謹んで、従え
テレーザの結婚が決まりました。そして辺境地の倭の国のこの家族は?
初めて王の部屋に入るエマ、緊張で身体がガチガチだ。
テレーザ王女に従い、今までにも国王の元に出向いたことはある。しかし、身内しか入れない王の居間に呼ばれることはなかった。
「そんなに硬くならなくても」
とテレーザが言うがその言葉も耳に入らないくらいのエマ。
突然、国王の側近から呼ばれた。
これは何か重大な事を告げられる。
それをテレーザも分かっているから、彼女も本心は平常ではない。
王の部屋に呼び出されたテレーザ王女。
テレーザの側にいた侍女たちも色めき立つ。
第一侍女、レイアの指示でテレーザの身なりが整えられ、王との謁見の時にのみ着るローブを羽織らせた。
そして、王女の支度が済むのを待っていた側近と共に王の元へと向かう。
王の居間に着いた時、王の侍従が言った。
「侍女の方々はこちらでお待ちを」
と。
テレーザ王女一人で王に会えと言うのだ。
「でも、彼女は私の特別な存在よ」
とテレーザがエマを指さしながら言った。
王女が自ら指名した特別な存在、いつ何時でも王女と行動を共にする、
それが役割だ。
王の従者はエマの顔をみて、渋々とうなずきそして、レイアを含む他の侍女たちは、
居間の隣室に通された。
そして、今こうしてガタガタ震えながら王の居間にいるエマ、テレーザも動揺を悟られまいと必死になっていた。
すぐに、今の奥にある扉がバタンと開かれた。
王の私室につながる扉だ。
そこから、美の国、国王が現れた。
ひざまずくテレーザとエマ。
その正面に王がいるのが分かる。
圧倒的な存在感だ、まだその姿を直接見たわけでもないのに。
「わが姫、テレーザよ」
と王の声がした。
王が姫に声をかければ、もううつむいている必要はない。
「挨拶」は終わったのだ。
「そなたと彩の国、ホイ王子との婚儀が決まった」
と告げる国王。
そして、
「謹んで従え」
と告げた。
「予想通り」
とテレーザは内心思った。
彩の国のホイ王子、テレーザはその王子に会ったことはない、写真を見たことがあるはずだが、
その面差しを思い出すことは出来なかった。
「仰せのままに、父上」
とテレーザが王に言う、これ以外の返答を選択する権利などテレーザにはないのだが。
そして、満足げにうなずく王。
「それから」
と王が続けた。
「今年度の、王室フェスタで開催される、姫君格付けランキングに参加すること」
と言うと、そのまま部屋を出て行った。
その後、王の従者からテレーザの第一侍女、レイアに事の詳細が伝えられた。
婚姻するのは、1年以上先の事だが、
今後のこと、これからやらなければならないこと、とにかく盛沢山だ。
そして、その前に
「姫君格付けランキング」
がある。
毎年行われる「王族フェスタ」
5大王国の王族を中心に、控えの国々の王家も参加する、
世界中の王族が一同に集まる盛大なお祭りだ。
そのイベントの一環として行われているのが
「姫君格付けランキング」
だ。
5大王国と15の控えの国々の姫君たちが参加するその年の人気投票のようなものだ。
各国から出場出来る王女は一人だけ。
今までに、テレーザの姉、3人は参加経験がある。
みな好成績で、美の国の姫の面目躍如といったところだ。
格付けランキングは公には第5位までしか発表されない。
上位にランキングされなかった王女たちのメンツを考慮してのことだ。
第一位に輝いた、第一王女、フィオナ・クリスティーネ王女はじめ、
もう二人の姉姫も5位以内に入っている。
その素晴らしい結果に、
「美の国の王女なら、あたりまえだろう」
と周囲が称えていた。
「不安しかありません。何とか手を打たないと」
とテレーザ王女の第一侍女、レイアは侍女を取りまとめている侍女頭、マリアの力を借りるべく、
助力を懇願する。
「姉上たちの時は、何の心配もなかったのに」
そう言いながらマリアもため息をついた。
ー秘境のさらに奥の国、倭ー
食卓に朝食を並べている女性がいた。
主食におかずが3種類、そして汁物に果物。
栄養バランスのよい理想的な朝食だ。
「朝ごはんよー」
と女性が声をかけると、不機嫌そうに食卓に着くのは、
男性、若い女、若い男が二人、だ。
「おい、メシ」
と一言いう男性。
その女性は茶碗に炊き立ての飯を盛り、男性に渡す。
他の者たちにもだ。
男は無言で茶碗を受け取り、食卓の料理を黙々と口に運ぶ。
そして食べ終わると、使った食器もそのままにして席を立つ。
「おい、今日は遅いぞ」
と一言いい残して。
その時、女性がテレビから流れて来たニュースに目を止めた。
今年の「姫君格付けランキング」、今年の予想は、というものだ。
「まあ、今年も姫様たちのランキングですって。どこの姫が一位なのかしら」
と声を上げる女性。
「姫のランキングだって?お前がそんなことを気にしてどうする、
お前とは無縁の世界だ」
と男性が見下したように言った。
「おまえなら、いいとこ、クソババアランキングだ」
と続ける男性。
その言葉に、
「そうかも、それいいかも。ママってなんでそんなにダッさいの?
せめてマダムって言われるようになりなよ」
と寝起きなのか髪をぼさぼさにした若い女が言った、女性の娘の様だ。
「クソババア、クソババア」
と若い男のうちの年下の方がはやし立てた。
「静かにしてよ」
もう一人の若い男がそう言うと、そのまま逃げるように食卓を離れた。
「私だって、姫にはなれないけど、ってかなる気もないけど、マダムだったら」
と女性がいいかけたが、その言葉を聞く者は既にもう誰もいなかった。
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