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最終準備

二次審査前のひととき

「そろそろ、来るはずなんだけどな」

とテレーザが言う。

瑛子の準備はほぼ終わり、一息ついているところだった。


控室の中では、さきほどやってきたカミヤマの妻ショウコのすべてが注目の的になっていた。

どこからみてもセレブなマダム、圧倒的な存在感、持ち物も一流品ばかりだ。

そして、高級ブランドのボストンバッグから、取り出したドレスは華やかできらびやかでそして上品だ。

他の出場者たちとはすべてが別格だった。


「ん?なにが?」

とテレーザの言葉にリーズルがお茶を飲みながら聞いた。


テレーザもリーズルもショウコの事を見ようともしない。

いや、一応挨拶はしたのだが、二人ともほぼ興味を示さなかった。

王宮に出入りしている人種には、これ以上のセレブがわんさかとおり、二人にとって全く見慣れたものだったのだ。


「一番大切な小道具よ」

とテレーザ。



そこにフロントからテレーザに連絡が入った。


「納品の業者がみえました」

と。


しばらくして、控室入り口に現れたのは、

たまきとその母だ。

手には大きな袋を持っている。


「おばさまー今日はがんばってね」

そう言いながら、荷物をテレーザに渡すたまき。


「たまきちゃん?あなた、学校は?」

と瑛子が驚きながら言った


「早退しちゃいましたー 体調不良って言って」

とたまき。

たまきの側には母、しずねがいる。


「今日は私も応援していますよ、いつもたまきがお世話になっております」

としずね。


「こちらこそ、お世話になっているのは駆の方で。いつもありがとう、たまきちゃん」

と瑛子が言う。

お互いに、同級生の保護者ということで以前からの顔見知りだが、いままであまり親交はなかった。


ーこのひと、こんなに綺麗だったったの?ー

と瑛子を見つめるしずねが思う。


リーズルのメイクのせいでもあるが、その日の瑛子はとても輝いている。

今まで、学校行事などで見かけた時の瑛子とはまるで違う。

普段は、どちらかというとパッとしない、垢ぬけない普通の「お母さん」だった。


「さ、これ。早くお水につけて」

とたまきが渡した荷物を指さしながらテレーザに言う。


その言葉に応えるようにテレーザが荷物を開けると、

そこには、

色とりどりの切り花がぎっしりと詰まっていた。


「こでれいいかな、厳選してきたんだけど」

とたまき。


鮮やかでありながら、どこか優しい色合いの花たち。

ところどころに、葉っぱのグリーンも加わりそこはまるで小さな花壇のようだ。


「さ、これに」

とテレーザが用意した水を張ったバケツに、花々をつける。


「水揚げをしてきたから、パフォーマンスの間、水から出していても大丈夫よ」

と母のしずねが言った。


切り花、一本一本その切り口を丁寧に処理し、花に水がいきわたるようにしてある。

とても細かで根気のいる作業だっただろう。


「こんなにご丁寧に」

と瑛子が言う。

瑛子も花々が好きな瑛子、その作業がいかに「面倒くさい」ものなのかを知っているのだ。


「いえいえ、花屋ですもの。これくらい」

としずね。


「これで準備は整ったわ」

と花をバケツに浸し終わったテレーザが言った。


周囲を見ても、準備を済ませ出場者たちが控室を出て、本番までの時間を思い思いに過ごしているようだ。


「時間があるならこのホテルの中庭を見に行かない?」

とたまきが言った。


「ここの中庭、すばらしい庭園なのよ。一度見て見たかったのよね」

とたまきがしずねに同意を求めるように言う。


「そういえば、庭園の美しさは一見の価値ありってあったわ」

とテレーザ。

グランドホテルの情報を調べた時にそう出ていたのを思い出したのだ。


「私たち、こんなところに立ち入る機会もほとんどないから、せっかくだし、ね」

としずねも言う。


それに同意した瑛子、テレーザ、リーズルがたまき母子と控室を出て、

グランドホテル、自慢の庭園に向かった。


控室には、ショウコとその付き添い、そしてさきほどリーズルから「エモーショナル」の小瓶をもらった少女だけが残っていた。


グランドホテルの裏手には、広々とした中庭が広がっている。

綺麗に整備されており、宿泊客が散歩をすることができる。


不審者が入り込まないように、出入りは警備員によりチェックされている。

そのため、普段は気軽に出歩けないような、有名人や財界人たちもこの庭園でのひと時を楽しんでいた。


庭園への入り口で、

瑛子たちは宿泊客ではないため、警備員に制止された。


「お客様方は、こちらにどのようなご用でご滞在を?」

と警備員が瑛子に問いただした。


「あら、私たちは怪しい者じゃないわ。通していただけるかしら」

と毅然と言い放ったのはリーズルだった。


警備員は一瞬たじろぎ、そしてリーズルを見た。

凛としたてその態度はどこか高貴だ。

柔らかい口調でありながら、毅然とした話し方にはかすかな威圧感があった。


リーズル、そしてテレーザを見る警備員。

どうやら身分の高い旅行者のようだ、通しても問題はないと判断したのだろう。


「これは失礼をいたしました」

そう言うと、

「それでは、当ホテル自慢の庭園をお楽しみください」

そう言って、入り口を開けた。


「よかったね、入れて」

入り口を抜けるとリーズルが言った。


「なんかさ、この子、迫力あったよ」

とたまきがリーズルを見ながら言った。


「あら、そうかしら」

とリーズル。


「まあ、せっかく入れてもらえたんだし、いいじゃない」

とたまきの母しずねが言った。


周囲は、美しい花々が咲き誇る花壇、その中をじゃりが敷かれた小道が通っている。

これが散歩コースのらしい。


周囲には誰もおらず、遠くに人影がわずかに見えていた。

静かで、鳥のさえずる声だけが響くその庭園。


庭園はかなり奥にまで広がっている様で、小道の先には

「この先、神秘の森へ」

と表示が出ていた。


その方向を見つめるテレーザ。

「なんだろう、この空気」

そこには、よく探検をした美の国王の裏にあった「ベルデの森」と同じ風が吹いている。

と、テレーザは感じていた。

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