審査開始前の控室で
控室での出来事
「ビューティーコンテスト」マダム部門、その二次審査のために、マロニエシティにある
グランドホテルに到着したテレーザたち。
そのエントランスホールで、自分たちをコンテスト出場者の控室に連れて行くように、テレーザが傍にいたホテルマンに頼んでいた。
その様子を見た瑛子がクスっとわらいながら、尊に言う。
「王国では、あんな感じだったのね」
と。
その言葉に尊も思わず笑いながら相槌を打った。
「ほんと想像つくな」
テレーザはと言うと、ホテルマンを呼び止めると、
なにやら、頼んでいるようだ。
その姿は、高圧的でもなく、かといっておどおどとした様子ももない。
自然ながら堂々としていて、そして気品がある。
言いつけられたホテルマンは、
「かしこまりました」
と礼をすると、すぐに尊の持っていた荷物を受け取りそして、エレベーターへと誘導した。
テレーザに向けられる視線は敬意がこもっている。
エレベーターが到着し、テレーザが乗り込む。
その後を追うように、瑛子と尊が駆け込んだ。
「あの子は?」
とその様子を遠くから見ていたフィル・グレン侯爵の従者マルクが尋ねた。
「ああ、彼女も旅行者だよ。都留田さんのところにいるんだって」
とフィルが答えた。
「あの子がなにか?」
とフィルがマルクに聞いた。
その問いにマルクは答えず、そのままカミヤマの後に続き歩き出した。
「殿下は気付いていないのか、それとも」
と。
マルクがフィルがテレーザの事をそ知らぬふりをしているのか判断しかねていた。
あの気配はただ者ではない。
鍛錬を重ねた洗練された魔力を持ち、高貴な血筋を感じる、あの旅行者の少女。
ホテルマンに案内されてやってきたのは、
「ビューティーコンテスト」マダム部門、出場者控室と書かれた、一室だった。
ここで、出場者たちは二次審査のための準備をするのだ。
メイクや着替え、小道具の最終チェックなど。
「じゃ、俺はあっちで待ってるよ」
そういうと尊は外へと向かった。
ここは男性立ち入り禁止、だったのだ。
控室の中には鏡のついたテーブルが並び、その横には洋服掛け、そして戸棚。
すでに3人の出場者と付き添いが到着していた。
テレーザたちが入ると、みな一応は会釈をした。
しかし次の瞬間、その視線は鋭く変わり、瑛子を突き刺すような目で見つめる
瑛子だけではない、テレーザや入り口の外にいる尊の事も、探るような眼つきで頭から足の先までをジロリと見ている。
一旦、尊とは別れ、瑛子たちに割り当てられたテーブルに荷物を置き、そして持参した「衣装」をハンガーに吊るす。
どんどん準備を進める瑛子とテレーザたち。
そこに、
「あの、都留田さんはいますか?」
と声がした。
入り口を見ると、リーズルが顔をのぞかせていた。
「まあ、こんなに早く来てくれたの?」
と瑛子が言う。
「そりゃあ、私にとっても記念日だもの」
とリーズル。
「で、メイクはこれからかしら?」
とリーズルが言った。
「あの、もうこれでいいかなって」
と代わりに答えたのはテレーザ。
瑛子は普段通りのメイクをしただけだった。
髪も普通にとかしただけだ。
「あらら、ステージではライトが当たるから少し、濃い目に塗らないと」
とリーズルが言う。
その時には既に、鏡の前に瑛子を座らせてメイク道具を物色するリーズル。
「さ、これでどう?」
リーズルによって改めてメイクアップされた瑛子の顔が鏡に映し出されている。
先程よりいささか濃い目の仕上がりで、目鼻立ちが一層くっきりとしており見栄えが良い。
「あとは髪の毛ね」
そう言うとリーズルは瑛子の髪をとかし、そして手持ちのバッグから小さな瓶を取り出した。
「これはね、おまじないよ」
そう言いながら、小瓶に入っている銀の粉を瑛子の髪にかけた。
「これ、エモーショナルじゃない」
とテレーザが言う。
「エモーショナル」
5大王国の女子たちに大人気のヘアアクセサリーだ。
これを髪につければ、テンション爆上がり、幸運を引き寄せ、そしてつややかな髪を一層輝かせる。
そんな効果があるというのだ。
「使う機会があればと思って持ってきたんだけど、さっそく出番がきたわ」
とリーズルが言う。
他の参加者もその「エモーショナル」を横目で見ていた。
出場者よりも付き添いで来ている、娘たちが興味津々の様子だ。
この「エモーショナル」大人気過ぎて5大王国以外ではほぼ入手困難なのだ。
それを、あの旅行者の子は持っている。
「あの、それどこで買ったの?」
と付き添いに来ていたうちの一人の少女が声をかけてきた。
「あ、これは母国で買ってもってきたのよ」
とリーズルが答える。
「そう、そうよね、あなたは旅行者でしょう。この国の子じゃないわよね」
とその少女は言った。
「スーパーマーケットロイヤルに売ってたわよ」
とテレーザが口を挟んだ。
確かに、スーパーマーケットロイヤルの美容コーナーで見かけた。
種類はおおくなかったが、確かに、エモーショナルだった。
「スーパーマーケットロイヤルですって?私たちじゃ行けないわ」
と少女ががっかりしながら言った。
「じゃあ、これ、あげるわ」
とリーズルがその小瓶を少女に手渡した、驚く少女。
「ダメよ、こんな貴重品」
と受け取ろうとしないが、
「いいの。まだたくさん持ってきてるから」
とリーズルが言う。
「ねえ、そんなこと言っちゃダメだって」
とテレーザが小声で止めるが、
「なくなったら取り寄せるし、いいのよ、持って行って」
と続けるリーズル。
その少女はためらいながらも、小瓶を受け取った。
リーズルに「ありがとう」といいながら。
そして、
「あなたって何者なの?」
と独り言のようにつぶやいてリーズルの元を離れた。
「さ、ここだ、ショウコ」
その時、控室の入り口で大きな声がした。
「我々は中には入れないから、あちらで待っているよ」
そう言う声の主は、カミヤマだった。
カミヤマはショウコのための控室を個室にするように交渉したのだが、
あくまでも他の参加者と同等の扱いをする、とコンテストの主催者に突っぱねられたのだ。
「みなさま、おじゃまいたします」
そう言いながら入って来たショウコ。
たくさんの荷物を同伴している女性スタッフが次々と運び込んだ。
そして、目を見張るような豪華なドレスを取り出し、ハンガーにかけた。
周囲の目は一斉にそのドレスに注がれていた。
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