「美の国 王宮」見送り、そして
見送る方も大変
「あっ」
と小さな声をあげるテレーザ。
朝食の後、庭をホイと一緒に庭を散歩する。
そして、ホイの状態をより詳しく探る、それが目的だ。
そのためにはホイ王子の従者たちに側にいてもらいたくはない。
テレーザの「二人だけで」は絶対だが、それは葵も同行できなくなるということだ。
と、葵に言われて改めてそれに気付いたテレーザ。
「だってさ、そうでも言わないとアイツが付いてくると思ったから」
とテレーザ。
「だよね。それは仕方ない。こうなった以上私は行けないから、ホイ君の事ちゃんと探ってよね」
と言いながら葵が散歩のための衣装を持ってきた。
その衣装を見たテレーザ。
思わず葵の顔を凝視した。
「これ、いい考えでしょう」
と葵。
葵の調達した「衣装」に着替えると、じっと葵を見つめた。
そして、お互いにクスクスと笑い始めてしまった。
「こんな衣装、よくあったよね」
とテレーザが言うと、
「でしょ?隅っこの方に置いてあるのを見つけたのよ。何のために用意されたのかしらね」
と葵
「ホイの事は任せて。二人で話せば何かがわかるかも。色々と探ってみるよ」
とテレーザが言う。
「信用してるよ」
と葵。
そして、テレーザに何かを手渡した。
それを見て、思わず笑顔になるテレーザ。
テレーザも手に何かを握っている。
それと一緒に並べてみるテレーザ。
「同じこと考えていたんだね」
と葵。
テレーザは、ホイがフィル・グレン侯爵として倭の国に来た際、
一緒に行った水族館で、ホイが買ってくれたキーホルダーをその手に持っていた。
テレーザにはカメ、葵には水色の熱帯魚の付いたキーホルダーだ。
「これでよし」
とテレーザが言い、葵を伴い部屋を出た。
支度を済ませたテレーザが、葵と共にクリステルパレス王族専用出入口に現れた。
ホイ王子は既にテレーザがを待っている。
側には従者のケインが控えていた。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
と出口でホイとテレーザを見送るケイン。
この出入口は、クリスタルパレスの一番奥にあり王族専用だ。
ここを出れば、宮殿の中庭、そしてその奥に広がるベルデの森に行くことが出来る。
ホイとテレーザが二人並んで歩く後姿をしばらく見送った後、
門番がその扉を閉めた。
「これで増々仲良くなられるといいのですが」
とケインが葵に言う。
「楽しそうにお出かけになられたので、大丈夫ではないでしょうか」
と葵が答える。
テレーザがホイの事を探るなら、自分はこのケインの事を少しでも探らないと。
そう意気込む葵だったが。
「アオイ殿、殿下と王女がご散策中、しばらくわたくしとお茶でも飲みませんか?」
と声をかけてきたのはケインの方だった。
どうしよう。
こういう場合、何と答えればいいのか。
変な事を言えば、自分がニセモノの侍女であることがバレてしまう。
相手は5大王国の王宮に仕える正当な従者だ。
ニセモノの自分とは知識も経験知もまるで違う相手だ。
「それではそう致しましょう」
と葵。
内心、不安でたまらないのをなんとか隠しながら言う。
にわか侍女の自分がボロを出さずに済むのだろうか。
これでは、ケインの事を探るどころではないではないか。
ケインと並んで王宮に仕える者たちが使用するラウンジに向かう葵。
王宮内には王族が使用する食堂や部屋の他に、ここに仕える従者や侍女たちのための
施設も多い。
あらかじめテレーザから聞いていた葵。
ここでは、迷うこともなくラウンジにたどり着くことが出来た。
ラウンジはクリスタルパレスの片隅、侍女たちの宿舎の脇にある。
ここでは給仕係はおらず、自分での飲み物や食べ物を注文し、自分で席に運ぶ。
ケインはコーヒーを、葵は紅茶とケーキを持ち、窓際の見晴らしの良い席に座った。
ラウンジ内は比較的すいている様で、周囲は空席だ。
「中庭がよく見えますね。もうお二人の姿は見えませんが」
とケイン。
「王女は植物がお好きですから、中庭の奥にある花壇にでも行かれているのでは」
と葵が言う。
「ホイ殿下も自然がお好きだ。お二人は趣味がお合いになりますね」
そう言ったケインが、
「アオイ殿はいつからテレーザ王女にお仕えされているのですか?」
と葵自身について聞いた。
「アオイ殿は美の国のお方ではないですよね?どこか遠い異国のお方のような気がする。
そんなお方が、どういった経緯で王女の侍女になられたのでしょうか?」
と少しばかりいたずらっぽい笑顔を浮かべてケインが言った。
「おっしゃる通り、私は辺境の小さな国の小さな村の出身です。
村の広報誌に載っていた、美の国王女の侍女募集に応募して、運良く採用していただきました。
村始まって以来のことだそうです。
ここ、美の国に来てすぐにテレーザ王女の侍女に任命されました」
と葵。
このケインも自分の事を探っている。
葵は少々着色した経歴を話した。
「そうですか。ご両親や村の皆さんは喜ばれたんでしょうね。あなたの採用を。
それで、あの時はどうされていたのでしょうか?」
とケインが言う。
あの時。
テレーザが「消滅させられていた」時の事だ。
どう答えればいいだろうか。
としばらく葵が黙っていると、
「やはりロイヤルサナトリウムにご同行されていたのでしょうか?
あのサナトリウムに行かれていたこと、極秘事項の様ですから、わたくしになんぞ言える訳がありませんよね」
とケインが言った。
「ご推察におまかせします」
と葵。
「では、話題を変えましょう」
と葵を見ながら言うケイン。
まるで面接官のような目つきだ。
「やばい」
葵は密かに不安ををつのらせていた。
葵を見つめるケイン、その視線はまるで葵の体内を駆け巡るようだ。
身ぐるみはがされるような恐怖感におそわれる葵。
「こいつただ者じゃない」
と葵は、ここ美の国に来て一番の冷や汗をかいていた。
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