第十一話 機動部隊遊撃戦
第十話に後書きを追記しました。
また、作中に登場する護衛空母ミッドウェイは、護衛空母セント・ローが改名(1944年10月10日)する前の名前です。
1944年(昭和19年)5月18日 8時20分
「攻撃隊発進!」
新鋭空母天城の飛行甲板から艦上機がカタパルトを使い、次々と発進していく。その様子を艦橋から見ているのは山口多門中将、今年4月に第三遊撃部隊指揮官を任じられた言わずと知れた闘将である。
第三遊撃部隊 指揮官:山口多門中将(三航戦司令)
第三航空戦隊【空母】「雲龍」「瑞龍」「天城」
第六航空戦隊【空母】「千歳」「千代田」
第四水雷戦隊【軽巡】長良
第二駆逐隊【駆逐艦】春雨・五月雨
第八駆逐隊【駆逐艦】朝潮・大潮・満潮・荒潮
第二十七駆逐隊【駆逐艦】有明・夕暮・白露・時雨
100機余りの攻撃隊を見送る山口、その心境は複雑なものであった。
(我が機動部隊の力もずいぶんと衰えたものだ、こうして決戦を避けざるを得ないとはな)
同日 10時30分
「敵雷撃機低空より接近!」
「対空戦闘、輸送船に指一本触れさせるな!」
ソロモン諸島へ向かう米海軍輸送船団は、空襲を受けていた。多数のジル(艦上攻撃機天山の連合国側コードネーム)が輸送船へ、海面を這うように接近してくる。護衛空母、駆逐艦には目もくれないようだ。護衛空母ミッドウェイ以下護衛艦艇18隻が対空砲火を撃ち上げる。
「1機撃墜!」
1機のジルの翼が折れ、海面に叩きつけられる。さらに1機が黒煙を噴く。誰もが、ジルの対処に集中する中、ミッドウェイのレーダー員が悲鳴を上げた。
「敵機4、こちらに接近!」
迎撃の隙をつき、ジュディ(艦上爆撃機彗星)4機が上空に現れた。彼らはミッドウェイ目掛けて急降下を開始する。
「叩き墜とせ!」
真っ先に20ミリ機銃が銃身を上空に向け、続いて5インチ両用砲、40ミリ機関砲が旋回を始める。その間にも、ジュディは急降下を続ける。
「ダメだ、間に合わない!」
「総員、衝撃に備え!」
轟音と振動が艦を襲う。500キロ爆弾が命中したのだ。爆弾はカサブランカ級の貧弱な装甲を貫き、艦底付近で爆発、大量の海水が流れ込み船体を破壊していく。
「総員退艦!」
艦長の命令を受け、乗組員が甲板に上がる。彼らが海上に目を向けると、そこには炎上し沈みつつある輸送船の姿があった。
ろ号作戦——1944年4月7日発令―—により、日本海軍は行動を開始した。その作戦とは、敵補給線と後方拠点への大規模かつ継続的な攻撃を行うことであった。
手始めに4月10日、第一遊撃部隊(空母翔鶴、瑞鶴、天鳳を基幹、指揮官:小沢治三郎中将)がオーストラリア西部の都市バースに空襲を仕掛け、続いてインド洋での通商破壊作戦を実施した。オーストラリア政府は半ばパニックとなり、アメリカ政府に救援を要請した。その結果、18日に空母6隻を基幹とする第58任務部隊がインド洋に派遣されたが、小沢艦隊は長居は無用とばかりに19日にはリンガ泊地に帰還した。
その隙をつき、ラバウルの第十一航空艦隊は第ニ遊撃部隊(空母蒼龍、飛龍を基幹、指揮官:角田覚治中将)とともにソロモン諸島の米軍拠点を空爆、同地の基地施設に甚大な被害を与えることに成功した。さらに角田艦隊は、25日から30日までの間、同地へ向かう輸送船団を襲撃しその大半を海の底に沈めた。
その後、3つの遊撃部隊はソロモン、インド洋での遊撃戦を繰り広げ、第六艦隊や十一航艦も各地で通称破壊を行った。その内容はいずれも敵主力部隊との戦闘を避けながら補給線を圧迫させ、出血を強いるものであった。艦艇、航空機の損耗と燃料不足を理由に6月5日には作戦は終了したが、この間にオーストラリアの都市バースとダーウィンに甚大な被害を与え、沈めた輸送船の数は100隻を超えた。
この作戦で与えた被害はアメリカの国力を考えると戦争継続に影響を与えるだけのものではなかったが、米海軍の作戦開始を7月まで遅らせるだけの影響はあった。