「美の国 王宮」散策
2人で散策、話題は?
ホイ王子の従者、ケインの鋭い視線に葵が身震いをしていた頃、
テレーザはホイと一緒にクリスタルパレスの裏庭を歩いていた。
テレーザにとっては馴染の場所。
片隅の花壇、所々に生える木々、どこも小さな頃から慣れ親しんだ自分の庭だ。
「こんなところに、かわいいですね」
とホイが言う。
花壇の隅で咲いている、小さな花を見つけたのだ。
テレーザは喜んで花壇を覗き込むホイの横顔をそっと見つめる。
花を眺めるホイの目は穏やで表情は優しい。
しばらくホイとテレーザは二人、花壇の花々を眺めながら少しばかり話をした。
「僕と君、以前の婚約者同士ですよね」
とホイが言う。
ホイがどこまで、自分を知っているのか。
これはそれを探るいい機会だ。
「覚えてるの?」
とテレーザ。
「ぼんやりと、いや。覚えてはいないんです。これはケインから聞かされたことで」
とホイが言った。
「じゃあ、記憶をなくしてしまっているの?」
とテレーザ聞いた。
「それもよくわからないくて。あなたと共にこの国を治める王となる、とどういうわけか刷り込まれているようなです。」
とホイ。
「ここに連れ出してくれてありがとう。ここでは少しだけ本来の自分でいられるようだよ」
と言うホイ。
やはり、何かの力が働いている。
そう直感したテレーザ。
ホイを託せるのは、あの先生たちしかいない。
「ねえ、もう少し奥に行ってみましょうよ」
とさりげなくホイを誘い、ベルデの森へ行こうとするテレーザ。
ホイも素直にテレーザに従い、ベルデの森へと歩く二人。
クリスタルパレスの裏庭を抜けて森に入ると景色は一変する。
木々が生い茂り、日の光が遮られ薄暗い。
「なんだかワクワクしますね」
とホイが言う。
こんな怪しげな場所にいると言うのに、不安な様子はない。
「それは、きっと」
と言うホイ。
「きっと?」
と思わず聞き返すテレーザ。
「きっと、貴女と一緒だからだ」
とホイはそう言うと、テレーザの手をそっとつかんだ。
思いの他、温かく大きなホイの手。
その手をテレーザも握り返していた。
「私はあなたのことを前から知っているわ」
とテレーザが言う。
「これ、見覚えないかな?」
とテレーザが見せたのは、水族館でホイが買ってくれたキーホルダーだ。
「ごめん、覚えていない」
とホイ。
「これ、二つあるのは?」
とそのキーホルダーを手に取りながら言うホイ。
「カメは君のだ。そしてこっちの魚は」
ホイの顔は、何か懐かしい事でも思い出しているかのようだ。
ホイは自分より葵を気に入っていた。
そんな葵との思い出の品。
どうか思い出してほしい。
しかし、
「だめだ、思い出せない。なにかこれはとても大切な物のような気はするんだけど」
とホイがため息をつく。
「仕方ないよ、そう言う力がかかっているんだもの」
とテレーザ。
「そういう力か」
と肩を落とすホイ。
「情けないです」
と言いながら。
うなだれるホイの顔を見ながら、テレーザが言う、
「だから、これから本当の自分を取り戻しに行こう。わたしの先生たちなら、それが出来るから」
と。
「僕は魔法の力で操作されているんだね」
とホイ。
これは重大な規約違反だ。
魔力によって、人の心を操る事、それは厳しく禁じられている。
魔法の力で、人を操れるようになれば魔力を持たない人と、魔法使いが共存することは不可能だ。
テレーザがこれからの「生きる道」にしようとしている心に語り掛ける行為とは紙一重ではあるが、
まったくその本質が異なっている。
本来の心を解き放つ行為と、心を操る行為。
それはまるで、善と悪だ。
このホイ王子には明らかに魔力の力で心を支配されている。
悪の力がその心に及んでいるのだ。
そしてこれはどういうことなのだろう。
5大王国、彩の国の王子の心を魔法で操る者がいる。
相当な魔法の使い手だ。
テレーザとホイは二人で手をつなぎ、ベルデの森を進む。
周囲の魔獣や魔鳥たちが、二人の姿を見守るようにその周りを徘徊していた。
「襲ってこないんですね」
と魔獣に気付いたホイが言う。
「大丈夫。みんな私の友達だから」
とテレーザ。
微笑みながら言うテレーザを見つめるホイ。
その表情が緩む。
「あなたがここの魔獣たちの親分みたいに、あいつらを手名付けている姿が思い浮かびますよ」
と言いながら、ホイの心には何か、とても懐かしいものがよぎる。
一瞬だが、心に現れたのは、
「テレーザ王女の絵」
だ。
あの「姫君格付コンテスト」のために、エマが描きPR動画として公開していたあの絵。
それの絵を眺めたホイはその姿に心惹かれていたのだ。
「なんだか、とてもうれしい気持ちだ。君の事を少しだけ思い出したから」
とホイが言った。
その頃、クリステルパレス、使用人のためのラウンジ。
「殿下と姫君が森に入ってしまわれた。あとを追いましょう」
といきなり立ち上がるケイン。
そのただならぬ表情に、葵は拒否することもできず、共にベルデの森へと向かった。
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