「美の国 ベルデの森」隠れ家への道のり
危ない森を進みます
「チョビ、いいえ、ユニコのガイナ、初めまして」
と目の前に現れた犬のチョビにテレーザが言う。
「おお、お前様がテレーザ王女か。お初にお目にかかります。わが名はガイナ。
王女にお仕えするのを心待ちにしておりましたが、我が寿命それを待たずして尽きまして。倭の国の片隅に生まれ変わり貴女様に再会するも、我は王女を覚えておらず大変失礼を」
とチョビ、いやかつてのガイナが言う。
「いいのよ、気にしないで。私だってわからなかったんだもの。あなたのことはよくアルとレイから聞いていたのに」
とテレーザ。
「で、結局さ、お前はチョビなのか?それともガイナなの?」
と尊が口を挟む。
「その両方だ、我は。ただ、お前たちからはチョビと呼んでもらいたいかな。何というかその方が、馴染んでいるっていうか」
とチョビが言う。
「だよな、俺たちにとってはお前はチョビだ。そのツノは少し違和感あるけど」
と駆。
葵もチョビの頭を撫でる。
シッポをぶんぶんと振りながら、目を細めているチョビ。
「私も、チョビはチョビだな。ガイナの事は色々聞いて知っているけれど、やっぱりおうちで初めてあんたに会った時からチョビとしか思わなかったっもの」
とテレーザが言う。
「まあ、チョビでもガイナでも。でもダイナ夫妻にとっては我はガイナだ」
とチョビが胸を張って言う。
そんな事を話しながら、森を進む一行。
チョビを先頭に、深い森の中をどんどんと歩く。
「チョビ、流石はユニコだね、道しるべなだけはあるよ。ここ、私だったらあっちへ行ってたかも」
と分かれ道でテレーザが言う。
チョビが二股に分かれた道を、迷うことなく進んだからだ。
チョビはシッポをぴんと立て、なんだか誇らしげだ。
しかし、少し進んだところで急に立ち止まった。
「おい、急に止まるなよ」
と後ろを歩いていた駆が言う。
「どうしたの?」
と葵もいぶかし気な顔で聞いた。
「あーあ、褒めたらこれなの?」
とため息交じりに言うのはテレーザだ。
なんともいえない、しょぼんとした顔で振り返るチョビ。
「もしかしたら、道を間違えた、とか?」
と尊が言う。
「間違ったんならいいんだけどね」
とテレーザ。
「だよな、来た道を戻ろうぜ、あの分かれ道のところまで」
と駆が言うが、テレーザは首を横に振った。
「迷ったのね」
と言いながら。
「こんなところで迷子なの?私たち」
と葵。
「なんで?道を戻ればいいんじゃ」
と言う尊に、
「知らない間に脇道にそれちゃったみたいよ。一本道に見えるけど、隠れた脇道がいくつもあるの。
そのどれかに入り込んだようね」
とテレーザが言う。
チョビはすっかり意気消沈した様子で、うつむいている。
「どこか道しるべだよ」
と駆に言われてさらにしょんぼりとシッポまで下がるチョビ。
「チョビは元々方向音痴じゃない。信用したこっちが悪いのよ」
と葵がとりなすが、その言葉にチョビはすっかりイジケている。
「だって、みんなと会えて、テレーザと会えてうれしくなったんだもん。つい道を間違えちゃったんだもん」
と小さな声で言うチョビ。
「はいはい。でもね拗ねてる場合じゃないみたいよ」
とテレーザが周囲を気にするように言った。
周りの草のかげから、小さな光がいくつも見えている。
魔獣の目が光っているのだ。
「すごい数」
と葵。
風は吹いていないのに、草むらがざわざわと揺れている。
やがてひくい唸り声が聞こえてきた。
「さっきもいた、ガリエルってやつら?」
と葵がテレーザに聞く。
「うーん、たぶんガザエルの方だと思う。ガリエルとよく似ているんだけど、すこし品種が違ってて。
ガリエルとは違ってどう猛なのよね」
とテレーザ。
「やばい奴じゃん」
と葵が言ったその時、
ガサガサと音がしたかと思うと、草が大きく揺れた。
そして、その合間からいくつもの物体がこちらに飛び出してきた。
「やっぱりガザエルだ」
とテレーザが言う。
「葵、逃げて、あの木の上」
とテレーザが大きな木を指さす。
飛び出してきたガザエルという魔獣は、チョビと同じくらいの大きさで姿もよく似ている。
しかし、牙をむいたどう猛な顔で、冷淡な目つきでテレーザたちを睨みつけていた。
数匹のガザエルがテレーザたちの前で、まるで品定めでもするように凝視しながら様子を伺っている。
テレーザも、ガザエルたちをじっと見つめている。
すぐそばの木によじ登って様子を伺っている葵。
こう言う時に発揮されるテレーザのあの「力」を感じることが出来ない。
今までと違う展開だ。
「もしかしたら、だいぶヤバい?」
と葵。
「だめだ」
テレーザはポツリと言った。
このガザエルたちの心に呼びかけたが全く無反応、どうやら無駄なようだ。
と同時に、ガザエルたちがテレーザに向かって襲いかかって来た。
思わず顔を覆う葵。
そして、恐る恐る目を開けてみると、
目の前で、激しく動く人影が見えた。
尊と駆、そしてテレーザだ。
3人とも手に木の枝を持ち、ガザエルと立ち向かっている。
木の枝だが、その構えは倭剣術のものだ。
しかしガザエルの数はますます増えていく。
どんどんと追い込まれていくテレーザたち。
「助けに行かないと。私だって倭剣術の心得はあるわ」
そう言いながら、適当な枝を手の持ち木から降りる葵。
するとすぐに、数匹のガザエルに囲まれた。
牙をむき、唸り声を上げるガザエル。
その姿に思わず、後ずさりをする葵。
「こいつら、嫌な感じ」
前方で、苦戦をしているテレーザたちを見ながら、葵は自分たちがとてつもなくヤバい状況な事を悟っていた。
その時、何か閃光のようなまばゆい光があたりを包んだ。
次の瞬間、ガザエルたちが慌てて森に奥へと走り去って行った。
「ガイナよ、遅いと思ったら。お前は何をやっている」
と閃光のなかから出てきた人影が言った。
「アル?」
そう言いながら、その人影に飛びつくテレーザ。
「やあ、王女。お待ちしておりましたよ」
とその人影、アルが言った。
テレーザを前にして、ひざまずきながら。
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