それぞれの計画、始動
二次審査に向けていろいろと動き出しました。そして奏の国からも。
「ビューティーコンテスト」マダム部門、二次審査で
オペラを歌唱することになった、カミヤマジュンの妻、ショウコ。
さっそく専門家のボイストレーニングを受けながら、さらに磨きをかけることに。
「奥様、貴女の歌声は絶品ですな、プロも顔負けなレベルだ。
今度、わたくしの舞台に立っていただきたい」
とカミヤマに請われてショウコのプライベートレッスンを引き受けた、大御所のオペラ歌手が絶賛した。
「ここは我が家のリビングですもの。リラックスして唄えますわ。本番では緊張してしまうでしょう」
とショウコ。
そのために、
フィル・グレン侯爵の従者、マルクが一役買うことになっている。
「抜かりはない」
とレッスンを見ていたカミヤマがつぶやいた。
「えっとーこれでいいのよね」
とパソコンからBGMを流す葵。
その音楽に合わせて、
瑛子が、ゆっくりとした動作で、洗濯物をたたんでいる。
テーブルの上に散乱した衣類。
それらを、一枚一枚丁寧にたたむ瑛子。
その姿はどこか優雅で気品がある。
テレーザによる修行の成果だ。
しかし、テレーザは、
「ううん、何か違う」
と首をかしげた。
「ビューティーコンテスト」マダム部門
上品で洗練された、若い世代からは憧れの存在として、同世代からは羨望の眼差しをむけられるような、
今を輝く女性を発掘する。
これがこのコンテストの趣旨だ。
洗濯物をたたむ姿。
確かに、瑛子は気品があり洗練されている。
でも。
「なんか違う」
と声に出したテレーザ。
葵が思わずテレーザを見た。
「じゃあどうするの?ママは洗濯物でやるつもりよ」
と。
「一から練り直し、とか?」
と葵。
頷くテレーザに、肩を落とす葵。
「いいじゃん、何だって」
と小さく呟いた。
「よくないよ、私は。
私は、最善を尽くしたいの」
その言葉を聞き逃さなかったテレーザが言った。
「でもね、私、ママの二次選考のために毎日付き合ってはいられないのよ、
学校だったあるし、あれで決めたなら、いいじゃん」
葵も言う。
「そうよね、葵だって忙しいんだもんね。そもそも瑛子さんの修行を含めて審査対策は私が引き受けるって断言したのに。
結局はみんなに手伝ってもらってる」
とテレーザ。
下を向いたテレーザに、
「あ、あのね、攻めてるわけじゃないのよ。でもね、うちのママじゃ二次選考までってのがいいところだと思うの。テレーザは知らないだろうけど、このコンテスト最終審査に進めるのは財界とか経済界とかのお偉いさんのご婦人ばかりよ。
要は出来レースってやつ。だから、ママにはあまり本気になってもらいたくないのよ」
と葵。
葵はかつてこのコンテストに出場したことがある。
小学生を対象としたキッズ部門だ。その時、このコンテストの裏側を垣間見てしまったのだ。
「でも出来ることはやりたい」
それでもテレーザこう言った。
テレーザと葵がこんなやり取りをしている時、
瑛子が庭で草花の手入れをしている姿が目に入った。
綺麗に咲いた花をはさみで切り、そして花瓶に生けている。
「あ、これだわ」
その姿を見たテレーザが言った。
葵もその瑛子の姿に、はっと目を奪われた。
ーママって、こんなに綺麗だったっけ?- と。
その数時間後、
「BGMの作曲者から使用の許可をもらえたぞ」
と尊が言った。
ネットに投稿されていた楽曲を瑛子のパフォーマンスで流したい。
その際、使用目的を作曲者に伝え、使用の許可を取る必要があったのだ。
「コメントももらったぞ」
と尊。
「この度は私の作品を使ってくださること、とても嬉しく思います。
ちょうど、その頃、倭の国を訪ねる予定になっておりますので、コンテストを見学出来たらうれしいです 奏の国、リーズル」
添えられていたのはこんなコメントだった。
「やっぱり、奥様は歌唱に専念なさる方がよいかと。
伴奏は別の者に頼みましょう」
カミヤマ邸でのプライベートレッスンの後、大御所オペラ歌手が言った。
ショウコは自分でピアノを弾き、唄うつもりだったがようだが、
高音をきれいに発声するには、起立して背筋を伸ばした方がいい、そう判断したようだ。
「それでは、わたくしの門下の者に依頼いたしましょうか」
とオペラ歌手が言ったが、
「いや、ちょうどいい」
と何やら思いついた様子のオペラ歌手。
「実は奏の国の楽団が旅行者としてこの地に来る予定です、その中に優れた伴奏者がおります。
そのお方にお願いいたしましょう」
と。
「奏の国の伴奏者か、それは素晴らしい。ショウコの歌声が一層輝くことだろう」
とカミヤマが嬉々としながらそう言った。
「これで、ショウコの一人勝ちだ。誰も彼女にはかなうまい」
と。
奏の国、異国への出発ゲイト。
「姫、どうかご無事で。
これより先、どの者も貴女を姫とお呼びすることは許されておりません。どうかお許しを」
そう言われる一人の少女。
数人の同行者と共に「倭の国ゆき」とかかれたブースに入った。
「ねえ、あんたここからはただの旅行者。
音痴で、楽器も弾けないあんたを連れて行ってあげるんだから、ありがたいと思って」
と同乗者の一人が言った。
「まあまあ、この子は作曲ができる。それだけでもヨシとしようじゃないか」
ともう一人が言う。
「リーズル、こう呼ぶことをお許しください。
貴女の音楽の才能に偏りがある、これが世間に知れわたってしまった。
もうこの国に留まることはできません。王女と言えどもです。
貴女が生き延びる道は、我々とともに旅行者となること、それだけです」
とその一団のリーダーに言われた。
うつむきながらも前をしっかりと見つめているのは、奏の国の王女、リースル・ルイスだった。
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