美の国の王女さまと王子さま
どこまでも影の薄い王女テレーザ
さまざまな国が集う、ファンタジーワールド、そのトップに君臨する
5大王国。
その5つの国を治める王、そして王族はその国民の羨望の的だ。
そして、魅力にあふれる王族たちは、国の境を超え人々に愛され慕われそして絶大な影響力を持っていた。
そんな5大王国の一つ、美の国の王女、王子も世界的な人気者だ。
美貌溢れる王女たちのポートレイトは発売と同時に即完売、王子の顔写真入りの玩具は飛ぶように売れる。
王女のすべてが世界中の若い娘たちの憧れ、崇拝の的だった。
髪型、メイク、ドレス、持ち物に至るまで。
特に美の国第一王女、フィオナ・クリスティーネは女の子たちのカリスマ的存在だ。
王女のようになりたい、王女に少しでも近づきたい。
特に、小国の姫君たちは、同じデザインのドレスをあつらえ、髪型をまねて
フィオナ・クリスティーネの美しさを少しでも取り込もうと躍起になっていた。
美の国、週に一度の報告の儀では、
「今週の各国ポートレイトの売り上げですが、
ダントツの第1位はフィオナ・クリスティーネ王女、そして、第3位にカタリナ・オルセウス王女、第6位、ユリアナ・マーガレット王女でございます」
と侍従が世界姫君ポートレイト売り上げランキングを報告する。
「そして、ジャン・ルドルフ王子がイメージキャラクターをお勤めになられました玩具、ポッピンジャンプの売り上げが、新記録を達成いたしました。玩具メーカ創業以来のこととのこと」
と報告を続ける。
その言葉に満足げにうなずく王、そして王妃。
横に並ぶ3人の王女たちも、笑顔で報告を聞いていた。
「母上、そのおもちゃの会社に僕、行ってみたいな。僕のおもちゃを頑張って作ってくださる人たちを訪問したいんだ」
とジャン・ルドルフ王子が言う。
「まあ、王子ったら、従業員の慰問だなんて、なんて優しいのかしら。まるで天使だわ」
王子の言葉を聞いた母、王妃が大げさに王子を抱きしめながら言った。
「これは、従業員一同、この上なき名誉、励みになることでございまじょう。
早速、ご予定を調整いたしまする」
と侍従の一人が言う。
「父上、母上、わたくしたちも北の小国を親善訪問したいと思っておりますの。
いかがでしょうか」
と第2王女のカタリナ・オルセウス。
「新しいポートレイトをもって、北の小国の姫君たちに面会をしてきたいのですが」
第3王女、ユリアナ・マーガレットも続けて言う。
「そうだな、フィオナ・クリスティーネは王位継承者、簡単に諸国を訪問をすることはできないが、
そなたたちなら可能だ。小国の姫たちに洗練された美を伝えてくるがよい」
と国王が快諾する。
「では、その予定で。お姉さまは残念だけどお留守番ね。
そして、あんたもよ」
とカタリナ・オルセウスに冷たい視線を送られたのは。
隅の方でポツンと立っていた第4王女、テレーザだった。
テレーザもポートレイトは定期的に新作を発売している。
が、しかし、毎週の報告の儀で話題に上がったことはない。
テレーザも美の国の王女ということで、少女向けメイクセットもイメージモデルになったこともある。
が、しかし、売り上げは史上最低を記録した。
「まあ、テレーザは王宮内で姉上の身の周りの手伝いでもなさい」
と母王妃が言う。
黙ってうなずくテレーザ。
いつもそうだ、いつも。
「来週の予定でございますが、姫君たちのポストカード付のスナック菓子が発売になります。
その売り上げの報告が出来るかと」
と侍従が言い、その日の報告の儀はお開きとなった。
北の小国のへの訪問が決まった第2王女と第3王女、それから玩具メーカーへの慰問をする王子。
周囲はその準備で慌ただしく動き回っている。
そんな中、テレーザは一人部屋に引きこもる。
それを周囲は誰も気づかない。
そんなころ、姫君ポストカード付スナック菓子が全世界で一斉に発売された。
各国の姫君のポストカードがおまけについている、スナック菓子。
発売と同時に売り切れ店続出だ。
「わあ、やったあ、美の国のフィオナ王女のポストカードよ」
スナック菓子を買った少女が歓声を上げる。
「私は、ユリアナ・マーガレット王女、なんておきれいなのかしら」
美の国の3人の王女たちはポストカードでも大人気だ。
「あれ、これ誰かしら。えっと、なに?テレーザ王女?誰よ」
とポストカードを見ながら不思議そうに言う女の子。
「え、これって美の国の第4王女だって、地味な子」
「なになに、こんなの出たの?はずれたねー」
テレーザのポストカードを引き当てた女の子が周囲から笑いものにされていた。
その子も、
「いらないわ、こんなの」
と、テレーザのポストカードをぐしゃりと握りしめ、そっとゴミ箱に捨てていた。
翌週の報告の儀、
「スナック菓子の売り上げは例を見ないほどの伸び、そして美の国姫様のポストカードはどれも大人気でございます」
と侍従が報告をする。
「ただ一人だけの例外を除いては」
と続ける侍従。
その例外とは、もちろんテレーザのことだった。
その場の全員が、言葉を聞かなくてもそのことをわかっていた。
あたりまえすぎるほど、あたりまえのことだから。
「やっぱりね」
全員が、そう言いながら目配せをする。
もうテレーザを見る者もいない。
まるで空気のように扱われるテレーザ。
「はやく部屋に戻りたい」
テレーザはそれだけを思っていた。
彩の国の使者がテレーザのと自国の王子との婚姻の打診に親書をもってやってくる少し前のことだった。
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