「美の国」秘密の通路のその先
ついにテレーザの部屋へ
「確かね、ここを曲がるとクリスタルパレスの奥に出られるはずよ」
と細い隠し通路を進む葵が言う。
先頭に立ち、意気揚々と前に進む葵。
まるで慣れた道でも歩いているようだ。
「ここはテレーザのお気にり通路だってよく話してくれたもの」
と葵。
「それでここまで順路を正確にたどれるって、お前の記憶力、マジすげえ」
と尊が感心した様子で言う。
「でも、通路から出てからが問題よ。テレーザの部屋がどこなのか知らないし」
と葵。
「それなら、私が知っています。ご案内できるわ」
と一番後ろから着いてきているルナ。
その手は駆の腕をしっかりとつかんでいる。
そんなルナの横で駆は葵たちに目配せをする。
もうこれ以上、ルナを同行させるわけにはいかない。
ルナが危険にさらされるばかりか、自分たちも「思いっきり」動くことが出来なくなりそうだ。
隠し通路はついに、クリスタルパレスの中枢へと入ったようだ。
ここで、通路を出る。
扉を開け、外に出る4人。
壁が二重になっており、上手く周囲から隠されている。
「ここが」
と葵。
「すんげえな」
駆も言う。
「豪華絢爛とはこのことだな」
と尊。
「ここがクリスタルパレスの王様ご一家の居住エリアよ」
とルナが言う。
「この廊下の一番奥がテレーザ王女のお部屋になります」
と。
さきほどまでの通路とは比べ物にならないくらい、豪華できらびやかな内装が施された廊下。
人の気配はなく、物音もしない。
「ここは、フィオナ・クリスティーネ様のお部屋よ。私の仕えている王女」
とルナが言った。
この廊下には幾つかの扉があるのが見える。
それぞれが、王女たちと王子の部屋なのだ。
第一王女にして時期女王であるフィオナの部屋は、その扉からして一段と美しく豪華だった。
「ねえ、ルナ」
そこで駆が声をかけた。
「あの、ここまで一緒に来てくれてありがとう。
でもここから先は俺たちだけで行くよ。君を危険な目には遭わせたくないから」
とルナを見つめながら言う駆。
一瞬、戸惑いのような、困惑のような表情を見せたルナ。
しかしすぐに悲しそうにうつむくと、
「私も一緒に行きたい。ダメですか?笑いながら言った。私もテレーザ王女の力になりたいの」
と訴える。
「もう十分、テレーザ王女の力になってくれているよ。俺たちがテレーザに会って野暮用が済んだら、また会いに来るよ」
と駆。
「だからその間、きみはいつも通りのフィオナ・クリスティーネ様の侍女としての任務をしていてほしい」
と続ける駆に、
「本当に?」
と小さな声でルナが言う。
「必ず、もう一度会いに来て」
と。
「わかった、約束するから」
と駆。
そう言いながら、ルナの手を取った。
ルナの手を、自分の両手で包み込みながらしっかり握りしめる駆。
そして、
「さあ、フィオナ王女の部屋へ行って。何事もなかったように仕事に戻るんだ」
とルナの背中を押した。
ルナは黙って頷くと、目の前の扉を叩いた。
すると中から、ルナの同僚と思われる侍女が現れた。
すぐに、部屋に招き入れられるルナ。
「あら、ルナ、大遅刻よ、みんな心配していたんだから。あと少し来なければ報探しに行かなきゃって」
「ルナ・ルイーズ、遅刻は大目に見てあげるわ。早く仕事に戻ってちょうだい。あなたがいないから、ちっとも進まないじゃない」
「フィオナ様がいらっしゃらない時でよかったわね、フィオナ王女はずっとお部屋に戻られていないわ」
廊下の隅で、身を隠していた葵たちに、そんな会話が聞こえてきた。
ルナが、皆にかっ込まれながら部屋の奥に入るのを確かめると、ほっと胸をなでおろす葵。
「あの子だって、大切にされてるじゃない。みんなに必要とされてるじゃない」
そう思った葵に安堵の表情が浮かんだ。
「じゃ、俺たちも急ごう」
駆の言葉に足早に進む3人。
「あの子、あんたに夢中じゃない」
と葵が駆をつつきながら言う。
「これも作戦」
と駆。
「なにそれ、あの子は本気よ。誠意のないことはしないでよね」
と葵が言うと尊も頷いた。
「だいたいお前はいつもチャラチャラしすぎなんだよ」
と尊。
「ロベル・リゾートでだって、エステル王女がおまえにぞっこんだったし」
と尊がいうと、
「どの女子にも最大限の誠意は見せるよ。俺は紳士だもん。
兄いこそ、嫉妬してんの?モテない奴は心が狭いねえ」
と駆。
「もうそう言う話はやめてよ」
と葵が2人の会話を遮った。
「さあ、ここよ、テレーザの部屋」
と葵。
先ほどのフィオナ王女の部屋の扉に比べると、その差は歴然かなり地味な造りだ。
この廊下に並んでいる扉のなかでも、一番質素なのが一目でわかった。
「これが王女格差ってやつね」
葵はそう言いながら、少し深呼吸をすると、その扉を叩いた。
しばらくして、静かに開く扉。
ほんの少し扉が開いたところで、ものすごい速さで部屋に引きずり込まれる3人。
「おい、乱暴だな」
と思わず尻もちをついた尊が言う。
「ほんと、なんだよ」
と駆。
葵だけは、静かにその場に立っていた。
目の前にいる人影に近づくと、そっとその頬に手を伸ばしながら、
「テレーザ?」
と小さく呟いた。
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