第十七話 まだ沈まずや神鳳は
奮戦する第一機動艦隊、しかしその戦力は徐々に削られていった。
まず、被雷し速力が低下した空母赤城がその身を海中に沈め、続いて赤城の隣にいた蒼龍が攻撃を受け、浸水により船体が傾いていく。護衛戦力も、駆逐艦秋月、樅、楢が沈み半減した。そして、ついに旗艦神鳳にも魔の手が伸びる。
「敵機接近!」
「左舷機銃、全力射撃始め!」
号令とともに、40ミリ機関砲、25ミリ機銃群が射撃を開始する。40ミリ機関砲が片弦あたり連装8基16門、25ミリ機銃は三連装12基と増備された連装4基に単装21挺、合わせて65挺、それらが火を噴く姿は槍衾のようだ。しかし、敵機——SB2Cヘルダイバー十数機はひるむことなく突っ込んで来る。
「敵機直上、急降下!」
「噴進砲、発射!」
直後、多数の煙の筋が立ち上った。12センチ二十八連装噴進砲が発射されたのだ。
噴進砲が発射したのは12センチロサ弾二型、近接信管を内蔵している。工業力の乏しい日本にとって、近接信管の量産は困難を極めたが、決戦までに神鳳、大鳳には配備することができた。
瞬く間に3機が黒煙を吹き出し墜ちていく。それに驚いたのか、敵機の軌道がわずかに逸れた。
「敵機、投弾!」
「総員、衝撃に備え!」
刹那、巨大な水柱と轟音、大きな衝撃が神鳳を襲った。神鳳艦長の阿部俊雄大佐が声を上げる。
「被害報告!」
「五番高角砲に直撃弾、砲員全滅!」
「艦後部飛行甲板に被弾、飛行甲板で火災発生!」
「こちら機関室、異常なし!」
神鳳に命中した1,000ポンド爆弾は2発、しかし、いずれも重大な損害には至らなかった。
戦時中において、艦艇は修理のついでに戦訓を踏まえて改装されることが多い。神鳳も例外ではなかった。第二次南太平洋海戦後、対空火器の増設、カタパルトの設置とともに一部装甲の強化が行われていた。トップヘビーとなることを承知で昇降機とその付近を装甲化、具体的には25ミリの鋼板を2枚重ねて50ミリ装甲板としている。
先ほどの攻撃はその装甲版に直撃、運よく格納庫への被害を防ぐことが出来た。
神鳳は攻撃を耐え続けた。直掩機は被撃墜や損傷による廃棄によってほとんどが姿を消し、護衛部隊たる第十戦隊旗艦矢矧は猛攻撃の末、船体が真っ二つになり沈没した。蒼龍に総員退艦命令が発せられ、翔鶴の航空機運用能力は失われ、大鳳は機関をやれれ航行不能となった。しかし、それでも神鳳はその巨体を海上に浮かべ続けた。
「ヤツはまだ沈まんのか!」
第3艦隊旗艦ニュージャージー司令塔でウィリアム・ハルゼー大将が吠える。5派にも及ぶ攻撃、それでもなおあの空母——、テンホウクラスと思われる大型空母は健在であった。
第3艦隊は第一機動艦隊の攻撃により空母エセックス、軽空母プリンストン、護衛空母セント・ロー、軽巡ビクロシが沈没、空母イントレピッド、軽空母インディペンデンス、護衛空母ホワイト・プレインズが損傷した。すでに航空戦力は空母4隻、軽空母1隻、護衛空母4隻にまで減少している。こちらも空母4隻の撃沈報告が上がっているが、それでも腹の虫がおさまらないハルゼーは、全戦力を一機艦へと差し向けようとする。それが、罠であるとも知らずに……
「第7艦隊より緊急伝!」
事態が急転したのは18時30分頃、間もなく日は落ち、航空戦力はほとんど使い切っている。それでもなお、敵空母を沈めるべく水上艦隊による一機艦への殴り込みを主張するハルゼーら血気盛んな者と、一度撤退し体制を立て直すべきだと主張するロバート・カーニー参謀長ら慎重派の間で激論が交わされていた時のことであった。
「『我、敵艦載機ノ攻撃ヲ受ク。護衛空母2、輸送船18隻ガ沈没、尚モ被害拡大中』とのこと!」
「なっ……!!!」
一同は言葉を失った。オザワの艦隊にいる空母が少ないと薄々感じていたが、新たな新造空母は存在しない、あっても燃料や艦載機の不足によって出撃していないとばかり……まさか、別動隊がいたとは!いや、第7艦隊本来の航空戦力なら対処可能だった。我々が引き抜いたばっかりに……
しかし、後悔している暇はなかった。新たな報告が入る。
「北方30浬に新たな敵艦隊を発見!戦艦10、巡洋艦16、戦艦2隻はヤマトクラスの模様!」
航空母艦神鳳(大規模改装後)
基準排水量:38,000トン
満載排水量:48,800トン
全長:270.7メートル
全幅:45.0メートル
速力:30.0ノット
兵装:12.7センチ連装両用砲8基
40ミリ連装機関砲16基
25ミリ三連装機銃24基
同連装機銃8基
同単装機銃48挺
12センチ二十八連装噴進砲12基
カタパルト2基
電探:21号電探2基
22号電探1基
42号電探1基
搭載機:118機
同型艦:大鳳
開戦以来、各戦線で活躍した神鳳が大きな改装を受けたあとの姿。対空火器、電探の増設やカタパルトの装備、装甲の強化が行われた。なお艦載機の大型化に伴い、搭載機数は減少している。