「美の国」わが名はチョビ
チョビ、都留田家のワガママな愛犬のはず
「おい、お前たち」
と低い声でその「犬」は声を発した
良く響く低音のハッキリとした言葉で、。
犬の前には、尊、葵、そして駆。
この3人は、自分たちの目の前にいるこの「犬」をしげしげと眺めながら、
驚きと、それから笑いをこらえていた。
「わが名だって」
「なにイケボで話てんの?」
「でもさ、チョビはチョビだし」
と葵、そして
「チョビちゃーん、会いたかったよ、もう心細くて」
と言いながら、チョビを抱きしめる葵。
「だから、離せ。我はあのチョビではないのだから」
と相変わらず低い声で言うが、
「シッポ、ぶんぶんと振りながら言うな」
と駆。
普段からチョビは餌をやり世話をしてくれる瑛子と葵に特に懐いていた。
テレーザが来てからは、毎晩テレーザの部屋の前で見張るように眠り、尊たちにはあまり愛想がよくなかったのだ。
「そりゃあ、我だって葵に会えるのはうれしい。だから仕方ない」
とシッポを振っている言い訳をするチョビ。
「それで、なんであんたがここに居てそんな声でしゃべってんのよ?」
と葵が聞いた。
尊と駆もチョビを取り囲む。
「だからだな、我は」
とチョビが言うが、3人から睨むように見つめられて言葉が出てこない。
「オルトの爺ちゃんがお前たを守り導くようにって我を一緒にここに飛ばしたんだ」
とチョビ。
「お前が守んのか」
と笑い声をあげたのは駆。
いつもは臆病で何かあるとすぐに隙間に隠れる。雷が鳴った日には、部屋の片隅でぶるぶると震えていた。
「まあ、姉ちゃんに抱っこされてるときだけは唸ったりできるけどな」
と駆が言う。
どちらにせよ、このチョビ。
家ではあまり頼りになる存在ではないようだ。
「で、導くってどこにだ?」
と駆が続けた。
「まあ、それはそれと。まずはお前たちを隠れ家に連れて行く。
付いてこい」
と言うとチョビは3人の前を歩き始めた。
「どこへ行くのよ」
と葵が聞くが答えることはないチョビ。
森の中を先頭きって歩くチョビ。
その風貌は普段のチョビとは少し違っていることに葵が気づいた。
「ねえ、チョビ。あんたいつもよりも毛が長くない?耳だってピンとしてるし」
と葵が言う。
「それに、さっき気付いたんだけど、あんたなんでツノがあるのよ」
と続ける葵。
さきほどチョビを抱っこしたとき、頭の真ん中に何か異物があるのを見た。
よく見るとそれは小さなツノだった。
「なんだよ、頭の真ん中にツノだって?一角獣だったのか、おまえ?」
と尊と駆が同時に声を上げた。
「いや、我はユニコの分身だ。」
とチョビ。
魔獣ユニコ。道しるべの獣といわれている。
魔法の世界に存在する魔獣の一種だ。
人々が道に迷わないように道案内をし、危険にさらされたときにはどこからともなく表れて
逃げ道を教えてくれる。
そんな野獣だ。
「なんでお前がユニコなんだよ。犬のくせに迷子になって家に戻れなくなった奴が」
と尊。
かつて、散歩に出た際、車のクラクションに驚いておもわず駆け出しそのまま道に迷ったのだ。
家族総出で探し回り、近くの公園の植木のなかで震えながらうずくまっていたところを発見されたのだ。
「あれは倭での我だ。いまの我は違うぞ」
とチョビが少し怒りながら言う。
「そんなに信用しないなら、もうお前たちを導かないぞ」
と強気に言うチョビ。
「はいはい、ユニコチョビちゃん、あんただけが頼りよ。まあ、この状況。どうすればいいのか途方に暮れていたところだもの」
と葵がチョビの頭をなでながら言う。
「では仕方ない、付いてくるがいい」
とチョビ。
またシッポをぶんぶんと振っている。
チョビは迷うことなく入り組んだ森の小道を進んでいく。
うっそうとした木々のせいで、周囲は薄暗い。
何度、わき道にそれ小道を曲がっただろう。
細い道をしばらく進ん出先に小さな洞穴が見えてきた。
樹のつたや草におおわれて、ほぼその先がわからないほどの洞穴だ。
その手前で止まるチョビ。
そして、
「ウォーン」
と遠吠えを放った。
すると、洞穴の先に淡い光が差した。
そして、おおわれていた草木がするするとほどけて、洞穴の入り口が現れたのだ。
「さあ、着いたぞ」
とチョビ。
「ここに入るの?」
と葵が言う。
いかにも怪しげなこの洞穴。
先に進むのを躊躇する3人に、中から声がした。
「やあ、君たち。待っていたよ」
と。
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