世界5大王国、美の国
多くの国が共存する世界、ファンタジーワールド。
その中でも5大王国は絶大な力を持ち、この世界の頂点に君臨する強大な王国だ。
・彩の国
・健の国
・地の国
・奏の国
そして
・美の国。
美の国はその名の通り、美に特化した国家であり、美を敬い、美を極め、そして美を探求する国だ。
そんな美の国を治めているのは第34代、国王ジャン・グレゴリー。
温厚で知性に富み、国民からの人気は絶大だ。
そして王妃、エリアルド・ルイーズ。
国王とは幼馴染の貴族の令嬢、そのたぐいまれなる美しさと気品にあふれた優雅なしぐさは
まさにお妃さまの鏡だ、と称されている。
そんな国王夫妻には5人の子供がいる。
長女、
フィオナ・クリスティーナ。
二女、
カタリナ・オルセウス
三女、
ユリアナ・マーガレット
そして
4女の
テレーザ。
第5子にして初の男児、
第一王子、ジャン・ルドルフ
長女、フィオナ・クリスティーネは王位継承権第一位、次期女王だ。
そして、二女と三女が王女の双方の杖として一番の側近となることが決まっている。
3人の王女たちは母からその美貌を受け継ぎ、そして次期女王とそれを支える者として、
日々研鑽を重ねており、利発で聡明そして慈悲深い心を持ちどこから見ても完璧な姫君たちだ。
第一王子のジャン・ルドルフは、生まれた時から愛くるしい顔立ちで、その笑顔はまるで天使のよう。
笑い声は周囲の誰もの心を捉えて離さない、国民すべてがその成長を見守り愛してやまない、小さなプリンスだ。
そんななか、ただ一人異質なのが第4王女のテレーザだった。
そもそも、既に王女は3人。次こそは初の王子の誕生を、と王宮も国中の国民も期待していた。
そんな中、誕生したのが第4王女、テレーザ。
生まれた瞬間、
「王女のご誕生です」
という医師の声に、母、エリアルド妃は返す言葉もなく黙り込み、
「第4王女がお生まれになりました」
そう報告を受けた父、グレゴリー国王が初めてテレーザに会ったのは誕生から2か月が経ってのことだった。
付けられた名も、3人の姉が2つの名を持っているにもかかわらず、
「テレーザ」
と一つ名を与えられた。
姉妹で並んでも、3人の姉は美しく華やかで立っているだけで気品が漂う。
そんな中、テレーザは特徴のない顔立ち、いわゆる十人並みの容姿だ。
そして、いつもおどおどして、所在なさげに不安そうにしている。
弟、ジャン・ルドルフが加わると、テレーザの影の薄さはますます際立つようになってきた。
華やかな姉、愛らしい弟、そしていてもいなくても、わからないようなテレーザ。
いつしか彼女には
「ついでの姫君」
そんなあだ名が付けられていた。
「あの姫様、本当に存在感がないわね」
「いなくても誰も気づかないのでは」
「美の国を代表する姫君なのに、あの容姿じゃあ」
そんな声が聞こえてくる。
「ついでにいるだけよね、あの姫様」
「ついでの王女だ」
テレーザに対する国民のそんな声は王宮にも届いていた。
王も王妃も、
「まあ、テレーザなので」
と大した関心も払わない。
テレーザの存在自体に興味がないのだ。
「テレーザは年頃になればすぐにでも和平の使者としてどこかの国の王子にでも嫁がせよう」
王はそう言い、頷く王妃。
早く追い出してしまいた、そんな言い方だ。
やがて時は経ち、
長女のフィオナ・クリスティーネ王女は18歳になった。
そろそろ時期女王として本格的な準備が始まる時期だ。
宮廷内はにわかに慌ただしくなっていた。
15歳になっていたテレーザ、相変わらず影が薄く存在感はまるでない。
「ついでの姫様」そんなあだ名も健在だ。
「私もそろそろ誰かに嫁ぐのかしら」
テレーザがポツリと言う。
「年頃になればさっさと誰かに嫁がせる」
国王のそんな言葉をテレーザも聞いていた。
そんな時、同じ5大王国、彩の国より使者が来た。
彩の国、そこはすべての作物を網羅した国だ。
生きていくうえで欠かせない食物、これを司る国、5大王国の中でも別格の格式の高い王国だ。
同じ5大王国とはいえ美の国は「美」に特化した国、
美は必ずしも生命の維持に関係はない、そのため5大王国の中では劣勢を強いられている。
同じく音楽に特化した国、奏の国も同様だ。
そして、彩の国と勢力を二分しているのが健の国、
人類、いや全ての生命の健康を司る国だ。
こちらも生きる上で不可欠だ。
もう一の国。地の国、これは自然を司る国。
彩の国と健の国に割って入ろうとする勢力だ。
その強靭な王国、彩の国の使者が、なぜ美の国に。
王宮内の特別な応接室で、王と王妃が直々に使者を出迎えた。
「こんな辺境の地までよくいらして下された」
と王がうやうやしく使者に言う。
「お疲れではないですか?この後はごゆるりとお休みください」
王妃も同様だ。
「いやいや、流石は美の国だ。どこもかしこも美しい。
出迎え頂きました姫君たちのお美しさといったら」
と使者は羨望の眼差しで王妃を見ながら言う。
ここ、美の国はすべてが美しい、人も城も町も森も、すべてがだ。
彩の国にはないこの美しき。
彩の国では、美の国へのあこがれが大きいのだ。自分たちの方が格上だ、そんなプライドを持ちながらも美の国への羨望の眼差しをむけているのだ。
「そんな美の国の姫君を、わが彩の国、第5王子、ホイ殿下の妃に迎えたい」
使者は言う。
使者は、彩の国第5王子で16歳のホイと美の国第4王女、テレーザの婚姻を申し入れる国王からの親書を手渡した。
「まあ、テレーザがホイ王子の妃だなんて」
と王妃が歓喜の声を上げる。
「彩の国、国王陛下より特別のお申し出です。お断りなどなさらぬように」
と使者。
彩の国、王室と婚姻関係を結ぶ、これは美の国王室が水面下で長年交渉を重ねて来たことだった。
これが叶えば美の国も安泰だ。
二つ返事でこの婚姻を受け入れる国王と王妃。
「これでお互いに末永く栄光が続きますな」
と使者。
「そういえば、テレーザ姫は格付けランキングにご参加なさったことはあるのですか?
我が彩の国のヒナ王女は昨年、第3位で。五大王国の王女たるもの格付けランキング上位はあたりまえ、ですがね」
と使者が少し自慢げに言う。
「格付けランキングだと?」
と国王。
「姫は、今年度、初めて参加の予定だ。美の国の姫、姉上たちのように上位入賞を期待できるだろう」
と思わず口走る王。
この時、美の国、第4王女、テレーザの「姫君格付けランキング」への参加が決まった。