転生と編成
「……ここは?」
目を覚ますと、目の前には見知らぬ天井が広がっていた。思わず飛び起きると、違和感に気づく。
小さな手、短い足。そして、鏡に映るのは金髪碧眼の少女。
「え、転生?」
いやいや、待て待て。私は確か、小説投稿サイトにデビュー作を載せて、それが奇跡的に書籍化して……その後、心臓発作で……。
――死んだ。
「はぁ……これ、テンプレすぎるやつじゃん。」
どうやら私は異世界の貴族の娘、アリシア・フォン・ルーエとして生まれ変わったらしい。しかし問題はそこじゃない。
「私、作家としての夢、どうなるの?」
いや、むしろチャンスか? 転生ものの王道に乗っかったデビュー作をここで書けば、もしかしてとんでもないヒット作になるんじゃ……?
「やるしかない。」
転生したことを前向きに捉え、私は異世界でのデビューを決意した。
異世界の貴族の暮らしは、それなりに優雅であるが、厳格なルールが存在する。私が物語を書くには、それらのルールを守りながら、家族にバレずに活動する必要があった。
父は軍人、母は社交界の華、兄は剣士として名を馳せる人物。そんな中で、「本を書く」という趣味を持つ私の存在は異端そのもの。
「アリシア、今日の刺繍の授業は終わったのか?」
「うん、終わったよ、お母様。」
「よろしい。貴族の娘として、恥じぬように振る舞いなさい。」
「……はい。」
私はこっそりと執筆活動を続けることにした。
数年後、私はついに異世界でのデビュー作となる物語を書き上げた。タイトルは『転生したけど、デビュー作が異世界で大ヒットした件』。
本を書くために、この世界の貴族の文化や慣習を徹底的に調査し、異世界らしい要素を詰め込んだ。物語の主人公は、まさに自分自身と重なる転生者。
この世界で作家として生きるなら、出版業界の仕組みを知る必要がある。
情報収集の末、貴族の間で書物を取り扱う出版社が存在することを知った。その出版社に向かうため、私は貴族令嬢の衣装を身にまとい、こっそりと屋敷を抜け出した。
異世界の出版社は、意外にも格式張った建物ではなく、シンプルな屋敷のような佇まいだった。門の前で躊躇していると、偶然通りかかった青年が声をかけてきた。
「君、出版社に用があるのかい?」
「えっと、はい。小説を持ち込もうと思って……」
「持ち込み? 面白いね。じゃあ俺が案内しよう。」
青年の名はカイル。この出版社で働く編集者だった。
「さて、どんな物語を書いたのか見せてもらおうか。」
数日後、カイルからの返答が届いた。
「……これは、すごい。正直、異世界転生ものというジャンル自体は珍しくない。しかし、ここまで面白いのは初めてだ。」
「本当ですか!?」
「うむ、ぜひ出版しましょう!」
こうして、私は異世界で作家デビューを果たすこととなった。