第十三話 トラック沖航空戦
1944年(昭和19年)10月20日
この日、連合国軍によるトラック諸島攻略作戦「カートホイール作戦」が発動、猛将ハルゼー率いる米海軍第3艦隊が動きだした。
第3艦隊 司令長官:ウィリアム・ハルゼー大将
【空母】「エセックス」「イントレピッド」「エンタープライズⅡ」「ホーネットⅡ」
「タイコンデロガ」「レキシントンⅡ」「バンカー・ヒル」「ワスプⅡ」「ハンコック」
【軽空母】「インディペンデンス」「プリンストン」「ベロー・ウッド」「モントレー」「ラングレー」
【戦艦】「マサチューセッツ」「アラバマ」「アイオワ」「ニュージャージー」
「ミズーリ」「ウィスコンシン」
【重巡洋艦】「ウィチタ」「ボストン」「キャンベラ」「クインシー」
【軽巡洋艦】「モントピリア」「サンタフェ」「バーミンガム」「モービル」「ヴィンセンス」
「ヒューストン」「ビクロシ」
【防空巡洋艦】「サンディエゴ」「オークランド」「リノ」
【駆逐艦】84隻
約1,200機の航空戦力を持つ世界最強の艦隊、ここに旧式戦艦6隻、護衛空母18隻を基幹とする第7艦隊(トーマス・キンケイド中将)が続く。
「問題は、例のロケット兵器だ」
旗艦ニュージャージー艦橋でハルゼーは言った。
「あれは破壊力こそ低いが、射程が長い。被弾に弱い空母にとっては大きな脅威となる」
「やはり、母機を早期に迎撃するしか対処法はないでしょう。本隊からいくつか艦艇を先行させ警戒網を構築、常に戦闘機による迎撃を行えるようにしましょう」
参謀長のロバート・カーニー少将の提案に、ハルゼーは応えた。
「しかし、戦闘機の数が足りんぞ」
「護衛空母群の戦闘機があります。ローテーションを組み数十機を上空に待機させておけば、十分な備えとなるでしょう」
「ラバウルでは、敵は新鋭機を含む戦闘機を数十機繰り出してきた。トラックの敵基地航空隊の数を考えると、それで十分とは思えん」
話は基地と機動部隊、どちらを優先すべきかという話に移っていく。
「ここは先手必勝、トラックの航空戦力を全力で叩くべきです」
「いえ、敵の機動部隊の存在もあります。所在が不明なまま動くのは危険では?」
「基地は動きませんが、空母は動きます。敵機動部隊の排除に全力を注ぐべきだと進言します」
議論の末、ある作戦が立てられた。
10月22日 明朝
各空母から次々と艦載機が発進していく。その数312機、目標はトラックである。
「艦隊増速、第二次攻撃隊の準備も急げ!」
第3艦隊は前進する。東方よりトラック諸島に近づく動きだ。なぜ、自ら敵地に近づくのか?
その理由は、第一次攻撃隊を収容するためである。彼ら第一次攻撃隊が発進した地点はトラックから1,500キロも離れており、航続距離の短い米軍機での往復は困難だ。そのため、トラックとの距離を縮めて攻撃隊を収容し、反復攻撃を仕掛ける算段だった。攻撃を受ける確率は高いが、機動部隊と基地航空隊を同時に相手取るよりかは、まだマシだと判断された。
11時45分
「モントピリア被弾!」
「またやられた!」
第3艦隊は攻撃を受けていた。これまでの戦いと異なることは、それが護衛艦艇に集中していることである。すでに軽巡ヒューストン、駆逐艦7隻が沈没、重巡キャンベラ、軽巡バーミングハム、駆逐艦3隻が損傷し離脱に追い込まれている。
「それで、これまでの攻撃は全て通常攻撃なのか?」
「ええ」
「例のロケット兵器は?」
ハルゼーは不審に思っていた。ラバウル沖でミッチャーを葬ったあのロケット兵器が出てこないことに。その疑問に対し、カーニー参謀長が答える。
「攻撃に失敗したか、そもそもここにはないのかもしれません。もし彼らがラバウルを最重要拠点に定めていたとすれば、そこに集中配備していることも考えられます」
「わかった、だが警戒は怠るな。あいつは俺たちにとって最大の……」
その時、 レーダー員が悲鳴のような声をあげた。
「方位270より敵機、高度26,000(26,000フィート、約8,000メートル)!」
「26,000!?まさか……」
「敵は四発機の模様!」
イ号甲型無線誘導弾を抱えた四発重爆撃機「連山」24機がテニアンから飛来、第3艦隊に襲い掛かった。