「倭の国」出発
葵たちが動きます
「行くしかない」
と決意を決めたのは、瑛子だった。
都留田の家を訪れたオルト爺と婆によって語られた、テレーザの心にあると言う「王家の魂」、その行方を左右するのは自分たちだというのだ。
旅行者、テレーザの後見人。
それが自分と夫の孝太郎なのだ。
「正式に滞在許可申請をうけておいてよかった」
と瑛子は思う。
そんな瑛子に、孝太郎が声をかけた。
ただ一言、
「なあ」
と。
そして、
「お前たち、しばらく留守番はできるな」
と葵たちを見て言う孝太郎。
そして孝太郎と瑛子は、たがいに目配せをして何か意味有り気に頷いていた。
「ねえ、パパ、ママと二人で美の国へ行くつもりなんでしょ?」
と葵が聞いた。
「おお、ど直球に聞くね」
と駆。
「俺たちを置いて行くつもり?」
と言う尊だ。
「お前たちを連れて行くわけにはいかん。何が起きるかわからんからな」
と孝太郎。
「そうね、私たちはあの子のその魂ってやつに必要なのよ、あなたたちはここで待っていてちょうだい」
と瑛子も言った。
「でもさ、どうやって行くんだよ。美の国まで。
正式に旅行許可をもらって、それからになると1か月は先になるぜ」
と尊が言う。
ここ、倭の国から他国に行くには孝太郎の勤務先でもある、外交局の異国訪問係に申請を出しそれが承認されれば旅立つことが出来るのだ。
一般の訪問者として。
「1か月も先じゃ、テレーザがどうなってるかわからないじゃない」
と葵。
「だったら、もっといい方法がある」
と駆が言った。
尊、駆、そして葵が互いに目配せをする。
「私たちが旅行者として美の国へ乗り込む、そして先遣隊として偵察する」
という尊たち。
旅行者としてなら、すぐにでも異国への移動が可能だ。
ここファンタジーワールドを自由に行きかう旅行者たち。
正式に承認されている旅行者もいれば、全く非承認のもぐりの旅行者も横行している。
「そうだな、それもいい考えかもしれん」
と今まで黙っていたオルト爺が言った。
「孝太郎と瑛子さん、あんたらが行けばテレーザの王家の魂を解き放つことが出来る。
これはいい事ばかりではない」
とオルト爺。
「そうなの?」
と瑛子。
「そうか、万一、テレーザの持つその魂が邪魔な輩がいた場合、我々がそれを解き放てば相手の思うつぼだ。テレーザの身も危ないかもしれない」
と孝太郎が言った。
「でしょ、だからさ、パパとママがテレーザに近づくのは危険なのよ。
私たちが様子を見てくるわ」
と葵が言う、その顔は自身に満ちていた。
「ねえ、爺ちゃん。私たちを美の国へ飛ばして」
と葵。
旅行者が異国に行く手段はいくつかある。
「ゲイト」という移動手段は正規ルートだ。
それに、魔法使いの移動魔法によって「飛ばされる」こともある。
これはテレーザが倭の国に来た時の方法だ。
「わしに、お前さんたちを飛ばせとな」
とオルト爺。
頷く3人。
「でも10分だけ待って。支度してくるから」
そう言うと葵も、尊、駆も自分の部屋へと駆け戻って行った。
「爺さん、あの子たちを本気で飛ばすつもりですか?」
と孝太郎が言う。
子供たちだけを「旅行者」として美の国へ行かせるなんて。
そんな事を許可できるわけがない。
「テレーザを連れて行った美の国の使者が、私たちを探していないということは、テレーザの王家の魂というものが、問題になってはない、ということでしょう?
だったら、私たちが美の国へ行っても」
と瑛子も言う。
確かに、テレーザの心にある「王家の魂」王位を継ぐ権利。
これに何かするには孝太郎たちの許可が必要だ。
だったら、自分たちに何らかの接触があるはずだ。
それがない、ということはテレーザ王家の魂は、まだテレーザの心にあって問題がないということだ。
「テレーザを連れ去った王宮の者たちが、王家の魂の存在を知らないのかもしれん」
とオルト爺が言った。
王家の魂、その存在を知っているのは王と王妃、そして忠実な側近に限られている。
王の子供たちでさえ、時期が来るまで知らされることはない。
「それでも、あなたがたが美の国へ行くことで、テレーザに危険が及ぶかもしれませんね」
とオルト婆が口を出した。
「あなたがたが、テレーザに近づくことで有能な魔法使いなら心にある魂が見えるからじゃ」
と爺が言った。
「知らないままの方が都合がいいか」
とその言葉を聞いた孝太郎が言った。
「さあ、準備できたわ。お爺ちゃん、お願い、私たちを美の国へ飛ばして。
テレーザの側に行きたいの。テレーザの力になりたいの、私たちは家族なんだから」
と荷物を持って現れた葵が言った。
その側には尊と駆、同じように大きなバッグを持ちそして葵の言葉に頷いている。
「そうか、それでは、行くがいい」
というが早いか、オルト爺が3人に移動魔法をかけた。
みるみるその姿が霧になり消えていく。
「尊、駆、葵!」
と孝太郎も瑛子も叫ぶが、もうその姿は消えてなくなっていた。
「爺さん、まだ我々は許可していないぞ」
と声を荒げて孝太郎が言う。
「あの子たちは旅行者として美の国へ送った、その身は保障されておる。
それに」
と爺が言ったところで、
「もし、あの子たちに危険がせまったら、その時は私が強制的にこちらに戻します」
とオルト婆が口を挟んだ。
オルト婆には、身の危険にさらされた者を遠隔で移動させる力があるのだ。
「保証するわ」
とオルト婆。
オルト婆のその力、それは膨大な魔力を使う。
もしも3人一度に、引き戻したりしたら、オルト婆の命と引き換えになることは避けられないだろう。
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