の生きる道だと決めた力だ。
「でしょうね。人の心はいかなる魔法にも左右されるものではない、とわたしは思うのです」
とケインも言う。
それから、
「ここではなんだか素直になれる、心が軽いんです。不思議ですね」
と笑った。
「ここはテレーザの素直な心が、いかなる邪心も払っているからだよ」
とチョビが言った。
「じゃあさ、素直な間に本心を聞かせてよ、あなたも本当にホイ王子とテレーザを王位に就かせたいの?」
と葵。
「わたしは」
そう言うとケインは静かに語り始めた。
「そういうことは、じつはどうでもいいのです。王子が幸せにさえなれれば、それでいい。
わたしは王子がご幼少のころから仕えております。成長を見守り、お幸せなご家庭を築かれるのがわたしの希望であり、夢でもあるのです」
と、そういうケインの表情はじつに穏やかだ。
「ケインさんのお考え、私たちと一緒ね」
とそこまでの話を聞いた葵が言う。
「この部屋で話していることは、あなたの本心よ。
だからさ、私たちと一緒に立ち向かいましょうよ」
と続ける葵。
ケインはというと、今までになく早口にまくしたてる葵に少し驚きながらも、
「なんだか、あなたに話したら気持ちが軽くなりました。よくわからないものがずんと乗っかっていたんだけれど、それが取り払われたようだよ」
と明るく言うケイン。
「じゃ、決まりだな」
とチョビも言う。
「私たちは、王位継承のために王家の魂、ってやつを正当な時期君主に引き渡して、
テレーザを連れて故郷に帰る。これが目的よ」
と葵。
「ならばわたし王子からすべてのしがらみを取り払い、彩の国に戻ります」
とそう言いながら、
葵とケイン、そしてチョビが共に手を取り合った。
「ならば、王位継承の儀、ここですべてを明らかにしましょう」
とケインが言う。
「もう少ししたら、テレーザが戻ってくるわ。
そうしたら、事を始めましょう」
と葵。
そこに、尊と駆が王女の部屋に入ってきた。
葵が戻ってきたことをダイナ夫妻からの秘密の伝達で知ったのだ。
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