目が覚めてから死ぬまでの話 (2)
「ん...んん~...」
生暖かい感触で目を覚ます。
自分の手を見る。
「ちいさい・・・?」
今の手はいつもより一回りちいさい。
水のような・・・いや、お風呂か?
自分がなにを漏らしたか知った。
と同時に剣の感覚が浮かび上がる。
「う、うご・・・。」
吐いた。胃の中にある吐瀉物すべてを吐き出した。
う、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
声にならない叫び声に気づいたかカエサルが部屋に入ってきた。
「エナ!どうした!?おねしょだけじゃなく吐いたのか!?ちょっちょっと待て・・・今拭く物を。」
(だめだ・・・意識が遠く・・・また死ぬのかな・・・?)
意識は浮かんでいく。浮かんで浮かんで沈むことはない。
2度目の死亡。13歳の13ノ月13日真夜中の3時。死因・ショック死。
意識が遠くにある感覚。そうだ・・・おねしょ・・・。
きゅっと唇を嚙んだ。痛みで起きる。
「よかった。おねしょはしてない。胃の中のものは・・・考えちゃだめだ。」
できるだけ胃の中を想像しないように周りを見渡す。
ここは私とナポの部屋だ。今は私専用の部屋。
なぜここにいるのだろうか?ベッドから降りて座禅を組んで考える。
「つまり私は死んだってことだよね・・・?でも生きてる?なんでだろう?」
若返った。そのことはどうでもいい。
今大事なことは・・・ん?なんだろう。何を考えるべきなんだろう?
時計の時間は3時10分ってとこだろう。
考えようとはする。ただ頭の中に今の状況がない。
時計の音だけが響いている。気持ちが悪くなってきた。
「寝よう。」
結論は寝る。ただそれだけしかできないんだ。
次の日の朝。エイラに起こされて台所に向かって朝食を食べる。
おいしい。おいしいことはおいしいけど・・・。昨日を思い出すとまずく感じる。
「どうしたの?おいしくなかった?いつもと同じに作ったけど・・・味付け間違えたかしら?」
首を振る。
「ううん。おいしいけど食欲なくて・・・。ごめんなさい。今日は残すわ。」
エイラがおでこを引っ付けてくる。
(ひゃあ???)
「熱はないみたいね。今は夏じゃないし、寒さによる食欲不振?聞いたことないけど安静にね?」
軽くうなづくと食器を流しに置いてきて部屋で髪を整えて外へ出た。
「やあ。エナ、もしかして不機嫌かい?」
そういうことじゃないけどうなづいて軽く流しておいた。
「今日こそ一本とれるといいね。」
(一本?何言ってんのコイツ・・・?)
ラニが剣をかまえてくいっくいっと手招きしてくる。
「悪いけど今日はそんな気分になれないの。帰ってくれる?」
ラニは首をかしげて
「体調が悪いのか?よしここはおっさんに任せろ。」
ラニが聖典のようなものを取り出し唱え始めた。
不死鳥のカフに頼りて
千本の羽根のその一端に宿せ
炎からよみがえるはカフの加護
ここに来りてそこに来りて
この者に不死鳥の加護をカフ!
すっと頭がクリアになった。
「いや、それよりその詠唱ハズいな!」
「慣れればなんてことはないが面と向かってハズイ言われるとハズイな。」
※ハズイ=恥ずかしい
頭もおなかもすっと軽くなったがこれが魔法ってことか。
「どうだ?呪文さえ覚えればエナにも使えるはずだ。」
ぐぬぬ・・・。確かに使えたら便利かとは思うけど。
「その呪文詠唱は何とかならないの?ハズすぎてまともに唱えられるとは思えないんだけど?」
「そこは我慢するしかないな。どうする?そろそろ決めてほしい。剣か魔法か。両方はだめだ。器用貧乏
という言葉を知らないのか?」
知ってるよそのくらい・・・。
「またその質問?たしか剣って答えたはずだよね?忘れたの?」
ラニは首をかしげてこう問いただした。
「ん?またってどういうことだ?この質問はそんなに何回もしてないぞ。」
ふむぅ。確か13歳の頃に・・・今何歳だ?
「ねぇ?今私って何歳?」
「13歳だろ?今が13の月だからあと半年で14か。それがどうした?」
13・・・つまり二年分巻き戻ったってわけね・・・。
でも何で巻き戻ったんだろう?刺されたから?うーん。
「この巻き戻り現象に名をつけるなら・・・コロサレ体質?」
「なんだ?ころされなんちゃらってのは。いいからはよ選べ。魔法or剣?」
心ではわかってる。剣を極めれば誰にも負けることはない。だがしかし?後ろから刺されたら対処のしようがない。
だけど”魔法”すら使える剣士ならどうだ?後ろからの攻撃を魔法で、前からを剣で殺すのはどうだろう?
なら話は簡単だ。
「魔法をとるよ。」
端的にそういった。
ラニは嬉しそうに『おお!そうか!』などとはしゃいでいたが気にするだけ無駄だ。
今日のところは夜遅いし寝ようとゆうことになった。
ラニがなにをはしゃいでいるのかは知らないけど魔法剣士か・・・かっこいい・・・!!
その夜は興奮して眠れなかった。
次の日の朝からラニが家にやってきて、
「エナ!練習だ練習!」
と言ってきて迷惑だったのを覚えている。
「まず初歩の魔法からな。繰り返せよ?」
満ち潮からメヲをくだせ。
ミウナカからメヲが落ちる。
目の前に大海を!メヲ!
ラニの前に大きな水の塊が出てきた。
「普通はこれでおぼれさせたり・・・な。」
ラニが杖から力を離すと水は霧散していった。
(すごいな・・・実用性はともかく。)
「なんだ?何か言いたいことあるのか?」
「いや、実用性皆無だなって。」
ラニは呆れたように呪文を唱えた。
永久よりラナ来りて
ラナよ ミタセ 満たせ
仇敵をラナに留めよ
世界樹のラナを食わせり
空間を削れ!ラナ!
ラニが唱え終わると暗闇が訪れた。と思ったら晴れた。
ひゅん!・・・?
頭の後ろに何か飛んで行った?後ろを振り向くと、
「塀に穴が・・・!」
「中級呪文ラナだ。威力をどう一点に集中させるかが難点だな。」
穴の向こうを見ると隣の塀まで貫通している。
「これって誰かに当たったらやばいんじゃないの・・・?」
さすがにこれはやばすぎるだろ。どこまで貫通してるんだろう?
「隣の塀までで止まってるはずだ。俺くらいになると飛距離も…な?」
ラナ?やっぱりハズイ。
「ラナ!!」
目の前が暗くなってきて何かが飛んだ感覚がした。
「この程度か!ふはは。」
「ラ~ニ~!!」
ラニが走って逃げた!
追いかけるのもまた定めということか。
体力より記憶力つけたいけどもね?
「はあ、はあ。」
ラニを追いかけていたはずがなぜかラニに追いかけられていた。
捕まると何をされるかわからないので一応逃げておいた。
夕飯の時に『ラニは全速で走ると人が死ぬ』などとおかしな冗談をカエサルが言っていた。
―――――13年6ノ月
いつものようにラニに魔法を教えてもらっていた。
魔法は舌が噛みそうなのと恥ずかしいのを除けばいたって簡単だった。
創造の通りに魔法が動く。
想像は得意分野だ。小説を読んで想像するのも魔法を唱えて想像するのも言ってしまえば同じことだ。
明日は学校の入学式だ。カエサルはいつものごとく『旅に出るなら姉と同じ年で』だそうだ。
そして次の日。
ざわざわ わいわい がやがや
「えー。こほん!剣士候補希望生諸君はこっちへ。」
やはり剣士候補から先に呼ばれた。
「んんー。こほん!魔術師希望候補生諸君はこっちへ。」
この前とは違う部屋に通された。当たり前だけど。
「では試験としてこの樫の杖で魔法を唱えてもらう。方法は黒板のー--。」
説明が長い。うんたらかんたら言っていたが要するにラニと同じことを言っていた。
(番号は・・・前と同じ21。)
「では番号1番!前へ。」
「ギド!」
ひょろひょろと細長い線香花火が飛び出した。
(かっこわるいなあ・・・男のくせに。)
「次!21番!前へ。」
杖を杖を斜めに持ち斜め上へと振り上げた。
「ギド!」
ドン!!
目の前のカカシに火の矢が刺さっていた。
(ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。。。!!)
静かな歓声が沸き起こる。
「つ、次!22!22!」
試験は当然合格だ。
しばらくして、
「ねー?エナ?」
最近この女がよく絡んでくる。
首を横に振る。知らないの意だ。
「やっぱりそう思う?だよねー。」
あわてず机から教科書をとる。
がさがさ。
?。手紙が入ってる。
『放課後。裏の木の下で待つ。」
こ、恋文ぃ??
行くか行かないかの選択か・・・。行くか!
そして放課後。
(裏庭・・・木・・・。)
木の下で誰かが待っていた。
「あっ!こっちこっち。」
あの女だ・・・。入学以来付きまとっているあの女だ。
「話って何?喧嘩でもする?」
女は首を振って、
「友達・・・ほしくない?」
「いらない。」
「即答だね。」
「・・・。」
「こう思わない?友達は有用だなって。」
???。ゆう、よう??
「互いに利用されながら学びを得る。有用。」
「互いに手を取り助け合う。有用。」
「”情報を交換し合う”有用。ね?有用でしょ?」
「何が言いた・・・。」
そうか。こいつを利用するのも手だ。
姉の情報を引き出す。それだけの関係ならいい。
「わかった。利用する関係ね?よろしく。」
女の手を握るとすぐ放して別れた。
これが2つ目の選択。
「エナ。学校はどうだ?」
カエサルが訊ねてきた。
「どうって?」
どう?の意味が分からなかったので訊ね返してやった。
「友達とかさ・・・ほら、ナポがあれだったからな?」
ナポは友達というより知り合いが多かったか。
私は知り合いすらいないが。
「そういえば、友達ならできたよ。一人だけどね。」
「おお!そうか!ならいいんだ。うんうん。」
親としては嬉しいことなんだろう。私にはちっともわからないけども。
カエサルたちが寝静まったころ、日記をつけた。
『13の月15日。天の日。晴れ。
今日は友達になりたいと名乗る女が話しかけてきた。
面倒だから友達になることを了承した。
今日は厄日だと思う。友達はいらない。
友達と呼ぶには浅すぎるからだ。
やはり友達はナポだけだ。
今日を境に日常が変わらないことを祈る。かしこ。』
ふー。こんなもんか。
「ほんとに迷惑。とにかく迷惑。何とか避けたいけど、どうしようか?」
そんな独り言を言って眠りについた。
次の日の朝。
「おはよー。エナ。」
こくりとうなずきあしらう。めんどくさい。
その後もなんやかんやと話しかけてきてウザったかったが、二茅一組を作る時だけは助かった。
いままでは『エナはまた一人かー。じゃ!一人でなんかしといてくれ』で済まされたからな。
「弓を構えろ!ギド!」
どぉーん!
日に日に威力が増していく初級魔法に自分でも恐怖を覚える。
「ギド!」
どかん!
「ふふふ・・・私の方が威力強いね?」
イラっ!
友達になりたいというのはこういうことだったのか?
「もしかして喧嘩売ってる?売られたら買うだけだけど?」
「いや、単純にエナは魔法より剣の方が向いてるなって思ってさ。」
嫌味かと思ったが実際そうなんだろう。友 (仮)と比べて威力はけして低くはない。
が、命中率で言えば私は外してしまうことが多い気がする。
「でも、ここ学校だし習いに来てるんだよね?ならこれからに期待ってことで。」
「ちっちっち!ちがうんだなーこれが。動体視力ってわかる?動いてるものを見る能力値のこと。それが
足りてないんだよエナには。」
動体視力・・・。確かにギドの炎の矢をみれてないような。
「でも、剣は見て避けたり受け止めたりしてるから動体視力は悪くないと思うんだけどな。」
「そう!それ!エナは剣に関してだけ言えば動体視力はずば抜けてる。だから剣が向いてる。」
嘘は言ってない。的を射てる。確かにそうだ。
(なんかこいつとは気が合いそうな気がする。)
「エナが前衛。私が後衛。WIN-WINな関係ね?」
「私が前衛・・・?」
考えたことなかった。前衛だとか後衛だとかそういうのは。
その日の日記にはこう書いた。
『13の月20日。地の日。曇りのち晴れ。
友達というのは案外悪くないのかもしれない。
でも、やっぱり面倒なのは面倒だ。
今日という日が転機ではありませんように。
友達っていうよりこれRPGでいうパーティーだよね。かしこ』
っと。昼間の会話を思い出していた。
『エナが前衛で私が後衛。』
・・・。
「やっぱり変な奴だ。」
今日はもう寝た。
それから二年。授業に明け暮れた。
そして15歳の誕生日。
「さてと、旅立ちますか。」
こんこん。
「ん?」
誰だろう?カエサルはラニと飲みに行ってるし・・・。
がちゃっ。
「おはよー。今日誕生日だよね?知ってるよ。」
「今日は確かに誕生日だけど・・・。忙しいからかまってあげられないよ?」
「ちがうちがう。知ってるんだよ。エナが今日旅に出るってこと。」
えっ?なんで知って・・・。
「カエサルぅー------!!!!」
つまりカエサルが口走ったってことだろう。そうとしか考えられない。
カエサルめ・・・。恨んでやるぞ・・・。
「でさ。前衛だけで旅はできないでしょ?だから私もついて行ってあげる。」
・・・仕方がないか。これも天命かと思う。
「いいよ。そのかわり!荷物持ちお願いね?」
「りょ!」
了解の意だろう。まあいいや。
がらがら。がらがら。
うるさい・・・。
「なんか忘れてるような・・・。」
15の誕生日。確か私は死んで・・・。
「あぶない!!」
どかっ!
友に押し倒された。
「いったいなあ・・・。なにすん」
「天空からギドをおろせ!ミソラシのギドから矢を射たまえ弓を構えろ!ギド!」
友が早口で炎魔法を唱えた。
どかん!!
「外した!エナ!剣は!?」
「一応帯剣してるけど・・・。なになに?」
!?。一瞬で悟った。剣を構えろと本能が言っている。
キン!ギギっ・・・!
友を庇って剣を抜刀した。
「ダレ!?フードを取りなさい!!」
すっ。
「いや、だれだよ!?見覚えないんだけど!?」
「・・・」
ざっ!!
瞬歩か!
キンッ!キンッ!
こいつ、うまい・・・不意打ちなんてする必要ないくらいに。
「目の前に大海を!メヲ!」
男を包むように水の塊が地面から染み出してきた。
「がぼがぼ」
「これであんし・・・。」
ばしゃあ!!
「けほっけほっ・・・。」
「なんで解除して・・・!」
後ろには胸を抉られた友がいた。
「・・・」
二人いた!?
ドカッ!
「三人・・・!!」
また死んだ・・・しかも今度は自分だけじゃなく。
三度目の死亡。15歳の誕生日の昼過ぎ。死因:撲殺。