「美の国」誰と会う?
いよいよ誰かと会います
「さあ、これでいいわ」
と鏡に映るテレーザを見ながら葵が言う。
そこには、上品なドレスを着こなし、髪を優美にまとめたテレーザがいた。
その姿はどこから見ても「王女」の品格を備えている。
「うわ、やっぱあんたって、ただ者じゃないわね」
その姿を見た葵はすっかり感心している。
「なんかさ、ここじゃ虐げられてるんだ、とか言ってなかった?
でもさ、その姿は素敵な王女様だよ」
と葵。
「そりゃね、比べる対象がないからよ。お姉さまたちと並ぶとその差は歴然」
とテレーザが言う。
「そういうことね。まあ、そのお姉さまってお目にかかってみたいもんだわ」
と葵がつぶやくように言った。
「さあ、行きましょう」
と葵がテレーザと居間へと戻る。
現れたテレーザを見てバレルが、ハッとしたような顔をした。
ここにいるのは本物の王女だ、そう直感したからだ。
「これはテレーザ王女、改めましてお帰りなさいませ」
とバレルが言う。
後ろに控えていた、「侍女」たちも一斉に膝を曲げて礼をした。
「おお、馬子にも衣裳だな」
と駆。
「見違えたよ、やはり君って王女なんだね」
今、自分が従者という立場になっているというのを、すっかり忘れて尊が言う。
「俺たちの事、まだ覚えてるか?」
と駆。
見違えたような姿のテレーザ。
その心にも変化があるのではと、思わず案じていた。
「大丈夫よ、どんな姿でも私は私。これはね、葵が見立てて髪もやってくれたの。すごいスタイリストよね」
とテレーザ。
その声も話し方も今まで通りだ。
「どう?私チョイスのこのお洋服、それから髪もアクセサリーも素敵でしょ」
と葵が得意げに言った。
そんな和気あいあいとした会話を聞いたバレルが、
「まあ、仲のおよろしい事で。テレーザ王女はとてもフレンドリーでいらっしゃる」
とつぶやく。
侍女と従者という立場なら、王女とこんな風に接するなどあり得ない。
これではまるで友達同士の会話だ。
バレルの心に、少し疑問が湧いていた。
「ばれたか?」
と尊が慌てるが、
「それなら、それでもいいわ」
とテレーザがきっぱりと言った。
そして
「で、これから私はどうすればいいの?」
とバレルに問うテレーザ。
相変わらず今後の事は何一つ知らされていない。
今、何が起こっているかもわからないままだ。
ここに戻って、知った顔を見たのは姉フィオナ王女の侍女、ルナ・ルイーズただ一人だ。
そして何より、父である国王への帰国報告もまだだ、これは明らかに異常だ。
「いまから、とある方とお会いいただきたい」
とバレル。
「誰かに謁見せよと?」
とテレーザが答える。
「謁見、そうなりますね」
と独り言のようにつぶやくバレる。
「ねえ、謁見ってさ、自分より偉い人に会うことを言うんでしょ?
だったら誰よ、会う相手って」
と尊に聞く葵。
「テレーザよりも身分が上だと言うと、王と王妃、それとも姉さんたちか?」
と尊が言う。
「王ってテレーザのお父さんよね、だったら国王陛下に謁見って言うはずよね」
と尊の言葉に葵が言った。
「ま、誰と会おうと、何が起ころうと俺たちはテレーザもガードをするだけだ。
何かあれば、あいつを連れてここから逃げ出す、それだけだ」
と駆がはっきりと言った。
「それでは、参りましょう」
とバレルが言うと、テレーザは静かに自分の部屋を出た。
その後ろには、バレルと一緒にいたあの侍女たちが従う。
そこで、テレーザは葵を呼び寄せ、自分の隣を歩くようにと指示をする。
これは、特別な存在にだけ許されていることだ。
テレーザのすぐ後ろにいたバレルがその様子を見て、少しばかり驚いた表情をした。
特別な存在の事は知っている。
この娘がその特別な存在だというのか。
まるで友達同士のように、並んで歩くテレーザと葵の後姿を見ながら、バレルは先ほどわいた疑問が再び頭をよぎった。
「こいつらは、本当に王女の従者なのか、まるで友達同士だ」
と。
しかし、ここでそんな心の声を態度に出すわけにはいかない。
何食わぬ顔をして、テレーザを促した。
自分の部屋を出て廊下を進むテレーザ。
自分たち王女の部屋のある居住エリアから、王が様々な公務を行うエリアへと向かう一行。
「この先をしばらくお進みください」
とバレルが言う。
かつて、エマが初めて自分に同行して農園に行った際、母である王妃に出発の挨拶をした部屋を通り過ぎる。
この中に、今でも母がいるような気がする。
このまま、いきなり扉を開けたらどうなるだろうか。
それか、このままいきなり走りだしたら、後ろのあの男はどうするだろう。
葵や尊たちはきっと一緒に来てくれるだろう。
その自信はある。
だって、彼らは私の「家族」なんだから。
そう思うと、何故かとても安心できた。
これから何が起こるかわからないこの状況。
実は逃げ出してしまいたい気も少しはあるのだ。
それが、今ここにはあの3人が来てくれている。
自分を連れ戻すと言ってくれた。
それが何よりも嬉しく、心を強くしていた。
「さあ、ここです」
とバレルが言った。
そこには、大きな扉。
「お父様の執務室だわ」
とテレーザが言う。
その扉を開くバレル。
中の様子が少しずつ見えて来た。
「お父様?」
とテレーザは父を探すが、そこに国王の姿はない。
しかし、部屋の奥から人影が現れた。
父のものではない。
テレーザの前に立つとその人影は
「やあ、きみがテレーザだね。待っていたよ」
と声をかけた。
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