封殺された疑念
家に帰るのが怖かったが、いつまでも外にいても仕方がない。秀は深呼吸して玄関の扉を開けた。
「お帰り。」
優はいつもと変わらないように見えた。確かにあれはただの夢だったのだろう。
「ただいま。」
秀は急いで学校の準備をした。用意の終わっている優が話し掛けてきた。
「今日は終業式だね。この夏休みは何か予定あるの?」
「うわ…。終業式か…。」
秀にとって終業式とは夏休みの始まりを知らせる日ではなく、通知表を優秀な兄と比較されて叱られる日だった。
秀は通学路を走りながら、果たして優は自分にとって最も親しい人物なのだろうかと考えていた。秀は幼い頃から優秀な兄と比較されてきた。親から愛されなかった少年、秀は気を惹くための嘘が絶えなかったらしく、周囲から孤立していった。なお、秀には昔そのようなことをしたという自覚はない。ただ、今でも母親は完全に優を溺愛して秀を疎んじている。まあ、たまに同じ剣道部の麗と話す以外他人と交流がないのだから、最も親しいのは必然的に常に一緒にいる、というより付きまとってくる優なのかもしれない。
秀が色々と思い悩みながら走っていると、犬の散歩をしていたご婦人にぶつかりそうになった。
「すみません。」
「そんなに走ると危ないですよ。この間もここで事故がありましたから。」
秀はそう言われて初めて道端に供えてある花に気付いた。暑さのせいでしおれている。
「気を付けます。」
秀はそそくさと立ち去って学校に向かった。
「ヒデに言っておかないといけないことがある。」
放課後に麗が秀を呼び止めた。麗に連れられて二人で空き教室に入った。中には優がいた。
「どうしたの?」
麗は辺りを見渡した。優以外には誰もいない。
「単刀直入に言う。スグルには二度と会わないでくれ。場合によっては家を出ろ。」
麗の言葉にハッとして、秀と優は互いの顔色を窺った。優は蒼い顔で秀をじっと見ている。
「どういう意味だ!?」
秀は声を荒げた。麗は顔色一つ変えない。
「ヒデ、実はスグルは…。」
「聞きたくない。優!」
秀は優を探したが、既にその姿はなかった。怒って出て行ったのだろうか。
「聞いてくれ!」
麗の訴えも虚しく、秀は走り去ってしまった。秀は走りながら、何かがおかしいと感じ始めていた。疑問を解決すべく、秀は優を探した。学校にはいないようだ。秀は家に帰ることにした。帰り道は特に何も起こらず、秀は深呼吸して玄関の扉を開けた。
「お帰り。」
「…ただいま。」
いつも通りの優だ。
「優、何か変わったことはない?」
「うーん、僕も悪夢を見た気がするよ。昨晩は暑かったからかなぁ。」
優は穏やかに答えた。
「あのさ…。」
秀が言い掛けた時、ポケットに入れていたスマホが鳴った。榊からだ。
「はい。」
「もしもし、榊です。思ったより早く除霊の準備が整ったので、明後日には除霊できそうです。ご自宅に伺っても大丈夫ですか?」
秀はホッとした。
「ええ、お願いします。」
情報量が多いですね。因みに、今回は秀が学校から帰る時に何も起こっていません。