「美の国 王宮」朝食
どんな朝食になるのか?
美の国、王宮 クリステルパレス。
その奥の一角にある部屋、そこはブルー・ダイニングと呼ばれており、
王と王妃が朝食を摂る専用の部屋だ。
そのブルー・ダイニングにホイ王子とテレーザが二人で朝食を共にする。
そんなこと。
「いいわけないじゃない」
とテレーザは納得がいかない様子を隠し切れない。
「まあ、とりあえず、あっちの言うことを聞いた方がいいわね」
と葵。
テレーザ王女の部屋の中。すでに朝食に出かける支度は整っている。
葵が見立てたドレスに葵が結った髪。
そんなテレーザは、なかなかの優美さだ。
「さあ、行こう」
と葵に促され部屋を出るテレーザ。
廊下を進むテレーザの後ろを歩く葵、その葵はブルー・ダイニングの場所を知らない。
「ここに来てよ」
とテレーザが葵を自分の横に来るように促す。
王女の隣に並んで歩くことが出来るのは、特別な存在の特権だ。
それは葵も知っている。
テレーザに言われて、隣を歩く葵。
少し緊張しているのか、動きがぎこちない。
「どうしたの?いつもの葵じゃないじゃん」
とすかさずテレーザが言う。
「だってさ、ここは美の国の王宮よね、5大王国の。その王宮ど真ん中にいるんだよ、私。
そりゃあ、緊張もするでしょ。帰ったら友達に自慢できるけど」
と葵。
「なんだ、私の隣を歩いているからじゃないんだ、その緊張」
とテレーザが少しがっかりしたように言う。
「でも、王宮を歩いてるだけでそんなにガチガチになるの?」
と続けるテレーザ。
「あんたにとってここは家なんだし、ごく当たり前に歩いてるけどさ、私にしてみたら教科書とか図鑑でしか見たことがないところにいるんだよ、今。そりゃあ、緊張もするわよ」
と葵が言う。
「そうなんだね、じゃあ心行くまで緊張しながら歩き回って。でもね、私にとってここはもう家じゃないよ」
とテレーザが笑いながら言った。
「そうだね、あんたの家はうちだもん」
と葵。
しかし、その時のテレーザの表情が少しだけ曇っていた。
寂しげなその顔に、
「でもさ、ここもあんたの家、うちもあんたの家、それでいいじゃない」
と葵が言う。
「どこまで行くの?ここがブルー・ダイニングだよ」
とテレーザに言われて、慌てて立ち止まる葵。
テレーザと話をしながら廊下を歩くうちに通り過ぎようとしていたのだ。
テレーザに指さされたその「部屋」は、他とは違う扉、荘厳でただならぬ威厳を放っている。
その扉を数回叩き、
「テレーザ王女のお着きでございます」
と声をかける葵。
その姿はなかなか堂々としている。
昨夜のうちに、下調べをして一人予行演習をやっておいたのだ。
しばらくすると扉が開き、中に招き入れられた。
テレーザもここに入ったことは数えるほどだ。
ここは、王と王妃の部屋だから。
それ以外の者が使うことなど許されない。
扉を開けたのは、ホイ王子の従者ケインだ。
柔らかい笑顔をテレーザに向けながら、
「おはようございます。テレーザ王女 よくお休みになられましたでしょうか」
と声をかける。
「ありがとう」
と一言答えるテレーザ。
そして、部屋の中央にあるダイニングテーブルに目をやる。
そこには、ホイが一人で座っていた。
楕円形のテーブル。
大きくはないが、向かい合わせに二人で座ると話し声が届くのがやっとの距離ができる。
葵が椅子を引き、ホイ王子の正面に座るテレーザ。
そしてそのまま、葵はテレーザの後ろに控える。
教科書通りの所作だ。
これも昨夜の下調べの成果だろう。
「やあ、おはよう。テレーザ」
とホイ王子が声をかけた。
その表情、声、些細なしぐさ。
そのすべてに注力するテレーザと葵。
いま、ここにいるホイ王子、これは自分たちが知っているフィル・グレンと名乗った青年なのだろうか。
たわいない会話をしながら、ホイ王子とテレーザ王女の朝食が始まった。
何処からともなく現れた給仕係が、テーブルに料理を運んでくる。
使われている食器、銀製品。
そのどれもが、美の国王族専用のものだ。
採れたての果汁を搾ったジュース、そして野菜のスープ。
そっと口に運ぶテレーザ。
一口味わっただけで、その顔に安堵の表情が現れた。
「イーグルは無事なんだ」
と心で思うテレーザ。
王宮料理人、国王と王妃、その子供たちの食事を一手に担っている宮廷料理人のイーグル。
テレーザもイーグルの作る料理が大好きだった。
続いて卵料理に、温野菜、焼き立てのパンがテーブルに並んだが、そのどれもがテレーザの知っている、
懐かしい味だった。
イーグルや他の料理人が忙しく動き回る王宮の厨房を、小さなころからのぞき見していたテレーザ。
時には味見をさせてくれたり、包丁の使い方も教えてくれた。
そんなイーグルの作る料理。
お腹以上に心が満たされた。
テレーザはその時はじめて、自分が美の国に戻ってきたことを実感し、それが少しだけ嬉しいのだと感じていた。
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