表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/24

「旦那さま、首都はいかがで――

「旦那さま、首都はいかがでございましたか?」

「どうも、奇妙なものだったよ。どこに行っても、アルテマがある。古代に学び、いまに活かそうとすることは素晴らしいけど、彼らを見ていると、どうも、僕が思っているものとは違う古代を見ている気がするんだ」

 上のバルコニーにこの農園の主人がいる。ソウヘイは勝手ながら、主人は体がビール樽みたいな形の、楽天的な中年を想像していた。だが、声からきくと、主人はずっと若い。まだ二十代のようだ。

「そうですか。何とも不安なお話ですな。それでウィーホーデン伯爵さまの御用は……」

「僕に政治家になれって。アルテマ党から出馬しないかというものだった」

「先代の旦那さまは御友人の御勧めで断り切れず、自由党から出馬されて、上院議員になられましたが、そのときのことは――」

「もちろん、そのことが頭にあったから、断ったよ。父さんは散々な目にあったからね。第一、議員になったら、ずっと首都に勤めなければいけない。僕はここを離れたくないよ」

「わたくしども一同も、旦那さまとは離れたくありません」

「それに、僕はどうもアルテマ主義の考え方に同調できない。アルテマ文明は全て正しくて、それ以外は無価値だって論調はちょっと違うと思う。いろんな考え方があって、そのなかでアルテマも混じり、切磋琢磨して、よりよい未来へつなげようというのなら、賛同できるけど、彼らはアルテマ文明をそっくりそのまま、現代によみがえらせようと主張する。そして、それを支持しないものは力でねじ伏せても構わない。そんなことを言う人が、多すぎる」

「隣のワタリガラス荘で、アルテマ党員たちが行進をしたことは御存じで?」

「ああ、きいたよ。あの大人しいワタリガラス荘の人びとが興奮して、大声でアルテマを称えながら、自分たちの家のドアや窓を叩き割って、家具を放り出したって。はじめてきいたときは信じられなかった」

「実際に見かけた手前どもも信じられません。それに恐れてもいます。まるで心が言いなりになる病気のようです。それにかかると人は荒々しくなって、アルテマの崇拝者になってしまうのであります――旦那さま。せっかくお帰りいただいたのに、こう暗い話題ではいけません。明るい話題もございます。今日の宴は農園のものはみなやってきます。それに旅の方がおふたり」

「どんな人たちかな?」

「男の方がふたりです。荘園の入り口でリーベルさまがお見つけになられました」

「うん」

「旦那さま?」

「うん?」

「リーベルさまのことはおききにならないのですか?」

「だって、セバスチャン。首都に行ったのはたったの二週間じゃないか」

「その二週間、リーベルさまは大変寂しそうにしていらっしゃいました」

「うん」

「リーベルさまも十七歳でございます」

「何の話だい?」

「リーベルさまがかわいそうでございます」

「どうして?」

「旦那さまがお避けになるので」

「僕は避けてなんかいないよ」

「リーベルさまのことが嫌いでございますか?」

「そんなわけないだろう。セバスチャン。なんだか、今日のあなたは変だよ」

「では、旦那さま。質問を変えましょう。ここに旦那さまの好きなシュークリームがひとつございます。とてもおいしいシュークリームでございます。ひとりで食べようとすると、リーベルさまがあらわれました。どうなさいますか?」

「ふたつに割って、リーベルにもあげるよ。彼女もシュークリームは大好きだから」

「よろしいのですか? それは世界で一番おいしいシュークリームでございますよ? こんなにおいしいシュークリームとは二度と巡り合えないかもしれませんよ。それでも半分に分けてしまうのはなぜでございます?」

「それは……」

「それは?」

「そんなにおいしいシュークリームなら、リーベルがおいしそうに食べているのを眺めながら食べたい。リーベルが喜ぶ顔を見ながら食べたほうがずっとおいしいし、僕も幸せな気分になれる」

「旦那さま、それが愛というものでございます」

「はぁ、セバスチャン」

「お気持ちを素直に表明なさることは何もおかしくはございません」

「……でも、卑怯じゃないかな?」

「なぜです?」

「彼女は幼いころから、父さんに引き取られて育った。本当の娘みたいにかわいがった。でも、それが束縛になっていないかい? それで、僕が愛してるって言うのは、その束縛を利用しているようで卑怯な気がする」

「……旦那さまがあまりにも真っ直ぐすぎるので、少々心配になってまいりました」

 ふむ。ソウヘイは腕を組んで、うなずく。純である。シファキスが彼女にちょっかいを出したら、殴って止めよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ