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森の奥の魔法使い

王女の結婚、どうなる?

テレーザ王女が彩の国の王子と結婚する、

正式に国の内外にむけて発表されたのは、テレーザが父である国王よりその話を伝えられた翌日だった。


その日のトップニュースはもしろん、テレーザ王女の婚儀だ。

テレーザが話題の中心になる、そんなことは初めてだった。


美の国のみならず、他の国々からもこの婚儀に祝福の声が寄せられた。

テレーザ王女を迎える彩の国では、心からの歓迎を表明し、

他の5大王国も、惜しみない祝福を送った。


美の国国内でも、祝賀ムードに包まれていた。

王都、クラウディアータの街中に祝福のバラの花があふれ、テレーザ王女の顔写真が飾られている。


「あのお姫様がお嫁に行きなさる、もうそんなお年頃なのか」


「お相手は彩の国の王子だ、これはテレーザ王女もお幸せだ」


「お姉さま方を差し置いて、あの王女様が一番にお輿入れなさるなんて」


そんな噂話があちこちで聞かれる。


「影の薄い王女だけれど、彩の国へ嫁ぐなんて、これであの国との関係も明るい未来しかない、お国のために役に立てて王女も本望だろう」


「ついでの姫なんだから、外交の手段くらいにはなっていただかないと」


「さすがに姉姫様方を国外に行かせたくはないのだろう、真っ先に第4王女を嫁がせる、賢明なお考えだ」


そんなことも聞こえていた。

テレーザの婚儀は美の国のため、テレーザの気持ちなどどうでもいい。

それどころか、「ついでの王女」がやっと国の役に立つ、それくらいしかあの王女に存在価値などない。

とまで言われている。


そんな周囲の噂話をエマは敏感に感じていた。

テレーザの婚儀が発表されたあとも、今のところテレーザの日々の生活はさほどの変化はない。


もともと、慰問などは姉や弟に比べると少なくイベントへの参加もわずかだ。

王宮内で一日をすごし、遠出といえばクリスタルパレスの奥地の森へ散歩に行くくらいだった。


そんなある日、テレーザの朝の支度をしていたエマにテレーザが聞いた。


「それで、あなたはどうしたいの?」

と。


テレーザはエマが自分の嫁ぎ先、彩の国に自分と一緒に行きたいのかを知りたい。

通常、姫の特別な存在(大切な侍女)となれば同行するのが常だ。

しかし、テレーザはエマの希望に沿うようにしてやりたい、そう思っていた。


「私は、もちろん王女と共に参ります」

とキッパリと言うエマ。


その言葉に嘘はないとかんじたテレーザ。

その頬が緩む。


「じゃあ、彩の国へ行くまでに、あなたには一人前の魔法使いになってもらわないと。

普通の宮廷魔法使いレベルじゃだめ。最高の先生を付けるわ」

そう言うと、そのままエマをつれてクリスタルパレスの奥にある森へと出かけてい行った。


この前、テレーザと来たこの森、それよりも奥へと進む。

すると、その先に小さな小屋が見えて来た。


小屋のドアをたたくテレーザ。

ほどなく中から夫婦と思われる老人が顔を出した。


「これは王女ではないか」


「まあ、まあ、テレーザ王女、久しぶりね」

と老夫婦が口々に言う。


「あのね、この子を急いで魔法使いにしてほしいの。潜在能力は私が保障するわ」

とテレーザ。

小屋に招き入れられるなりテレーザが言う。


「このご夫婦はね、ダイナ夫妻よ、私に魔法を教えてくれた人たち」

とテレーザが誇らしげに言う。


この老夫婦は、そろって有能な魔法使いで、王宮魔法使いとして長く王に仕えて来た。

それが、テレーザの能力をいち早く見抜き、正しく使える術を教えた。

誰にも悟られないようにこっそりと。


そして、いまでは第一線から退き森の奥で魔獣の侵入などを警戒する任についている。

それでもテレーザの事をいつも気にかけていた。


「王女の言う通り、このお嬢さん魔力は相当ね」

と夫妻の妻、レイが言う。

夫のアルも同意見のようだ。


「あなたも正しい魔力の使い方を習得した方がよさそうね。

これから、テレーザを守っていくためにも」

とレイ。


「では、これから嫁ぐ日までテレーザは花嫁修業をするんだろう?その間、ここにくるといい。

大急ぎで魔法のレッスンをしよう」

とアルがいい、レイも頷いた。


話はそう決まり、テレーザとエマは城に戻る。

その帰り道で、テレーザの顔を見るエマ。


「ねえ、また?エマ、あなたなんで森からの帰り道にはそんなにいかにも聞きたいことありますよ、って顔して私を見るの」

とテレーザが言う。

そう言えば、前も森からの帰り道にそんなことがあったっけ。


「あの、聞いていいですか?

王女はご結婚することに不安などないのですか?彩の国のホイ王子とはほぼ面識もないんでしょ?

それなのに」

とエマ。


「だって、父上からの命令だもの。好きとか嫌いとか、関係はないわ。

私たちの結婚は契約なのよ。そうなんじゃないの?結婚って」

とテレーザが言うと、


「あのお、庶民たちは愛した者同士が結婚するんです。

お互いの事を一生愛し、慈しむって神に誓って」

とエマが知る限りの知識で結婚を語る。


テレーザはしばらく考えた後、

「愛って、そうなんだ。ねえエマ、あなた愛する人っているの?」

と聞く。


「父さんと母さん、それに兄弟」

と答えるエマに、


「そうじゃなくて、殿方よ。愛する殿方、いるのかしら?」

とテレーザ。


「い、い、いませんよ、そんな男性(ひと)

と顔を赤らめながらエマが言う。


「そんな男性(ひと)がいたら、王女に付いて彩の国に行くなんて言いません。

その男性(ひと)と一緒にいたいですもん」

とエマ。


「え、そうなの?愛する人とは離れたくないものなの?」

とテレーザが不思議そうに言う。


テレーザにとって夫、とは国王の決めた相手、それ以外の何物でもない。

自分は王の命に従うだけだ。


自分はホイ王子を愛せるだろうか、

テレーザは少しだけ疑問に思った。


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