第十五話 流星猛攻
10月23日 14時02分
「ピケットラインより報告、敵大編隊接近!」
「ついに来やがったか!」
第一機動艦隊の攻撃隊が第3艦隊に到達したのは、彼らが攻撃隊を放ち、進路を一機艦の元へ向けてから1時間後のことであった。
第3艦隊 司令長官:ウィリアム・ハルゼー大将
【空母】「エセックス」「イントレピッド」「エンタープライズⅡ」「ホーネットⅡ」「タイコンデロガ」
「ハンコック」
【軽空母】「インディペンデンス」「ベロー・ウッド」「モントレー」
【護衛空母】「セント・ロー」「ホワイト・プレインズ」「カリニン・ベイ」「ファンショー・ベイ」
「キトカン・ベイ」「ガンビア・ベイ」
【戦艦】「アラバマ」「アイオワ」「ニュージャージー」「ウィスコンシン」
【重巡洋艦】「ウィチタ」「ボストン」「クインシー」
【軽巡洋艦】「フェニックス」「ホノルル」「サンタフェ」「モービル」「ヴィンセンス」「ビクロシ」
【防空巡洋艦】「サンディエゴ」「オークランド」「リノ」「フリント」
【駆逐艦】72隻
【護衛駆逐艦】8隻
第3艦隊はイ号無線誘導弾を装備した連山攻撃機隊、および銀河陸上爆撃機隊からの攻撃により、空母バンカー・ヒル、ワスプⅡ、軽空母プリンストンが沈没、さらに空母レキシントンⅡ、軽空母ラングレー、戦艦マサチューセッツ、ミズーリが損傷し離脱を余儀なくされていた。損害の穴埋めのため、後方の第7艦隊から軽巡3隻、護衛空母6隻などが編入されたが、直掩艦艇の数は依然として不足していた。
「全機、攻撃用意!」
第一次攻撃隊総隊長、江草隆繁少佐が無線機に向かって叫ぶ。前方では、零戦・烈風混成の艦上戦闘機隊がF6Fヘルキャットと激しい空中戦を繰り広げていた。
「全機突撃!目標は空母、それ以外に構うな!」
江草が率いる神鳳第一中隊(流星18機)の目標は空母、護衛は彗星艦爆・天山艦攻隊に任せ、流星艦攻隊が輪形陣中央の空母を叩く手筈であった。
「後方より敵機!」
偵察員である石井樹少尉の声を聞き、江草は後方を一瞥する。FM-2、F4Fワイルドキャットの軽量化タイプ数機が逆落としに突っ込んできた。江草が操縦桿を倒し、機体を傾けると同時に、軽快な射撃音が響く。後部の13ミリ機銃が射撃を開始したのだ。12.7ミリと13ミリの弾丸が空中で交錯する。
ガン!と鈍い金属音が響く。機銃弾が機体に命中した。しかし、流星の強固な機体が弾丸の貫通を許さなかった。流星12機は何事もなかったよかのように飛行を続ける。
九九艦爆だったら死んでいた——、江草がそう思ったとき、レシーバーに通信が入る。
「こちら赤城艦爆隊、攻撃開始!」
彗星・天山が真っ先に攻撃を開始する。対空砲火を撃ち上げる駆逐艦、巡洋艦に向けて爆弾、あるいは噴進弾を放った。
噴進弾——四式噴進弾は、いわゆる空対地ロケット弾である。重量500キロ、射程1,500メートルと従来の急降下爆撃より遠距離から攻撃でき、かつ雷撃より精度が高い。弾頭は60キロと低威力だが、対空火器を潰すだけの威力はあった。
瞬く間に外縁部の駆逐艦8隻、軽巡洋艦2隻が、洋上の松明と化す。それでもなお苛烈な対空砲火を潜り抜け、流星隊は空母へ殺到する。
「攻撃開始!」
江草隊は一隻の大型空母に狙いを定め、急降下を開始する。目標に接近するたびに対空砲火の密度は上がっていく。不意に視界の端がパッと明るくなった。
「三番機被弾!」
「了解」
石井の報告に江草は淡々と返答する。さらに、第二小隊の二番機の主翼が火を噴き、墜ちていく。
その間にもぐんぐんと空母の平べったい甲板が迫ってくる。江草がじっと標的を見定め、石井は高度を読み上げる。
「12(1,200メートル)、11、10——」
「用意——」
「8、7、6!」
「投下!」
江草は投下レバーを引き、続いて機体の引き起こしにかかる。強烈なGに耐えつつ、機体を水平に戻し低空から離脱を試みる。後方から響く爆音とともに石井が叫んだ。
「命中!命中です!」
江草率いる第一中隊は空母エセックスに攻撃を仕掛け、800キロ爆弾6発を命中させた。急降下爆撃によって甲板に叩きつけられた八〇番は、飛行甲板はおろか格納庫をも貫き機関室の真上で炸裂した。結果、エセックスは手を付けられないほどの大火災を発生させ、速力は急速に衰えていった。彼女が助かる見込みのないことは、誰の目に見ても明らかであった。
流星一二型
全長:11.49メートル
全幅:14.40メートル
全高:4.08メートル
自重:3,700キログラム
発動機:ハ43-11(2,300馬力)
最高速度:時速576.2キロメートル
航続距離:2,200キロメートル
武装:20ミリ機銃2挺(主翼)
13.2ミリ機銃1挺(後方旋回)
爆装:250キロ爆弾2発、
500キロ爆弾ないし800キロ爆弾1発
航空魚雷1本 のいずれか
乗員:2名
艦爆・艦攻両方の能力を併せ持つ新鋭艦上攻撃機。発動機に当初予定されていた誉(2,000馬力)ではなくより出力の高いハ43を使用したため、高い防弾性能と強力な武装を備えつつ、彗星艦爆に迫る高速性を発揮できた。しかし、全備重量は6トン近くになり、一部空母での運用は困難であった。