「倭の国」留守を守る者たち
やきもきする両親
倭の国、都留田家の居間。
孝太郎と瑛子がパソコンの画面をのぞき込んでいる。
そこには、尊たちの持っているタブレットとスマホの位置情報が表示されているのだ。
位置情報が示しているのは、美の国、王都の中心部。
「城に潜入したのか」
と孝太郎。
「解像度を上げてみよう」
とパソコンを操作した。
すると画面の地図が拡大され、より詳しく位置が示される。
そこは王宮、ディアロポス宮殿の敷地内だ。
「もうあの子たちに任せるしかないわね」
とそれを見た瑛子が言った。
「もう電源を切ってちょうだい」
と瑛子が続ける。
この精度の高い位置情報検索システムは、孝太郎の職場のネット環境を使っているのだ。
履歴が残ることになる。
あまり長く使うのはよくない、そう判断したのだ。
「まあ、居場所は特定できた。これだけでもよかったな。一般家庭ではここまで詳しくはわからないからな」
と孝太郎。
「あの子たちがテレーザを連れ戻してくれるといいのだけれど」
と瑛子が言う。
そう言いながらも、ロベル・リゾートでの光景ががよみがえって来た。
有無を言わせぬ、威圧感でテレーザを連れ去った、あの使者たち。
あれが国家権力というやつなのか。
「一般庶民」の自分たちはどうすることも出来なかった。
「だから、今動いているんじゃないか。お留守番部隊としてはこれくらいしか出来ることがない」
と瑛子の気持ちを察した孝太郎が言った。
「テレーザが美の国に戻って、幸せに暮らせるならそれでいいのだけれど、とてもそうは思えない」
と瑛子。
孝太郎も同意見だった。
何かの陰謀に巻き込まれるのは必至だろう。
勤務先である外交局で、美の国の情報を調べてもこのところずっと更新されていない。
「あの国で何かが起きている」
そう思わざるを得ないのだ。
「オルト爺と婆も、少しでも異変を察知したらすぐに知らせてくれると言って下さったわ。
何の連絡もない、ということは大丈夫なのよね」
と瑛子が言う。
子供たちだけで美の国へ潜入させてしまった、もう気がかりで仕方がない。
テレーザの事も加えて心配は尽きない。
「それにチョビったらどこに行ったのかしら」
と姿が見えない愛犬チョビを気に掛ける瑛子。
「ほんとにうちの子たちは、どいつもこいつも」
と孝太郎も言う。
その言葉を聞いて、瑛子は少しだけほっとした。
うちの子たち、その中にはテレーザも含まれている、そう感じることが出来たから。
その時、玄関のチャイムが鳴らされた。
インターフォン越しに聞こえてきたのは、
ウェルター・ハナコの声だった。
正式な旅行者ではなかったテレーザの、旅行者としての認定をした際、審問官として同席したウエルター。
かつて、美の国王女、テレーザの侍女でもあった魔法使いだ。
「まあ、ウエルターどうしたの?」
と瑛子が言うと、
「オルト爺さんからの依頼でこちらに参りました」
と言うウエルター
何かあったのか、と一瞬顔を見合わせる孝太郎と瑛子だったが
「あまり時間がありませんので」
といきなり上がり込んできた。
今のソファに座り、何やら取り出すウエルター
そして、一人ぶつぶつと呪文を唱える。
しばらくして、ウエルターの取り出した手鏡から声が聞こえてきた。
尊と葵の声だ。
「あ、パパ?ママも。私たちは元気よ」
と葵が手を振っている様子が手鏡に映し出されている。
「俺も、駆もだ」
と尊も言う。
「とりあえず、無事に着いたわ。美の国、これからテレーザの部屋に行く所よ。たぶんもうすぐ会えるわ」
と葵。
「ダイナ夫妻って、オルト爺さんたちの友達の魔法使いにも会って、色々協力してもらってるよ」
と尊が言う。
「だから安心してね、みんな元気だから」
と葵の笑顔を見せる。
その様子に安堵する孝太郎と瑛子。
しかし、先ほどから、駆の姿が見えない。
「おい、駆はどうした、いないのか?」
と孝太郎が言うと、
「駆はねえ、あっちで女の子といちゃついてるわ」
と葵、
葵が指さした方が映し出された。
そこには、女の子の肩に手をまわし、何やら親密に話し込む駆らしき人物の姿があった。
「あいつ、何をやってるんだ」
と孝太郎が半ば呆れたように言う。
「これも作戦、仕方ないのよ。あそこにいる女の子も協力してくれてるんだけど、私たちの素性をあんまり知らせたくなくて」
と葵。
「だから、急に通信できるって連絡が来た時、この場にいない方が良いってなって、
駆があっちで足止めしてくれてんの」
と尊が説明をした。
「そういうことか」
と妙に納得した様子の孝太郎。
しかし、瑛子は
「でも、会ったばかりの女の子に、なんてことをしているの。くっつきすぎよ」
いらだった様子で言う。
「すみません、もうお時間です」
とそこにウエルターが口を挟んだ。
「じゃあね、また。ばいばい」
と葵の声を最後に通信は途切れた。
「短くて申し訳ありません。私の力ではあれが限界で」
とうなだれる。
「いえ、あの子たちと話ができるとは思わなかったわ。ありがとう」
と瑛子。
「オルト爺たちと美の国のダイナご夫妻のご助力で、通信に成功しました。
また電波が良い時、わたくしがお繋ぎいたします。また今日のように突然お邪魔することになるかもしれませんが」
そう言うとペコリと頭を下げるウエルター。
「ウエルター、本当にありがとう、さあ、顔を上げて」
と孝太郎。
「それにしても、駆はほんとに」
と孝太郎が言う。
先程の女の子との一件だ。
「まったく、異国の女の子にあんなに馴れ馴れしく」
と瑛子。
「駆君は女性を魅了する才能があるんですね」
とウエルターも言う。
「彼から、女子が好むオーラががんがんと出ています。あの子、本気で駆君に恋をしてますね」
と続けた。
「なんですって?そんなこと」
と瑛子。
「まさか、戻ってくるとに一緒に連れてくるんじゃないだろうな」
と孝太郎が笑いながら言った。
しかし、瑛子にその冗談は全く通じなかったようだ。
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