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実際、気絶していたのは――

 実際、気絶していたのはほんの数秒だった。

 山高帽をかぶったアルテマ探偵社の暗殺部隊がドアを蹴破ってきたので、四人は裏手のドアへ我先に駆け出し、A型パーカーのエンジンをクランク一発でかけて、急発進した。アルテマ・ブリュワリーの私兵たちは街じゅうの曲がり角に狙撃兵を配置していた。

「バツリに狙撃弾を跳ね返す技はないのか!?」

「第二巻を出版するときにきいてみます!」

 悪夢のような正確さで弾が飛んでくるなか、エミーリオは戯曲のなかの重要人物みたいにもったいぶって、生き残る唯一の方法を知っていると発言した。シファキスの悪夢のようなハンドルさばきと悪夢のような遠心力によって、既にドアは全て失われていて、うかうかしていると、人間が飛び出してしまう。この状況を脱することができるなら、エミーリオの方法にかけるべきだと思い、彼の言う通りに角を曲がった。

 だんだん家並みの丈が低くなり、弾の勢いも弱くなっていくころ、街はずれの小さな飛行場が見えてきた。フェンスのドアを跳ね飛ばして、滑走路に侵入すると、奥に停止している戦闘機を指さして、

「あれだ。リミテッドの最新戦闘機だ」

「飛行機か。いいな」と、シファキスは言って、「ところで、悪い知らせその一と悪い知らせその二が――」

 スピードが上がりっぱなしの状態に不吉なものを感じたソウヘイが言った。「一気にふたつ言ってください」

「ハンドルが外れて、ブレーキが死んでる。総員退避!」

 ソウヘイとエミーリオは見事な受け身を見せ、セールスマンはバツリの教科書が入ったトランクを抱きかかえて飛び出し、シファキスはサイドブレーキのレバーに上着が引っかかってしまったが、手に持ったハンドルでレバーを叩き折って、かなりギリギリで飛び出した。

 A型パーカーはアルテマ・ブリュワリーが所有する燃料満タンの戦闘機の列に突っ込んだ。シファキスの残した煙草の火が飛行燃料に触れると、山吹色の閃光が走って、最初の爆発から二秒ずつの誤差を得て十六の戦闘機が炎の渦のなかで照り焼き金属バーベキューになった。

 ――シファキスがスクラップ屋で見つけ、三時間の値切り交渉の末、購入。雨が降れば雨漏りし、悪路ではスプリングのない車体が尻にダイレクトに衝撃を伝えてくれた。エンストして、ソウヘイに押された回数は数えきれない。それが蜂の巣にされ、コルクとボール紙と針金の田舎風応急手当を受け、大都会にみじめな有様をさらすことを臆することなく走り、高級車二台に追いかけられながらカーニバルのなかを突っ切り、目覚ましと称して後部座席に十二連発花火を放り込まれたA型パーカー。

 シャーシだけを残して燃えているA型パーカーをシファキスとソウヘイが切なげに眺め、ため息をついた。

「ぐすっ。さようなら、ジェシー……」

「名前つけてたんですか?」

「いま、つけた。で、それはそれとして」

 シファキスの興味はリミテッドの四人乗り戦闘機に向けられていた。青く塗られた双胴単葉機で座席は四つ。中央に操縦席と第一銃座。左胴に第二銃座、右胴に第三銃座で四つ。

 武装は七ミリ機銃が操縦席に二丁、三つの銃座それぞれに一丁ずつで計五丁、さらに花火の化け物のようなロケット弾が左右の翼の下に三発ずつの計六発。

「昼に死んだ仲間たちが乗るための座席だ」

 と、エミーリオが言った。まるで彼らが生きていれば、ソウヘイたちはここに残していたとでも言うように。

「あのー」と、セールスマン。「これでどこに逃げるんですか?」

 エミーリオが空を指さした――そこでは空中戦艦が遊弋している。

「いつの間にあんなものが飛んでたんです?」セールスマンは首をかしげた。

「空を見る余裕がなかっただけさ」と、シファキス。「頼むから、あれに喧嘩を売るなんて言わないでくれないか?」

「もちろん売る」

 ソウヘイがくそったれリミテッドとぼやく前に付け加える。

「リーベル・アスカノンはあそこにいる」

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