空回る推理
ヒデが登校してきたのは7月の下旬だ。
ヒデに『放課後、何かにつけられている』と言われた時に違和感に気付くべきだった。ヒデが登校したのはほぼ一ヶ月ぶりで、その間『放課後』なんて過ごしていなかったはずだからな。恐らく事故当日の記憶がずっとフラッシュバックしていたんだ。
ヒデが死んだはずのスグルと話していることについては、オレも特に気にしなかった。ヒデに霊感があることは知っていたし、事前に先生がヒデは事故の後遺症でスグルが生きていると思い込んでいるが、無闇に否定しないように言っていたからな。まあ流石に、何かに追われる帰り道を、霊であるスグルと過ごしても仕方ないと思ったから、そこは止めたが。
スグルが榊の相談所を紹介したのは、そこに行って解決しないといけない問題だと分かっていたからだろう。この時点ではオレがスグルを疑うこともなかったから、特に気にしなかった。それより気になったのは、相談所を調べたのはヒデの兄だと知った時の、榊の反応だ。
榊は明らかにヒデの兄が死んでいると知っている反応だった。まあ、ニュースにもなったし、知っていてもおかしくはないが、死んだはずの兄と話したという弟を前に、『道理で』とは奇妙な反応だ。今にして思えば、『道理で呪い殺すのに時間が掛かるわけだ。霊感があるのか。』ということだろう。そんなこと思いもしなかったオレは少し探りを入れたが、その時はまだ榊の異常性に気付かなかった。
お札とお守りについても、霊感のあるヒデが嫌がっていたのだから、受け取らせてはいけなかった。きっとあれのせいでスグルが悪霊化して、ヒデに取り憑こうとしたのだろう。以前使った悪霊ではヒデを呪うのに力不足だと悟った榊は、戦法を変えてヒデの身内を悪霊化しようとしたわけだ。あいつの方がよっぽど悪魔だ。
オレはずっと間違った推理をしていた。ヒデを最初に襲った悪霊が、偶然スグルと同じく交通事故で死んだ霊であり、顔が判別できなかったこと、夢の中でヒデを襲ったものがスグルだったことが原因だ。
オレはスグルをヒデから遠ざければ、全て解決すると思い込んでしまった。思い込みは大変危険だ。ヒデが事故の遭った日、つまりスグルの生きていた時にも悪霊に追われたと聞かなければ、そこでオレの思考は止まっていただろう。
あの悪霊がスグルではないとすると、執拗にヒデを狙う理由が分からなかった。霊能力者は狙われやすいものなのかもしれないが、前触れもなく狙ってきて、スグルが死んだ後も狙い続けるというのは流石に違和感がある。
榊が看板で呪殺を謳っていなかったら、流石に依頼されていたとは思わなかっただろう。スグルのヒントが役立ったわけだ。誰かがヒデの死を願うなら、きっと母親だろうという悲しい読みも当たってしまった。どうやら、最初はただ事故に遭わせるだけのつもりだったようだが。それでも十分鬼だ。ヒデの母親のパソコンを見たことで、オレはかなり真相に近付いた。後は榊を追い詰め、ヒデを襲う霊を止めさせるため、オレは証拠集めに走った。
本編の裏で頑張っていた麗でしたが、探偵になるには何かが足りない気がします。麗が秀と情報を共有すればもっと早い段階で安全策を取れたはずですが、自分一人で解決しようとしたため、かえって事態が拗れました。