かっこつけては見たものの――
かっこつけては見たものの食堂ホールを出ながら、シファキスは足がないことに気がついた。自分の車は蜂の巣にされたし、戦利品のリムジンはエンジンが吹き飛んだ。
やっぱやめたと言いたくなったが、ソウヘイの自分を見る目が心なしかキラキラしている。
どうしたものかと考えて、車のある玄関外の車まわしに出て、シファキスは思わず、叫んだ。
「なんだ、これ!」
蜂の巣にされた彼の車が修理されていた。吹き飛んだドアには桜材の板が釘で打たれ、パンクしたタイヤには干し草がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。折れたスロットルレバーには木のさじが針金でくくりつけられていた。
こうまでされるとエンジンはどうやって修理したのだろうと思ったが、穴の開いたところに紫色が浸みたコルク栓が差し込まれていた。農夫たちはエンジンを修理するためという大義名分のもと、葡萄酒の瓶を片っ端から開けたらしい。
車体には冬の星座と夏の星座が入り乱れて喧嘩したみたいに穴が開いていて、これはそのままだし、割れたガラスもそのままで、座席は飛び散った綿の分、干し草を詰めて、穴を縫い閉じてある。農村では自動車修理するとき、干し草が万能資材なのだ。
村で唯一の機械工だという若者が手を拭きながらあらわれた。
「この通り、修理したッス。言いたいことは分かるッスけど、こんな田舎じゃ、これが精いっぱいッス。ああ、ディストリビュータだけは純正の新品に取りかえたッスよ。つーか、よくあんなディスでブラグが生きてましたね。たぶん、吹っ飛ぶ前よりもエンジンがかかりやすくなったんじゃないッスかね」
「エンジンカバーがないみたいだけど」
「ああ、これを使うといいッス」
そう言って、機械工は二着の雨合羽を縫い合わせてつくったものをエンジンの上にかぶせた。
「礼はいいッスよ。だって、おふたり、リーベルさまを探しに行ってくれるんでしょ? 顔に書いてあるッス。領主さまもリーベルさまもいい人っス。あんな目に遭うなんて、間違ってるッスよ」