霊相談所 榊
麗は自宅に帰った。
翌日、秀と麗が霊相談所、榊の前に行くと、普通のビルの一室だった。ただ、内装はかなり怪しくなっていた。咽るような甘ったるい香が日本人形に奇妙な匂いを染み込ませているかと思うと、鹿の角に掛けられた勾玉が風に揺られてカタカタと音を立てた。そのまま回れ右したかったが、奥から声を掛けられた。
「どうぞ。」
二人は観念してソファに腰掛けた。目の前の人物は、着物を着て数珠をじゃらじゃら着けた中年の男性だった。
「初めまして、榊と申します。まず確認したいのですが、私どもの存在をどこで知ったのですか?」
「兄が調べてきたので、僕は分かりません。」
秀は突然の質問に戸惑いながら言った。
「それはいつのことです?」
「昨日ですけど…。」
自称霊能力者の榊が呟いた。
「嗚呼、道理で…。」
「どういうことですか?」
「いえ、こちらの話です。依頼者が少ないもので、気になっただけです。」
麗は鼻で笑った。
「少ない、ではなく、いない、だろう。」
「ちょっと、麗!」
榊は嘘くさい笑みを崩さない。
「そうお思いになるのも当然ですが、案外需要があるようです。先月も依頼がありましたよ。」
「オレら以外に?どんな内容だ?」
秀は麗をつつくが、麗は止まろうとしない。
「依頼内容は話せません。守秘義務がありますから。」
「解決したのか?」
「現在もその依頼は継続中です。それより、早速本題に移りましょうか。どういったお悩みですか?」
秀は詳細を説明した。
「それは悪霊の仕業ですね。これをどうぞ。」
そう言って榊が差し出してきたのは、怪しげなお守りとお札だった。秀は眉をひそめて受け取るのを躊躇う。
「これは?」
麗が尋ねた。榊はお守りとお札を持ったまま説明した。
「このお守りは悪しき者から貴方を守ります。どうぞ肌身離さずお持ち下さい。このお札は家を守ります。家の人に剥がされないように、どこか目立たない場所に貼って下さい。」
秀はそれでも受け取ろうとしなかった。
「貰わないのか、ヒデ?」
「嫌な雰囲気を感じる。これ、本当に大丈夫な品ですか?」
榊は胡散臭い笑顔を向けた。
「慎重なのは良いことです。まずは使ってみて下さい。お代は効果が出てからで構いません。」
秀は渋々受け取ると、早速お守りを首に掛けた。
「確かに、嫌な感じはしませんね。疑ってすみませんでした。ありがとうございます。」
「いえいえ、どうぞお大事に。」
二人は榊の所を去り、秀の家に向かっていた。途中、またびちゃびちゃと音が聞こえてきた。秀の顔から血の気が引いた。
「来てるのか?」
秀は返事代わりに麗の手を握り締めて駆け出した。ところが、足音は迫ってこなかった。秀は家に帰る前に足を止めて振り返った。例の化物はまだ遠くにいる。
「追ってこない…。」
「良かったな。このまま帰ろう。」
秀は麗の手を放した。何故だろう。目の前の化物に見覚えがある。秀は確認しないと後悔する予感がして、化物に向かって歩み寄っていった。
「どうした?早く帰ろう。」
秀が歩み寄っても化物は一切の反応を示さなかった。秀は高鳴る心臓を押さえながら、ゆっくりと近付いていく。もうすぐ、顔が見える距離だ。
霊能力者に対する偏見が酷いと思われるかもしれません。少なくとも榊は雰囲気から入るタイプのようです。それらに効果があったのかどうかは、作者も知りません。