異世界の出版社
出版社の扉を叩くと、そこには本の山に埋もれた編集者カイルがいた。
「持ち込みの原稿? 珍しいな。どれ、読ませてもらおう。」
彼はパラパラとページをめくり、時折眉をひそめ、時折感心したように頷く。
「……これは、面白い。だが、このままでは読者に伝わらない部分が多いな。」
「えっ?」
私は驚いた。異世界に来ても作家としての道は平坦ではなかった。
「まずはプロットの整理だ。読者が一番ワクワクする場面をより際立たせるようにしよう。」
カイルはペンを取り出し、原稿の端にメモを書き込んでいく。その姿を見ながら、私は編集という仕事の奥深さを実感した。
「なるほど……編集って、作家と一緒に物語を作る仕事なんですね。」
「その通りだ。」
彼の言葉に勇気をもらいながら、私は修正作業に取り組んだ。
修正作業は思った以上に厳しかった。
「このキャラクターの動機が弱いな。もっと感情を描写してみたらどうだ?」
「序盤の展開が遅い。読者を引き込むには、最初の十ページが勝負だ。」
次々と指摘される課題に、私は四苦八苦しながらも、作品がどんどん良くなっていくのを感じた。
「……できました!」
何度も書き直し、推敲を重ねた原稿をカイルに差し出す。
彼はしばらく無言で読み進める。そして最後のページをめくると、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……いい。これならいける。」
その一言が、私の胸を熱くした。
正式な出版が決まり、私は貴族の令嬢でありながら作家としての第一歩を踏み出した。
「タイトルはどうする?」
「うーん……『転生したけど、デビュー作が異世界で大ヒットした件』なんてどうでしょう?」
カイルは苦笑しながらも、頷いた。
「インパクトはあるな。よし、これでいこう。」
こうして、異世界での作家人生が本格的に動き出した。