「美の国」王宮潜入準備
いよいよ王宮侵入、でもここは?
「あっさりと行かせていいの?」
葵たちが消えた後、洞窟の隠れ家でレイが言った。
ちょうど、葵たち3人と犬のチョビがアルの移動魔法によって「王宮」へ行った直後だ。
「まあ、これも経験だ。あの子たちは美の国の王宮を見学できる。ほんの少しだがな」
とアルは意味有り気だ。
自分たちで王宮に送り込んだものの、テレーザを連れて戻ってくるなど不可能だ。
アルもレイも疑うことなく、そう思っていた。
「それにしても、あの子に将来の夢が出来たなんて」
とレイが言う。
その言葉に深く頷くアル。
2人はしばし感慨深く、かつてのテレーザを思っていた。
決して逆らわない、抗わない、すべてを受け入れ、そして従う。
それがテレーザだった。
それでも、アルとレイには時々彼女の本心を漏らしていた。
自然が好きで、ベルデの森を探検するのが好きだったテレーザ。
そこで出会う魔獣と言われる動物とも仲良くなり、木々や花々の声が聞こえ小川の流れに乗って心を遠くに移動させることも出来た。
それを楽しそうに、アルとレイに話した。
王宮では父母である王と王妃、そして姉たちには決してそんな話はしなかった。
そもそも、彼らはテレーザが何が好きでも、何を見て感動しようと興味がないのだ。
王と王妃、そして王女と王子、王族と言われていても、彼らは「家族」のはずだ。
それなのに、この「家族」はテレーザの事を気にかけもしない。
「テレーザに会えたら、聞きたいですね。その将来の夢」
とレイが言った。
「会えたら、な」
とアル。
心のどこかで、また会えるのか、そんな思いがくすぶっている。
今、同じ美の国にいると言うのに。
「あの子たちなら、何かやってくれそうよ」
とレイ。
葵たちと接したわずかな時間で、葵たちのテレーザに対する思いを感じ取っていたのだ。
ーその頃ー
「ここ何処よ?」
と葵がチョビに詰め寄りながら言った。
気付けば自分たちは、重厚な石造りの屋敷の廊下にいた。
周囲に人の気配はない。
長い廊下のその先は、薄暗くて何があるのかわからない。
チョビは首をかしげるばかりで、まるで頼りにならないではないか。
尊がタブレットを取り出した。
「ここは」
と尊。
どうやら電波が通じるようだ。
「位置情報によると、美の国、王都ディアロポス宮殿だ」
と尊が言う。
「王宮なの?それにしてはなんか」
と葵。
「なんか、地味だよな。ほんとに王様のいる城なのか?」
と駆。
この廊下、床も壁も窓も、倭の国とはまるで違う。
歴史の重みを感じる、しかし華やかさも豪華さもない、そんな印象だ。
「えっと、こっちだったかな」
とチョビが廊下の先に進んだ。
「何、どこに行くのよ?」
とチョビを追いながら葵が言う。
「まずは、着替えだよ。そんな格好でうろつかれたら一瞬で拘束だから」
とチョビ。
3人はごく普通の若者が好む洋服を着ている。
ごく普通、倭の国では、だ。
「王宮をうろつくなら、それなりでないと」
とチョビが周囲を見回しながら言った。
「さ、ここだ」
とチョビが廊下の先にあった扉の前で止まった。
そして扉を前足でがりがりと引っ搔いた。
「ここ、誰かいるのか?」
と尊。
葵と駆も身構える。
「そんな足で」
と葵が言い、扉を叩こうとしたその時、
扉が静かに開いた。
中から声がする。
「あなたがチョビね。お連れしてくれたの?」
と女性の声が言う。
「そうだよ、中にいれてよ」
とチョビ。
すると扉が大きく開き、葵たちを中に招き入れた。
3人とチョビが入ると、すぐに扉が閉められた、そして。
「お待ちしていたのよ」
そう言って、葵の手をとった女性。
「あの、あなたは?」
と葵。
その女性がとても親しげだったのだ。
「私は、レイアと言います。テレーザ王女の第一侍女です」
とその女性が言った。
「王女を救いに来てくれたのよね。さ、こちらへ」
と部屋の奥に通される3人。
「レイア」
テレーザが話していた、幼い頃から世話をしてくれた侍女だ。
「私も急にダイナ夫妻から連絡を受けてね。ここにで待機していたのよ」
とレイア。
「ここは?」
と葵が言うと、
「ここは、まあ倉庫ね。城で働く人たちの装束や必要な物をしまってあるの。私は今ではこの倉庫の在庫管理をまかわれているから、定期的にここに来ているわ。
私はね、テレーザ王女の侍女としては暇を出されているの。だから今は誰の専属でもなく王宮の雑務をやっているわ。故郷には戻りたくないのよね」
とレイアが言う。
「それはテレーザが倭の国に来た時かな?」
と葵。
レイアは静かに頷いた。
テレーザが「消滅」させられたために、テレーザ付きの侍女はみな役を解かれた、と聞いていた。
その侍女たちの事を、テレーザはとても気にかけていた。
何のお咎めもなく、故郷に戻っていることを願う、いつもそう言っていた。
「あの」
と葵が言った。
そうしても気になっていること、
アルとレイに聞くことが出来ないまま、ここに来てしまった。
「あの、エマはどうなったんですか?」
と葵が言った。
テレーザが一番心配していた侍女のエマ、その安否。
家族の元に戻っていないのははっきりした。
それならば、どうしたのだろう。
そんな葵の問いかけに、
「エマの事を知っているのね。でも今は何も話せないの。ごめんなさい」
とレイア。
何か訳があるようだ。
尊が目配せをし、葵はそれ以上何も言わなかった。
エマの事は気になるが、それよりもまずはテレーザに会うことだ。
「さ、これを着て。そんな格好、どこで売ってるのよ」
とレイアが言う。
手に持っているのは、キナリの重たそうな衣装。
葵には、侍女の、尊と駆には従者の制服が渡された。
「これ、着るのか?」
と駆。
それは、絵本で見たことのある、王子様の横に控える者が来ていた
「ヘンテコリン」な装束だった。
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