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航空母艦神鳳  作者: 山月
12/18

第十二話 ラバウルの神雷

 1944年(昭和19年)7月17日 6時20分 珊瑚海

「ついにこの時が来た」

 空母ヨークタウンⅡ艦橋でマーク・ミッチャー中将は言った。

 彼ら第58任務部隊の目標はラバウル、南太平洋における日本軍の一大拠点である。


 第58任務部隊 指揮官:マーク・ミッチャー中将

 【空母】「エセックス」「ヨークタウンⅡ」「フランクリン」「エンタープライズⅡ」「バンカーヒル」

 【軽空母】「ベロー・ウッド」「モントレー」「バターン」

 【重巡洋艦】「ボルチモア」「ボストン」

 【防空巡洋艦】「オークランド」「リノ」

 【軽巡洋艦】「クリーブランド」「コロンビア」「モントピリア」

 【駆逐艦】32隻


 護衛空母は速力の問題もあり参加せず、巡洋艦の数も少ない。しかし、約650機の航空戦力はラバウルを攻撃するには十分なものであった。ラバウル航空隊の精鋭も、米海軍の卓越した防空網の前に太刀打ちできないと考えられた。


 10時21分

「敵機接近、方位60、高度16,000(16,000フィート、約5,000メートル)!」

「16,000だと?」

 レーダー員の報告にミッチャーは面食らった。敵機はおそらくベディ(一式陸攻の連合国側コードネーム)、日本海軍が誇る双発陸上攻撃機だ。従来の彼らなら、肉薄雷撃を行うべく低空から接近するはず、今更命中率の低い高空からの水平爆撃を行う気か?そんなことを考えるうちに敵編隊は迫ってくる。

「敵、数45、距離12マイル!」

「対空戦闘用意!」

 迎撃隊は止められなかった。F6Fの多くは腕利きぞろいの戦闘機隊に阻まれ、ベディも強力な防御火器と高高度での打たれ強さを発揮し、45機が機動部隊上空に到達した。

 だが、対空砲火と回避行動によって対処可能……しかし、予想だにしないことが起こった。

「謎の飛翔体が接近!速い!」

「!?」

 なんだそれは、と言う前に轟音が鳴り響いた。

「コロンビア、被弾!」

「バターン、爆発炎上!」

「一体何が……」

 その時、ヨークタウンⅡは激しい振動に襲われ、ミッチャーの意識は暗転した。


「命中、命中!」

「やりました、親分!大戦果です!」

 搭乗員の歓声に第七二一海軍航空隊飛行隊長野中五郎少佐は応えた。

「おうよ!だが、喜ぶには早いぜ。まずは離脱、そして帰投、喜ぶのはそのあとだ」

「合点!」

 野中機は翼を翻し、離脱にかかる。眼下で燃える艦艇を眺めながら、野中は思った。

(これが新しい戦い方、てやつか……安全だが、なんだか寂しく感じるな……)


 この時、彼ら七二一空——通称、神雷部隊——が使用した兵器はイ号乙型無線誘導弾、日本軍が開発した誘導ロケット弾である。

 1943年、英国東洋艦隊を撃破した日本は遣独潜水艦を派遣し、枢軸国間での技術交流を行った。その際にドイツが開発した誘導弾、Hs 293を手に入れた。この技術を元に、イ号弾は開発された。

 イ号乙型の諸元は全長3.6メートル、重量1トン、射程16キロメートルであり、弾頭に300キログラムの爆薬を装備している。1トンという重量は一式陸攻でギリギリ運用可能な数値であった。なお、弾頭に800キロ徹甲爆弾を使用した甲型もあるが、重量が2トンもあり四発大型陸上攻撃機「連山」(1944年1月に制式採用)でしか運用できない代物であった。


 七二一空は48機中13機を失うものの、軽空母バターンを撃沈、空母ヨークタウンⅡ、エンタープライズⅡ、バンカーヒル、軽巡コロンビアを撃破した。300キロ程度の炸薬では大型艦の撃沈は困難であったが、空母の飛行甲板を破壊し戦闘不能に追い込むだけの力はあった。さらに、1発がヨークタウンⅡの艦橋に命中、ミッチャー中将以下第58任務部隊司令部は全滅した。

 さらに、この混乱の隙をついて第五二一海軍航空隊の陸上爆撃機「銀河」48機が襲来、20機を失いながらも空母フランクリン、軽巡コロンビアを撃沈し、重巡ボルチモアを撃破した。

 一方、ラバウルを襲った攻撃隊も大打撃を受けた。ラバウルに展開する第十一航空艦隊は最新鋭戦闘機、零戦五四型、紫電改を有し、基地周辺には対空電探と戦闘指揮所が配置されていた。結果、地上からの指示を受けつつ十一航艦は有利な戦闘を展開し、被撃墜31機に対し敵機120機以上を撃墜した。

 一連の戦いで第58任務部隊は航空機400機余りを失い、撤退を余儀なくされた。これを受け、米軍はラバウルを迂回しマーシャル・ギルバート諸島の攻略に注力する方針に切り替えた。

 日本海軍もトラックを中心とする中部太平洋を決戦の地と定め、8月にはラバウルの航空戦力の大部分をトラック諸島に移動させるなど双方ともに決戦への準備を進めていった。

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