「美の国 ベルデの森」おかえりなさい
やっと隠れ家に着きました
「ああ、テレーザ、おかえりなさい。元気そうでよかった」
とテレーザを抱きしめるレイ。
テレーザも満面の笑みだ。
「おかえり」
その言葉を聞いて、安堵するテレーザ。
それを見た葵が、同じように胸をなでおろす。
ダイナ夫妻が本当にテレーザを暖かく、迎え入れていることがわかったからだ。
アルもそうだったがレイも、テレーザに対し最初は王女への挨拶をしたが、すぐにまるで離れていた娘にでも再会したような態度へと変わった。
それを見た葵、心が穏やかになり、ほっとした気持ちになったのを感じた。
ここ、美の国にもテレーザの居場所があったことがわかったからだ。
しばし、再会の喜びに浸るテレーザ。
その様子を葵だけでなく、尊も駆も暖かく見守った。
「感動の再会のところ、悪いんだけど、そろそろ色々と話をした方がいいんじゃない?
あんまりゆっくりもしていられないでしょ?」
と水を差すチョビ。
「お前が迷わなければ、もっと早くここに来られたんだぞ」
とアルが言う。
「まあ、しっかり連れて来てね、って頼んだのに」
とあきれたようにレイに言われ、葵の後ろに逃げ込むチョビ。
「まあ、いつものチョビだけどな。以前はどうだったんだ?うちで、すっかりダメ犬になっとか、お前」
とそんなチョビを見て言う駆。
「あまあまだもんね、ママったらチョビちゃんチョビちゃんってさ」
と葵も言う。
「そりゃあ、母さんだって引きこもりと文句たれ、それから反抗期真っ盛りの子供たちより、無心にシッポ振ってるコイツの方が可愛いかったに決まってるじゃん」
と駆が言う。
「だな」
と尊。
自分たちが母に対して友好的に接していなかった頃、チョビはいつも母の側にいた。
母にまとわりつき、母にじゃれついていた。
まるで、母の関心を独り占めしようとしているかのように。
尊たちからしてみれば、そんなチョビは実に都合の良い存在だった。
自分たちが母に対して、多少の酷い態度をとったとしてチョビがそれを埋め合わせしてくれる。
そんな感覚だったのだ。
都留田の家でのチョビの様子を聞いたアルとレイ。
ただ黙ってチョビ、いやガイナの頭を撫でていた。
「ガイナはどんな子だったの?」
と葵。
「賢くて忠治で。それは優秀なユニコだったわ」
とレイ。
「王妃エメライダの寵愛をうけてな、宮廷を自由に動き回れる特権を与えられたわ。みんながうらやむユニコだった」
とアル。
「エメライダ王妃、私のひいひいお祖母ちゃん。王宮を金ぴかごてごてにしたひいひい爺ちゃんの奥方よ」
とテレーザが言う。
「ジャン・フィリップ国王だ。まあ、あの金ぴか趣味以外は名君だったがな」
とアル。
「テレーザ、あなたはエメライダ王妃によく似ているわ。
派手さはないけれど、芯が強くて心の美しさがあった」
とレイが言う。
「知ってるわ。よく言われたもの。
あんたは、あの地味なおばあさまにそっくりね、って」
とテレーザ。
「みんなは私を疎んじるつもりで言ったんだろうけど、私はそうは受け取らなかったわ。
あのおばあ様の功績を知っているもの。自然と心が通わせられた、素晴らしい力をお持ちだったのよ」
とテレーザが言う。
「そうだな」
とその言葉にアルが頷く。
「あんたなんて、あのおばあ様みたいになるのよ、きっと。だってそっくりだもの」
まだ幼かったころ、そんな事を姉たちから度々言われた。
テレーザに古い記憶がよみがえっていた。
そのエメライダ王妃の功績について話したのはアルとレイだった。
母と姉から、心無い言葉を投げかけられて、しょげているテレーザに王妃エメライダの偉業を話して聞かせたのだ。
「そんなおばあ様にとても可愛がってもらったのよね?」
とテレーザがチョビに言う。
「我のもう一人の主、エメライダ王妃。お懐かしい」
とチョビが遠くを見るように言う。
チョビが初めてテレーザを見た時、何故か懐かしく思えたのはテレーザにエメライダ王妃の面影を見たからかもしれない。
その時、チョビにユニコのガイナと呼ばれていた頃の記憶はなかったが、心のどこかでそれを感じ取っていたのだ。
「チョビ、テレーザの事すぐに気に入ったもんね。いつもテレーザの部屋の前にいて。まるで護衛の様だったわ」
と葵が言う。
都留田の家で、テレーザにあてがわれた部屋が道場の片隅にの元練習生の部屋だった、と聞いて驚くアルとレイ。
王女がまるで居候のような待遇を受けていたのだ。
「私がそれでいいって言ったのよ」
とテレーザが言う。
「あの部屋、すごく落ち着くの。また戻れるといいな」
と続けるテレーザ。
「戻ろうよ、って戻れるよ。でも今度はやっぱりちゃんと家の方に住んでよね」
と葵が言う。
「部屋は余ってるんだしな」
と駆も言う。
「うちは元々古い家屋だから、部屋数だけは多いんだよ」
と尊。
「じゃあ、少しでも早くテレーザが家に帰れるように、これからの事を話そうじゃないか。
作戦会議だ」
とアルが言った。
せっかく会うことができたテレーザ。
またすぐに去ってしまうのは、アルにもレイにも考えたくはない事だった。
しかし、葵たちとテレーザの間にある信頼感、それをみた二人はテレーザがついに自分の居場所を見つけた、そう確信していたのだ。
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