「倭の国」極秘連絡
オルト爺、何かを知っているのか?
「いきなりドアを開けるなんぞ、不用心なことを。儂の名を語る怪しい輩だったらどうする?」
と言い放ったのは、開け放たれた玄関先に立つオルト爺だ。
玄関のチャイムが鳴り、オルト爺と名乗る人物がそこにいる、
瑛子は思わずよく確認もせずに、勢いよく玄関ドアを開けたのだ。
「オルトさん、ご連絡しようと思っていたところだったので」
と瑛子が少しだけ言い訳がましく言った。
「まあ、まあ、爺さん。嫌な言い方しなさんな」
と穏やかにいぅのはオルト婆だ。
「まあ、歓迎してくれるなら、ありがたく」
と爺が言いながらずかずかと上がり込んだ。
「また、爺さん、おあがりくださいって言われてないって」
と玄関先で婆が言う。
「おふたりとも、どうぞおあがりください。」
と慌てて言う瑛子。
その言葉を聞き、婆も家に入った。
居間でオルト爺と婆を取り囲む、都留田家の面々。
みな一様に「険しい顔」をしている。
そこに現れたオルト爺、そして婆。
険しい顔は、すがるような視線に変わった。
「そんな目で見られてもな」
とつぶやくオルト爺。
「ねえ、爺ちゃん、テレーザは」
と語気を強めて言う葵。
葵は、いやここに居る全員がオルト爺と婆が事情を知っていると思っている。
彼らがここに来てくれなければ、こちらから押しかけるつもりだったのだ。
「テレーザの事だがな」
とオルト爺。
「あれはついこの間のことだ」
とオルト爺が話し始めた。
「美の国のダイナから緊急の連絡が内密に入った」
と、封筒に入った一通の手紙を見せながら言うオルト爺。
その極秘連絡で、テレーザが美の国に呼び戻されることを知ったと言う。
「なんで呼び戻されたんだよ?」
と駆。
それが一番知りたいことだ。
「それなんだが」
とオルト爺は言葉を濁らせる。
「知らないの?」
葵が不満げに聞いた。
「肝心なところが、切り取られているんだ」
とオルト爺が言う。
オルト爺の元に届いた極秘連絡。
魔法を使った手紙のようなもので、秘密のルートを通って極秘に連絡を取ることが出来る。
スマホやタブレットだと情報が漏洩する可能性もあるが、この秘密連絡は完全なセキュリティがほどかされており、指定した相手にしか読むことが出来ない仕組みなのだ。
「最高の魔力が使われていますね」
とその「極秘連絡」の封書を触りながら尊が言う。
「それでも、この先がない。何か悪意があるとしか思えない」
と尊が続けた。
「いや、違う」
と尊。
手紙をよく見ながら、先ほどの言葉を訂正した。
「悪意ではないな。これは手紙の送り主、ダイナ氏が自分で破棄したんだ」
という尊。
その封書には強力な魔力が込められており、確実にオルト爺の元に届くようになっていた。
これほどの魔力は相当の魔法使いでないと使えないレベルだ。
しかし、手紙の内容はどう見ても、途中から切り取られたかのように、中途半端で終わっていた。
「おお、若いの、尊と言ったな。魔法学をよく学んでいるな」
とオルト爺。
尊の分析を素直に称賛した。
「わたしも、外交局専用端末を使っていろいろと調べたが、何も情報が出てこない」
と孝太郎も言う。
「ダイナは知らせない方がいいと判断したようだ」
とオルト爺。
「美の国で、何かが起きている」
と尊が言った。
「そういうことになるな」
と爺が頷いた。
「だから、それを知りたいのに」
と葵がイラつきながら言う。
「まあ、そんなに怒るな、嬢ちゃん」
とオルト爺が言うが、
「だってさ、何かが起きてる国に連れ戻される王女の運命って、そりゃあヤバいに決まってるでしょ」
とまくしたてる葵。
「まあ、そうなんだがな」
とオルト爺。
このゆったりとした話し方が、増々葵を怒らせるようだ。
「だから、怒るなって。テレーザが王女として呼び戻されたということは、あの子の命が狙われることはない」
とオルト爺が言い切った。
その言葉に、一同安堵するが、すぐに葵が、
「なんでよ、何を根拠にそんなことを言うの?」
と食い下がった。
「お前さんには、わかるか?」
とオルト爺が尊に言った。
考え込む尊。
答えが出ないようだ。
「まだ修行が足りんな」
とオルト爺。
今の尊の魔法学の知識では感知は出来ない、そう察したのだ。
「あの子の心には、まだー王家の魂ーが残っている」
とオルト爺が言う。
「王家の魂?」
と首をかしげる尊。
知らない言葉の様だ。
「普通、消滅だろうがなんだろうが、国を追われる王族は
王家の魂の除去をするもんなんだが。あの子は持ったままこの地へやって来た」
とオルト爺が言うが、
「だからさ、王家の魂ってのがあると何なの?」
と葵が聞いた。
「まったく、せっかちな嬢ちゃんだ」
とオルト爺がいいながら、
「王家の魂、王族の王位継承権を持つ者が心に宿しているものだ。
王家の魂を持っている限り、あの子には美の国の王になる権利がある」
とオルト爺が言った。
「クーデターか?」
とオルト爺の話を聞いた孝太郎が言った。
「テレーザを女王に祭り上げようとする、何かしらの勢力があるのか」
と続ける孝太郎。
「だったらさ、テレーザの夢、叶わなくなるじゃん」
と葵。
テレーザの夢である、テラピアーナとして人の役に立ちたい、女王なんかにあったらその夢がかなわない。
「テレーザがやっと見つけた自分の夢よ、進みたい道よ。
それが叶わないなんて、許せない」
と葵が言う。
感情のまま言葉を荒げる葵を横目に、またしても大きな力により翻弄されるテレーザを想い、
瑛子の心は酷く痛んでいた。
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