私の弟が、素敵すぎる件について
最近、声優の内田姉弟(内田真礼さん・雄馬さん)のトークをYouTubeで聞いて癒されています。
そのせいか、姉弟がとてもうらやましい(特に弟が欲しくて!)という思いが日々溢れてしまい。
私なりの、仲良し姉弟(理想が結構混じっております)を書いてみました。
内田姉弟に似ているかどうかは・・・・・・皆さんのご想像にお任せします。
宇宙よりも広~い心で読んでくださると、とても嬉しいです。
「姉さん、髪の毛跳ねてるよ。」
「え? 今歯磨き中! でも、どこどこ~?」
声を掛けられ、慌てて自分の髪の状態をチェックしようとして手を伸ばそうとした時には、すでに髪にブラシとドライヤーが当てられていた。
「姉さん。これで大丈夫だと思うよ。」
適温のドライヤーの風、いい匂いのヘアーオイル、優しくそして素早く髪をセットしていく大きな手によって、あっという間に綺麗に整えられる私の髪。
満足のいく出来に仕上がったらしく、鏡越しにニッコリと微笑みかけてくる。
“イケメンの笑顔、今日もごちそうさまで~す。”
そう。
この春、突然私の弟になった彼は、長身痩躯で涼しげな目元が印象的な、整った顔立ちの和風イケメンさん。
「いつもありがとう。とっても助かるよ~。」
「こちらこそ。朝ごはん美味しかったよ。それと、毎日お弁当ありがとう。じゃあ僕、部活あるから先に出るね?」
「うん、いってらっしゃい。」
「いってきます。」
今日も一足早く、朝練のために出かけて行ってしまった弟の背中を見送り、私もエプロンを脱いで、学校へ行く準備を始めた。
高校受験合格発表の日。
お祝いにとても豪華な一流フレンチレストランを予約してくれた父は、その場に一人の美しい女性と、彼女によく似た涼しげな目元が印象的な、まるでモデルのようなお顔と体躯を持った、長身イケメンを連れてきた。
「父さん、こちらの澪さんと、結婚しようと思うんだ。」
突然の父の再婚宣言。
母が12年前に病気でこの世を去ってから、仕事一筋だと思っていた父は、娘の知らぬ間に1年もお付き合いをしている女性がいたらしい。
弁護士という仕事柄、全国を飛び回り出張の多い父とは、普通の家族よりは会話が少ないとはいえ、こんな重要なことはせめて早めに教えて欲しかったと思うのは、私の甘えなのだろうか?
「初めまして、史栞ちゃん。突然お母さんと弟ができるけど、これから時間をかけてゆっくりと、仲良くなっていきましょうね。」
髪を一つにまとめ上げ、眼鏡にスーツといったバリバリのキャリアウーマンな雰囲気の父の再婚相手は、何と同業者でもあった。
仕事柄トーク慣れしているのか、私が話しやすいようにいろいろと話題を振ってくれるので、その日の食事会はとても楽しかったのを覚えている。
そんな新しい母の隣で、見た目が大学生に見えるほどに大人びた私の弟となる彼=江君は、始終柔らかい雰囲気の優しい笑顔を向けながら、私たちの話を静かに聞いていた。
弟と言っても、学年は同じなのだけれど。
しかも4月から通う学校は、偶然にも同じなんだよね。
私が4月生まれで、江君は3月生まれだからという理由で、私が姉と言うことになったらしい。
「でも、学年は一緒なんだから。」
名前呼びでいいよって、そう言ったんだけど。
「“姉さん”って、呼ばれるのは嫌ですか?」
と、まるでご主人の帰りを待っている子犬のような、淋しそうな顔をするから。
「で、では“姉さん”で。」
ということで、今に至る。
私たちが4月から通う学校は、我が家から歩いて20分ほど。
一人でいつもの道を歩いていると、後ろからパタパタと足音が近づいてきた。
「おはよう、史栞。」
「おはよう、麗ちゃん。」
私の隣を歩く、キラキラと日の光を反射した綺麗な長い金髪をなびかせた、日本人離れした顔立ちの美人さんは、親友の高梨 麗ちゃん。
中学校からずっと仲良くしている、私の大親友である。
「今日は、隣町の業務スーパーが、いろいろと特売しているらしいよ? 学校帰りに一緒に行かない?」
彼女はそう言いながら、ドでかいしかも真っ赤な文字で“特売”と印刷された、いろんな品物と値段が載った1枚のチラシを鞄から取り出し、隣で広げて見せた。
麗ちゃんも元私と同じ父子家庭で、家に帰れば家事全般をこなさなければならないらしい。
まあ、その共通点があったお陰で、私たちは仲良くなったわけだけれど。
「え? そうなの?」
「ほら、ひき肉なんて100g 44円。それに玉ねぎは3個入りで50円。お風呂掃除用の洗剤だって、いつもの半額だよ? って、史栞の所はこの洗剤だっけ?」
「うん、一緒だから大丈夫。本当だ! 他にもブロッコリーに小松菜が安いね? えっと、タイムセールは5時から・・・・・・。」
そんな話をしていると。
「な~に朝っぱらから、主婦みたいな会話してんの? 俺ら、まだ高校生になったばっかだぞー!」
突然、後ろからパシンと、やんわりと軽く肩を叩かれた。
「痛ッ! コラ! 昴! もう少し優しくして! っていうか史栞、大丈夫? 痛かったでしょう? コイツ、〆る?」
そう言うと、麗ちゃんは後ろを振り返り、私たちを叩いた張本人を睨みつけた。
私の肩を叩いたのと同時に、麗ちゃんの肩も叩かれていたらしい。
でも音からして、麗ちゃんの方は強く叩かれていたような気が・・・・・・。
「オイオイ、冗談はよしてくれ! ゴリラみたいなお前の馬鹿力に、人間の俺が勝てるわけないだろうが! 第一、俺は佐倉さんには、優しくタッチしただけだぞ? ね? 佐倉さん。」
「は? 誰がゴリラだって?」
そう言って、麗ちゃんは目黒君に向かって拳を振り上げると、彼は両手でその拳を受け止める真似をする。
目黒 昴君は高校から一緒になったのだけれど、麗ちゃんとは生まれた時からのお隣さんで、幼馴染みだったらしい。
だから、二人はまるで兄弟みたいに仲がいい。
“家とは違った感じの、姉弟みたいに見えるんだよね。”
二人がじゃれあう様子を見て、いつか私と江君もこんな感じになるのかな? と微笑ましく見ていると。
「じゃあ、今日の放課後、荷物持ちとしてお供しましょうか? お嬢様方。」
突然、目黒君がそんな提案をしてきた。
「え? アンタ部活は?」
そう。
目黒君は、私たち帰宅部と違い、バスケ部に所属している。
中学時代、全国大会で上位で活躍した経験から、先輩たちにかなり期待されていると聞いている。
「あれ? 昨日のホームルームで、そっちのクラスでは言われなかったのか?」
「確か今日は、照明メンテナンスで体育館は昼から使えないって、話の事?」
「そうそう。ほら、佐倉さんはちゃんと聞いているのに、麗、お前は~。」
「わ、忘れていただけよ! そっか~、荷物持ちがいるのなら、たくさん買えちゃうね! 史栞。」
こうして私たちは今日の放課後、3人で隣町のスーパーまでお買い物に行くことになったのである。
放課後。
「タイムセールに遅れるから、早く来いって言ってあったのに!!」
麗ちゃんはスマホの時間を見ながら、足をタシタシ!!と、乱暴に地面へ叩きつけている。
「麗ちゃん落ち着いて。そんなことしたら、靴の底が減っちゃうよ?」
門前で、腕を組んで仁王立ちをした麗ちゃんを宥めていると。
「ごめんごめ~ん、ちょっと遅れた~。」
大きな声を出しながら急いで走ってくる人影は、2人分であった。
「あれ? 江君、部活は?」
そう。
なぜか目黒君と一緒に、弟の江君もこちらに走って来たのである。
「“姉さん”が、隣町に買い物に行くって聞いたから、荷物持ちをしようと思って。部長にはちゃんと許可は取ってあるよ。」
そう言って、私を心配させまいとしているのか、ニッコリと微笑んでくれた。
それにしても。
バスケ部で鍛えている目黒君が息切れしていないのは分かるが、まさか弓道部の江君もあんなに走って何ともないということに驚いた。
どうやら弓道部も集中力同様に、体力勝負の部活らしい。
「ありがとう。休日の買い物の時も、荷物持ちしてもらっているのに。平日までごめんね。」
私がそう言うと。
「何言っているの? 姉さんが家事全般をこなしてくれるから、母さんたちも安心して仕事ができるし、僕だって部活に集中できるんだから。これくらい当然だよ。」
本当に、出来た弟である。
今までは一人っ子だったからよく分からなかったけど、姉弟がいるってこんな感じなんだ~、と心の中で感動していると。
「プッ!」
「クッ!」
麗ちゃんと目黒君が、握りこぶしで口元を抑えながら、なぜか笑いをこらえているような?
「? どうしたの?」
あれ?
何か、笑いをこらえるような出来事があったっけ?
「きっと何でもないよ、姉さん。そうだよな? 二人共?」
江君は2人に対して、どことなく怒っているような・・・・・・。
なんだか、2人を睨みつけていませんか?
「とにかく。早くいかないとタイムセールに間に合わないわ。急ぐわよ!」
麗ちゃんの掛け声とともに、私たちは早歩きで学校を後にしたのである。
「江君、重くない? 私も少し持とうか?」
隣町の業務スーパーは、想像以上に本当にいいものがたくさんあった。
私も麗ちゃんも、ついついたくさん買ってしまったんだよね?
「買いすぎだぞ~。重て~よ! 少し持てよ、麗~。」
「やなこった~。言い出しっぺはそっちなんだから、頑張んな~。」
「じゃあ、晩御飯食わせて!」
「今日の手間賃に、それくらいはしてやんよ。だからガンバ!!」
結局なんだかんだ言いながらも、麗ちゃんの荷物は全部、目黒君が持っていたけれど、大丈夫なのかな?
対して、麗ちゃんと同じくらい買ってしまった私の荷物を持っている江君は、文句ひとつ言わずに、進んで買った物全てを持ってくれているわけで。
「このくらい、全然平気だよ? それよりも姉さん、もう少しそっちに寄らないと、危ないよ?」
見た目は細いのに、結構力持ちである。
というか、男の人って本当に力があって助かる。
私一人で来ていたらきっと、こんなに買う事は無いし、この半分の量でも辛かっただろうなあ~。
申し訳なくて、最初に半分持つと言ったのだけれど。
「それなら、僕の鞄を持ってくれる?」
と、私を気遣ってくれるその気持ち、お姉ちゃんはとても嬉しいです。
それに江君はいつも私に歩調を合わせてくれて、さりげなく道路側を歩いて私を守ってくれる。
本当に、出来た弟である。
「今日は江君の好きな、ハンバーグにするね?」
「ありがとう。すっごく嬉しい。」
そう言って微笑みかけるそのお顔、マジ尊いです!
家に着くと、私はさっそく制服から普段着に着替え、キッチンに立った。
すると。
「僕も手伝うよ。何をしたらいいのか教えて。」
私服に着替えた江君が、当たり前のように隣へやって来た。
「荷物持ちで疲れたでしょう? 江君は座って休んでいていいんだよ?」
私なりに、気を使ったつもりなのだけれど。
「僕が居たら迷惑?」
と、叱られてしょんぼりする耳の垂れさがった大型ワンコのような、そんな表情をされますと・・・・・・。
「そ、そんなことないよ? じゃあ、玉ねぎの皮を剥いてくれる?」
そう言って、3個入りを一袋差し出すと。
「了解。他にもする事があったら、どんどん言ってね。」
急に元気な声になり、疲れているはずなのに、とても楽しそうに玉ねぎの皮を剥き始めた。
江君は、ご両親が3年前に離婚して以来、我が家同様に出張などで忙しいお母さんの代わりに、家政婦さんの来ない日は家事を頑張っていたらしい。
だからなのか。
実は休みの日などは、こうして一緒にキッチンに立つことが多い。
私が洗濯をしていると、一人では大変だからと一緒に干してくれるし、乾いた洗濯物を取り込んだ上に、テレビを見ながら一緒に畳んでくれたりもする。
お掃除も、高いところは大変だからと、私の手が届きそうにないところは率先して綺麗にしてくれるし、重いものを持ってくれたりと常に一緒に作業をしてくれるので、とても助かっている。
こうして思い出してみるとこの4ヶ月近く、父と義母とよりも、江君といる時間がすっごく多い。
父と義母は、相変わらず仕事上出張が多いために、私達姉弟で留守番になることが結構多い。
現に今週も両親は出張につき、来週にならないと戻ってはこないのだ。
普通なら、同じ年の男の子と二人っきりなんて緊張してしまうけれど。
江君は、気配り上手で人懐っこいからなのか。
変に意識しないで済むから、とっても楽なんだよね。
その度に。
“姉弟っていいな~”
って思ってしまう。
ご飯を食べ終えて、私が食器を洗っていると、隣で食器を拭いて片付けてくれる江君。
疲れているのに、本当に働き者だなと思っていると。
その後、ソファーに座って一緒にテレビを見ていたら。
「? 江君?」
ふと気が付くと、膝の上に重みが・・・・・・。
テレビ画面から視線をずらせば、私の膝の上に頭を乗せてスヤスヤと小さな寝息を立てている、無防備な江君が見えた。
「疲れたよね? お疲れ様~。」
起こさないように、小さな声でお礼を言う。
お姉ちゃんぽく、江君の頭を起こさないように優しく撫でてみる。
「髪の毛、柔らか~い。」
触り心地が良くって、テレビを見ながらついつい撫でてしまった。
それから一時間後。
「え? あ、僕、お風呂掃除してお湯を溜めてくるよ!」
なぜか慌てふためいた江君が、ガバッと勢いよく起き上がったかと思うと、真っ赤になりながらお風呂場へと走って行った。
「え? 疲れているでしょう? もう少し休んだら?」
慌てて引き留めようとするも。
「いいよ~。僕がするから、姉さんはそこで休んでいて~。」
振り返ることなく、返事だけが聞こえてくる。
「本当に。うちの弟は優秀だわ。」
優しい弟に支えられて、今日も平和で楽しい1日を終えた私。
ずっと家族4人、姉弟仲良く暮らせるんだって、この時はそう信じていたのだけれど。
でもまさか、この後あんなことになるなんて。
この時は、夢にも思っていなかったんだよね。
~主な登場人物~
佐倉 史栞 主人公
佐倉 江 弟
高梨 麗 主人公の親友
目黒 昴 弟の親友